こんにちは、tomです。今回は、前職の音楽専門誌編集の現場で実際に経験したエピソードをご紹介します。
社内報づくり初心者が陥りがちな「強調」のワナ
ディレクションと編集を担当した制作物で、デザインを組んだ後の修正過程にて、こんなことがありました。校正が進むたびに、本文テキストの至る言葉に「ここはQ上げ(文字サイズを大きくすること)」「太字・色文字で目立つように」「マーカーで色を載せる」といった、文章の強調を指示する赤入れが目立つようになり、完成形ではかなりの部分が並字(書体や色、サイズなどが特殊ではない、通常の文字のこと)ではなくなってしまったのです。
強調が増えすぎて、どこが本当に大事なのかがわかりづらくなってしまう現象。
これが「強調しすぎの平坦化」です。誌面がガチャガチャする見栄えの問題に加えて、読者はここから何を読み取るべきなのか、いわば文章の主題が埋もれてしまうのではないかと、ディレクターの私は心配になったものです。
これを何かにたとえるなら、蛍光マーカーで線を引きすぎて、どこを覚えればよいのか分からなくなった参考書のようなもの。また、テレビで耳にするヒットソングも、全篇がハイテンションなサビだけで構成されていたら、かえって曲の印象がぼやっとしてしまいますよね。
もちろん、貴重な誌面を割いて載せる言葉には無駄なものなどなく、その大部分が強調に値するという考え方もあるでしょう。しかし一方で、文章の中から最も大事なメッセージをすくい上げ、分かりやすくエディットして読者に伝えるのが編集者の務め。伝えるために施したはずの工夫が、肝心なメッセージを覆い隠してしまうようでは、残念ですが本末転倒と言わざるを得ません。
強調したいときこそ「引き算」で考える
このような強調の多用は、社内報づくりの現場でもしばしば見られることです。なにもデザインを組んだあとの工程に限った話ではなく、生原稿(Wordやシンプルテキストなどの状態)の段階でも、そうした傾向を見て取れる場合があるのです。
やりすぎ注意! ①:カギカッコの多用
やりすぎ注意! ②:難しい熟語・漢字表記の多用
自分の文章が「やりすぎかな?」と思ったら、①では不要なカッコを外したり、②では軟らかい言い回しに置き換えたり、少し要素を間引いてみましょう。強弱や抑揚が付き、ぐっと読みやすくなるはずです。
いずれにせよ、不要な強調を避けるためには「この文章で最も伝えたいメッセージは何か」を常に明確に持ち、原稿整理のブレない軸に据えることが大切です。
その上で、メッセージを理解してもらうために役立つ言葉ならば強調するべきですし、それ以外は並字のままで現状維持か、いっそカットしても差し障りはないかもしれません。ポイントは客観的な視点で文章を捉え、判断に迷った時こそ引き算で考えることです。
「その強調、本当に必要ですか?」
こうした視点で文章を見直してみると、きっと新たな気付きや学びがあるはずです。