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読めない人をゼロに! 6言語発信に挑む(ポリプラスチックス株式会社)

ポリプラスチックス株式会社 事業支援本部 総務部 CSRグループの阿部泰和さん(右)、芥川亜美さん(中央)、柳原靖世さん(左)
ポリプラスチックス株式会社 事業支援本部 総務部 CSRグループの阿部泰和さん(右)、芥川亜美さん(中央)、柳原靖世さん(左)

グローバル化がますます進行する中、インターナルコミュニケーションにおいてもグローバルへの対応を模索する企業が増えています。冊子で日英併記にする、日本語版に加え英語版・中国語版を発行する、アクセスしやすいWeb社内報で多言語化する、日本とは別に各拠点から独自の情報発信をする、などなど、さまざまな手法が見受けられますが、どうすれば一番効果的なのか? 最適解を求めて試行錯誤する企業は少なくありません。

今回は、6言語に対応したWeb社内報『P-Mates』を発行するポリプラスチックス株式会社を訪問。世界13の国と地域に、計32拠点を展開する同社のインターナルコミュニケーション戦略について、お話をうかがいました。

感染対策をしながら取材しています

※緊急事態宣言は解除されましたが、新型コロナウイルス感染対策をした上で取材を行いました。撮影時のみ、マスクを外していただき、取材者側は常にマスクを装着しています。

時代に合わせて、紙からWebに移行

 ポリプラスチックスは、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)と呼ばれる高機能合成樹脂を製造する専業メーカー。一般的な汎用プラスチックに比べ、機械的強度や耐熱性、耐薬品性などに優れたエンプラは、自動車から家電製品、食品パッケージにいたるまで幅広いものの部品の原料として使用され、現代のものづくりに欠かせない素材となっています。

 創業は、1964年。日・米の総合化学会社、アメリカ・セラニーズコーポレーションと大日本セルロイド株式会社(現・ダイセル)の合弁会社としてスタートした同社は、国内製造の拠点として富士工場を設立。その後1980年代後半から2000年代にかけて、台湾、シンガポール、タイ、マレーシア、中国、インド、とアジア圏にネットワークを拡大、2012年からはドイツやアメリカ、メキシコにも進出しています。

 こうした経緯から、1998年にスタートした社内報も当初から英語版での発行でした。

「当時はもちろん紙です。まさに英字新聞のような体裁で、その時代としては先進的でおしゃれな社内報だったと思います」

 と振り返るのは、インターナルコミュニケーションのリーダーを務める阿部泰和さん。

 スタートから5年後の2003年には、紙からWebに移行。事業の海外展開の加速に合わせての変更ですが、当時の日本では先鋭的な取り組みでした。

「発行当初は、英字新聞のような社内報でした」(阿部さん)
「発行当初は、英字新聞のような社内報でした」(阿部さん)

リニューアルで希望した、13の課題の解決

 しかし、閲覧率は思うように上がらなかったといいます。デザインやコンテンツがごく一般的だったことや見やすさに欠けていたことを反省し、何度かリニューアルをしますが、それでも低迷から抜け出せません。

 考慮の末、問題の一つとして浮上したのが、英語のみでの発信だということでした。

「海外の生産拠点が増えるにつれ、現地採用の方々の比率がどんどん上がっていったのですが、彼らの母国語はそれぞれの現地の言葉です。特に工場で働く人は英語が読めない人がほとんど。その頃ちょうど別件で世界の拠点を回る機会があって、現地でもヒアリングしたのですが、やはり長文の記事となると『英語で読むのはつらい』という声が多く、現地の言語に対応していかないと、という思いを強くしました

 と語るのは、阿部さんとともにインターナルコミュニケーションを担当し、リニューアルの立役者となった芥川亜美さん。

「現地の言語に対応することが不可欠だと実感しました」(芥川さん)
「現地の言語に対応することが不可欠だと実感しました」(芥川さん)

 そこで2019年、大々的なリニューアルに踏み切ることに。コンペに参加した制作会社に依頼したのは、以下の内容になります。

リニューアルにあたっての13のポイント

① 6言語に対応(ベースは英語で、日本語、中国語の簡体字、繁体字、ドイツ語、マレー語の5言語に、記事ごとにボタンで切り替え。※日英以外の言語は、工場のある現地語

 

② 海外テイストのデザイン

 

③ ランキング機能

 

④ ピックアップ機能(読んでほしい記事をプッシュ)

 

⑤ いいね!機能

 

⑥ 執筆者の写真とプロフィールを掲載

 

⑦ 編集者のブログ機能

 

⑧ 読者の投稿を可能に(双方向コミュニケーション)

 

⑨ プリントアウト機能(PDF化)

 

⑩ スマートフォンでも閲覧可能

 

⑪ 画像の加工が画面上で簡単にできること

 

⑫ 動画の閲覧が可能

 

