「深掘り! ICP* Session」は、「社内報アワード2022」のICP Sessionにご応募いただいた取り組みを、さらに掘り下げて聞き出す新シリーズ企画。現在ヤフー株式会社でインターナルコミュニケーションを担当される髙橋 正興さんが、インタビュアーとして鋭い現場目線で各企業の皆さんに迫ります。この企画で発信されるさまざまなナレッジは、企業の枠を超えてICP担当者のヒントとなり、自身の業務の価値を見直すきっかけとなるはず。ぜひ、あなたのモチベーションアップにお役立てください。
第一弾は、ファスニング事業をグローバルに展開するYKK株式会社で社内報を担当する菅野(かんの) 亜矢子さんです。菅野さんは、粘り強いチャレンジ精神で周囲を巻き込む行動力の人。意欲的な取り組みと全社員に向けた熱い思いを、編集チームの方のコメントを交えながら、2回にわたりお届けします。
*ICP(Internal Communication Producerの略。社内報をはじめとしたインターナルコミュニケーション施策を担当する方)
【Close up ICP】
YKK株式会社 黒部事業所
広報グループ
菅野 亜矢子さん
(かんの・あやこ/2016年からグループ報制作に加わり、社内報制作のいろはを学ぶ。社内での業務改善を機に2019年からは事業報を担当。「とりあえずやってみよう」をモットーに、話題と笑いを届ける社内報づくりにまい進中)
【インタビュアー】
ヤフー株式会社
コーポレートコミュニケーション本部
コミュニケーション企画室 リーダー
髙橋 正興さん
(たかはし・まさおき/2014年からインターナルコミュニケーション担当として数々の大規模な社内イベントを実施。プロデューサー、ディレクター、シナリオライターの1人3役をこなす)
YKK株式会社
事業内容:世界70以上の国/地域でファスニング事業を展開
創業:1934年
従業員数:約27,000人(YKKグループ全体従業員数:44,100人)
URL:https://www.ykk.co.jp/japanese/
YKKのインターナルコミュニケーション
●紙社内報『One』
2021年にリニューアル発刊。全社員参加型の企画を重視し、社内の相互理解を図る。
2022年にグループ方針により紙媒体を廃止し、PDF版に移行(一部、製造現場向けに印刷して配布)
創刊:1993年
発行部数:1,300部
ページ数:12~16ページ
発行サイクル:季刊
対象読者:正社員、契約・派遣社員
●動画社内報『One Channel』
社長と社員、国内と海外など、双方向コミュニケーションを図る動画を制作。事業戦略に沿ってサステナビリティを社内に浸透させる企画も。
発行サイクル:月2~3回
主なコンテンツ:「おしえて!大谷さん」「知りたい!海外初赴任生活ショートムービー」「3分でわかるYKKのサステナビリティ」
トップの言葉で社内報のリニューアルを決断
これまでの取り組み
■ グループ報とは別にファスニング事業向けの社内報(事業報)を制作
■ 2018年度、年間ファスナー販売数量100億本達成を前に「海外だとカウントダウンとかで盛り上がるが、日本はそうならないね」と語った社長の言葉を重く受け止め、従来の社内報『ファスニング広場』を見直し、以下の改善課題を抽出する
① 社員の登場が少なく相互理解が生まれにくい
② 商品情報が中心で社員のモチベーションアップにつながらない
③ 編集者ごとに担当ページが割り振られ、誌面の統一感に欠ける
↓
黒部事業所 広報グループが制作の主幹となり下記2点を実施
● 2021年度に誌面を刷新。新生社内報『One』で積極的に社員を登場させて反響を呼ぶ。
● 動画社内報One Channel』を制作。社員と経営陣、国内と海外など双方向のコミュニケーションを図る。
↓
2022 年度、全グループで紙媒体の配布が中止に(一部継続)。PDF版『One』の閲読率を高めるためチャレンジングな「中吊り広告」を制作し、注目を集める。
新しい体制づくりにはさまざまなご苦労があったことと思いますが、社内報のコンセプトを見直すにあたって、最も重視したのはどんな点でしょうか。
