グローバルかつ多角的な事業展開で酒類飲料業界をリードするサントリーホールディングス株式会社。国内外に約400社のグループ会社を擁する同社では、拡張し続ける組織と人を一つに束ねるため、古くからインターナルコミュニケーションに力を入れています。その中心は、創刊から85年続く社内報『まど』。今回は、サントリーのDNAの継承に多大な貢献を果たしてきた同誌の編集方針と制作陣が冊子に込める思いに迫りました。
時代が変わっても変わらない『まど』の使命
今年創業120周年を迎えたサントリーホールディングス。社内報は1934年に創刊、現在の『まど』という誌名とロゴは1955年から続いています。長い伝統を誇る同誌ですが、もう一つ、変わっていないのが編集方針です。
「サントリーが大事にしている思想(DNA)の伝達と、サントリーグループの一体感の醸成、この2つを伝え続けるという方針は一度もブレたことがないですね」
と話すのは、『まど』の制作に携わって約2年の片岡 亜紀さん。
サントリーのDNAとは、チャレンジを良しとする「やってみなはれ」精神。
「創業時から受け継がれるこの言葉は、社員一人ひとりが挑戦することの大切さを端的に表すもの。サントリーの創業精神であり、今に続く経営方針そのものでもあるのです」
一方の「一体感の醸成」は、「ONE SUNTORY」というキーワードで表現されます。
「グループ会社は世界各地に広がり、業務も多岐にわたりますが、それぞれの強みを掛け合わせることでシナジーを創出しようという意味が込められています。特に “横の結びつき”や“一丸となって”、という部分は重要視していますね。
対談などもグループ内でさまざまな会社や部署の人を組み合わせるなど横断的に、また営業や生産など、部門のバランスも見ながらできるだけ多様さを出すように注意しています」
トピックスの発信はWebでタイムリーに
変わらない2つの方針を、手を替え品を替え、繰り返し伝え続けることで浸透を促す。それこそが、「歴代の編集者に受け継がれてきたミッション」だと語るのは、同じく編集歴2年の臼杵 志衣奈さん。
「普遍的な方針だけに読者の興味を惹きつけるには少しずつ切り口や角度を変えることが重要です。今このテーマを取り上げる意味は何なのか、そこを徹底的に掘り下げ、時流に合わせたトピックと掛け合わせる形で表現するようにしていますが、読者の共感を呼ぶ事例をピックアップすることには毎回苦心しています」
と、苦労している点を話します。
現在の発行頻度は年5回。かつては月刊でしたが、約10年前から始めたWebメディアとすみ分ける意味で、発行回数を減らしました。Webメディアは、イントラに掲載している『e-まど』と、英語の『Global MADO』、会長と社長それぞれのホームページの計4つ。
「『e-まど』は『まど』からは独立した投稿型のメディアで、週2回、記事を毎回5本ほど投稿しています。各部署が自由にニュースやトピックスを投稿できますが、掲載のタイミングや校正は、広報部が統括しています」
と片岡さん。また、会長と社長のホームページ(臼杵さんが担当)では、経営方針やメッセージを随時発信しています。
外注はデザインのみ、6人で手分けして編集を担当
冊子版『まど』の編集体制は、6人。毎号特集にはリーダーとなるデスクを一人置き、取材・執筆などの作業は全員で分担しています。撮影もごく一部を除いて社内でこなしているとか。
「毎年秋に翌年の特集を決める会議を行い、全員で議論を重ねて決定します。また連載はそれぞれにデスクを付け、別に年間を通じてバランスを見る担当も置いています」
と、分担について説明する臼杵さん。取材に出向くのは基本一人。取材も撮影も一人で行うため、企画内容や見せ方ついては取材前にメンバー全員で細部まで詰め、ラフもきちっと固めておくそうです。
また、デザインのみ制作会社に依頼していますが、編集会議で編集意図を伝えているため、 意思の疎通もスムーズだといいます。
「編集会議にはデザイナーにも入ってもらい、編集側の狙いや思いを伝えるようにしています」
と片岡さん。デザインで印象的なのが、号ごとに大胆に変わる、グループ内のデザイン会社が担当する表紙。
「毎回大きく違うのは、担当するデザイナーが変わるから。特集に連動する形でデザインを考えてもらうのですが、それぞれの個性が出て、私たちも楽しみにしています。また、目次のスペースに顔写真入りでデザイナーを紹介し、デザインの意図をコメントしてもらっています」
とはいえ、『まど』はあくまで読み物という位置づけ。「読んでもらうことに主眼を置いている」と強調する片岡さんは、そのために意識していることについて、
「焦点を当てるのは、人と現場。どんな事柄を取り上げるにしても、裏にあるストーリーや思いを表現するように心掛けています」
と語ります。
「グローバルな情報発信」と「デジタルとの連動」が課題
「読む」情報源としてすっかり定着している『まど』ですが、昨年から新しい試みとして、海外情報を積極的に取り入れるようにしているそうです。
「海外の商品や拠点が増え続けているためか、海外の情報が知りたいという声を多く受けてです。以前から駐在員が現地の情報を発信するコーナーはあったのですが、それとは別に海外関連の企画を最低一つは入れるようにしています」
と臼杵さん。スペインまで取材に赴いた工場紹介やオーストラリアの空港でのプロモーション風景を取り上げた企画は、予想以上に反響が大きかったとか。
また、今後チャレンジしたいこととして、「デジタルとの連動」を挙げてくれました。
「時流的にも、読む手段を増やすという意味でも、デジタルの活用は不可欠。先日、スペインの工場企画で、現地で撮影した動画をイントラで流し、冊子に誘導するという試みを初めて行ったのですが、好評でした。動画は現場の臨場感が伝えられる媒体。紙を大切にしながらも、こうしたデジタルでのチャレンジを少しずつ増やしていけたらと思っています」(臼杵さん)
この先目指す方向性として、「伝統と革新」の言葉を挙げたお2人。サントリーのDNAを次世代に引き継ぐべく、広報部の挑戦は続きます。
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社内報『まど』
創刊:1934年
発行部数:17,000部
仕様:A4版、4色、30ページ
発行頻度:年5回 - 会社情報
URL: www.suntory.co.jp
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