菅野:以前の社内報はファスニング事業本部向けに作られた媒体で、他部署にはあまりなじみがありませんでした。そこで『One』では、部署を問わず誰でも出られることを重要なコンセプトの一つに掲げました。各部署に取材対象者の人選を依頼するときも、年代やキャリアに加えて、「一度も出たことがない人」を条件にしています。新しい人が出れば周りの人は関心を寄せてくれますし、自分の部署が登場すればモチベーションが上がり、それが波及して他の部署に声がけしてもらえます。そうやってどんどん新しい領域を開拓して、社員みんなに愛される社内報にすることを目標としました。
熊谷:『One』は現場の人が主役です。特に、普段あまり注目されない部署を採り上げたときは、とても喜ばれます。編集員や通信員、取材した人たちの口コミによって社内報のファンが育っています。
鵜野:私が所属する開発部門では、よくグループ報に登場する人がいます。なので『One』では、あえて別の人を紹介するようにしています。私も知らないような商品開発の情報を、多くの人に提供して喜んでもらいたいですね。『One』は誰でも気軽に参加でき、自分の思ったことを言えるところが魅力です。
菅野:社内アンケート結果を見ると、昨年度と比べて今年度は、社内報への期待や要望が主流になりました。以前は取材を断られることもありましたが、今は声をかけてもらえて光栄だと言ってもらえます。他部署のことがわかるようになり、社内報が情報ツールとして役に立つという声をもらうと、私たちの活動が認められ、社内に浸透してきた実感が得られますね。
『One』では、編集員の他にも通信員を各部署から選出されているそうですが、これはどんな役割のメンバーですか。
菅野:通信員は技術系の部署なども含め約20部署に配置し、会社全体の情報にアンテナを張ってすぐにキャッチアップできる仕組みづくりをしています。通信員には、各職場で『One』発刊後の感想や新たなネタ候補を、月に一度提出してもらっています。取材の人選や、取材場所の手配を頼むこともあります。通信員は本業との兼務なので、なるべく負担をかけたくないのですが、皆さん進んで協力してくれて、とても助かっています。編集員の橋本も通信員を経験しており、私とは違う視点で企画を考えたりアドバイスをしてくれたりするのがありがたいです。
橋本:菅野は取材のねらいを直球で伝えてくれるので、自分がどう動けばいいかが明確で、モチベーションが上がりますね。編集員の私も社内報のネタ探しをしますが、各部署の同期の仲間にどんな取り組みをしているか尋ね、人を紹介してもらうことが多いです。普段の会話の中で「それ社内報のネタに使わせてもらうかも」と打診をしています。
菅野:自分の職場では当たり前のことも、他部署の目には違って見えることってあるんですよね。だから皆さんには「特別なネタではなく普通の話でいいんですよ」と伝えています。また、通信員に学んでいただく機会も提供しています。2019年までは毎年本社に外部講師を招いて社内報の勉強会を行っていました。コロナ禍では、文章の書き方を教える勉強会を私自身が開催したこともあります。
それは通信員の皆さんのモチベーションアップにつながりますね! リモート化・デジタル化が進む昨今、御社では2022年度に『One』がPDF版に切り替わったとのことですが、現在PDF版の閲覧数はどのくらいですか。
菅野:パソコンでの閲覧が可能な社員は、PDFで、それが難しい製造現場社員には、紙媒体と環境によって配布方法を変えています。国内勤務者約5,000人が対象ですが、『One』用イントラネットへの登録者(イコールPDF希望者)は、現在約2,500人です。社内アンケートでは、PDF版ならいつでも読めると喜ぶ声もあれば、手元にないと読むのを忘れる、家で読めないのが残念という人もいました。これは大きな課題で、PDFの読者が離れるのを食い止めるために、継続的な対応策を進めているところです。
「中吊り広告」でPDF版の閲読率を大幅にアップ
ファーストコンタクトで仕掛ける「中吊り広告」
PDF版になって「読み忘れ」が増えたことを問題視。強く印象付けるために各号の「中吊り広告」をメールに添付して配信。予想を上回る反響が得られた。
記事の内容を「中吊り広告」風にして読者の興味をひくというのは面白いアイディアですね。チャレンジングな試みで、編集部内でためらうメンバーもいたとのことですが、実現までのストーリーをお聞かせください。
菅野:分かりやすく「中吊り広告」と呼んでいますが、実際にはメールに添付する画像です。『One』の案内メールを配信する際、テキストだけでは印象に残らないので、各号の企画と人物写真を載せた「中吊り広告」でビジュアルインパクトを与えようと考えたのです。そこに知っている人の顔があれば読む人が増えるだろうと。
熊谷:正直に言えば、鵜野と私は当初戸惑いました。中吊りは大衆誌のようで印象がよくない、と思ったのです。しかし菅野は「大衆誌ではなくビジネス誌だ」と(笑)。チームで意見を聞くと、賛否はほぼ半々。責任者としてはとても悩みましたが、読者を増やすという目標はみんな同じですから、最終的に「やろう」と決めました。結果的に社内の反応は良く、閲覧回数も大幅にアップしました。
菅野:押し切るには勇気が要りましたが、目的は中吊り広告を出すことではなく、社内報を読んでもらうことです。その仕掛けとして思い切った告知方法をしてみようと。悪目立ちしてもクリックしてもらえればこちらの勝ちですから。失敗すれば原因を分析して改善すればいいし、何も手を打たなければ前に進めません。
いさぎよい! それは周囲からの逆風に立ち向かう多くの社内報編集者たちも、勇気をもらえるお話ですね。
社員からの質問で、社長の素顔を伝える
動画社内報『One Channel』
社内報『One』とともに生まれた動画コンテンツ。主な内容とねらいは3点。
① 「おしえて! 大谷さん」
社員と経営の双方向コミュニケーションを図る一般社員参加型企画
② 「知りたい!海外初赴任生活」
海外の現状を伝えるショートムービー。通信員の発案による誌面連動企画
③ 「3分でわかる YKK のサステナビリティ」
身近な事例でサステナビリティの浸透を図る。英訳版は海外・社外でも活用
『One Channel』という動画コンテンツも制作されていますね。「おしえて! 大谷さん」という企画では社員の方が大谷社長に質問をしていますが、質問の内容は、質問者が考えたものをそのまま使うんですか?また、社長ご自身が答えを考えるのでしょうか。
菅野:社員の皆さんに2、3の質問を用意してもらい、編集部では内容が被らないようにする、言葉遣いなどを直す、程度の調整のみで、やらせは一切ありません。プライベートな質問もOKです。大谷にも事前に質問項目を渡し、答えを考えてもらいます。若い人は動画に出ることに抵抗がなく、「社長からメッセージをもらえた」と喜んでくれますし、社長の素顔が垣間見え、毎回番組を見るコアなファンも育っています。一つだけ、質問者に出す条件があり、それは「大谷社長、教えてください」と、必ず社長の名前を呼んでもらうことです。同様に、社長にも社員の名前を口にしてもらっています。「あなたに尋ねます」「あなたに伝えます」と互いの思いを交わす往復書簡みたいにやりましょうと。
名前を呼びかけてもらえるのは、つながりを感じられてとても嬉しいですよね。ところで、動画の背景が毎回変わってるようですが……。
菅野:本社の会議室や黒部事業所など、毎回変えています。「ここはあそこのビルだ」と興味を喚起し、自分たちが働く場所だとわかると喜んでもらえるのです。『One Channel』は、本来は2週間に1度の配信でしたが、コロナ禍で撮影ができず何カ月か空いてしまいました。今は再度スケジュールを組み直しているところです。
インターナルコミュニケーションの新たな取り組みとして、イベントや動画といった異なるメディアを複合的に組み合わせることはお考えですか。
菅野:「YKKデジタルショールーム」というお客様向けのWebサイト担当者と連動企画をつくる話が進んでいます。以前、社内報で著名な若手デザイナーを取材した際に、「このサイトでも著名人のインタビューを載せたいので力を貸してほしい」と相談を受けたことがきっかけです。ちょうど私たちも「社内報をオープンにして、外部の人がYKKに興味を持ってほしい」と考えていたこともあり、協働しようと。社内報のオープン化には制約事項もありますが、できる範囲で、他の媒体や企画と連動した新企画を始め、インターナルコミュニケーションの活性化につなげたいと思っています。
社外に向けた広報と社内向け広報とが協働できるのは理想的な形ですね。それは楽しみです!
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