⑬ Googleアナリティクスの導入

デザインコンセプトは、「親しみやすくカジュアル」

 最優先課題の6言語化をはじめ、やりたいことをすべて詰め込んだ機能充実の仕様。なかでもこだわったのが、デザインです。

親しみやすく読みやすいイメージにしたくて、色使いはクリーム色をベースに、コーポレートカラーの赤を少し落ち着かせたワインレッドを利かせています。記事の内容は硬くなるときもあるので、見た目は柔らかくすることを意識しました。写真の角を丸くしてもらったり、可愛い鳥のイラストを載せてもらったり、細かい部分でもカジュアルさを打ち出しました」

 と、芥川さん。

 また、パソコンを持たない人が多い工場においては紙でプリントアウトして掲示することもできるよう、きれいにPDFに出力できること、PDCAサイクルがきちんと回せるようにアクセス解析ツールを実装することも重視したポイントでした。

 こうした要望をすべて叶えてくれる制作会社としてウィズワークスを選定。CMSを導入したWebサイトの制作を依頼し、記事の制作や更新は自分たちで行うことに。更新頻度は定期号を3カ月に1回、またタイムリーに配信したい情報は随時タイムリー号として更新しています。コンテンツのコーナーは以下の4つです。

『P-Mates』の4つのコンテンツ

① Special(特集。全社に関わるテーマを設定)

 

② Updates(ニュース。現地レポーターからの発信)

 

③ Culture(現地レポーターからの投稿。各地の文化の違いが出るテーマを毎回設定)

 

④ Share(全従業員が参加できる「自由で、遊べる」投稿コーナー。毎回、親しみやすいテーマを設定。写真にコメントを添えて投稿してもらう。鮮度重視のため、英語対応のみ)

4つのコンテンツを軸にさまざまな情報を展開
4つのコンテンツを軸にさまざまな情報を展開

現地レポーターの作業を「業務」に組み込む

 制作体制は、国内の編集委員5人(本社CSRグループ3人と富士地区2人)と海外の現地レポーター15人。まず、編集委員5人で編集会議を開いて特集の企画や3、4のテーマを決定した後、国内の取材や執筆は編集委員で手分けして実施。海外の記事は現地レポーターに依頼します。

現地の方の投稿記事

海外の拠点の方から投稿される記事も人気コーナーのひとつ
海外の拠点の方から投稿される記事も人気コーナーのひとつ
投稿してくれた方については、プロフィールも表示されます
投稿してくれた方については、プロフィールも表示されます

 現地レポーターは、リニューアル以前より各拠点のスタッフ部門から人選していますが、リニューアルと併行して変更した点があります。それは、業務として取り組んでもらうようにしたこと。

「以前は業務外の作業だったので、記事の集まりも悪い状態でした。片手間でやるのですから当然です。そこを変えるために、このP-Matesのレポーターという役割を正式な業務として彼らの目標に組み込み、評価してもらうようにしました。これは言うほどたやすいことではなく、前述した世界一周の際に、これを機に『グループとしての双方向のコミュニケーションチャンネルを確立するつもりだ』ということを各法人のトップにきっちり説明したからこそできたこと。おかげで、記事の質も量もぐんと上がりました」

 と、阿部さん、芥川さん。

 現在は、芥川さん含むこれまでのP-Mates担当者が確立してきた現地レポーターとのネットワークを1年前に他メーカーの広報から中途入社した柳原靖世さんが引継ぎ、彼らとのやりとりを担当しています。

 この仕事に関わるようになって、最初は「この言語数でこんなに大量の情報を発信していることにすごく驚いた」と言う柳原さんですが、いまでは「とても楽しく、やりがいを感じている」と話します。

「現地レポーターには記事を書いてもらうだけでなく、各拠点の皆さんに読んでもらうための告知やプッシュをお願いしたり、翻訳のチェックをしてもらったり、いろんなお願い事をするので、コミュニケーションを密に取るようにしている」とのこと。

 芥川さんも「現地レポーターとはとても良い関係性が築かれていると感じます。やはり良い社内報を作るために最後にものをいうのは、人の力。改めてそう実感しています」と、力を込めます。

「現地レポーターの皆さんには多方面で協力してもらっています」(柳原さん)
「現地レポーターの皆さんには多方面で協力してもらっています」(柳原さん)

ボタンひとつで6言語対応

青く囲ってあるボタンをクリックするだけで、記事が6言語に瞬時に翻訳されます。これも現地レポーターに翻訳のチェックを協力してもらっているからこそ、実現可能に。

アクセスデータを注視し、常に改善!

 気になる閲覧率は、リニューアル直後から上がり、現在は概ね40%台後半で推移しています。「もともと目標にしていたのは、成功のベンチマークと言われる30%(3人に1人は見る)なので、今のところ順調と言えます」と、阿部さん。

 閲覧率はサイト全体だけでなく記事ごとにも算出し、それをもとに、常に改善に努めているのも『P-Mates』の大きな特徴です。

「現地レポーターの評価にも直結するので、定量化はすごく気にしていますね。もちろん本人やその上司にフィードバックもしています。毎回反省会を開いて、閲覧率が低い記事の原因を分析して対策を練っています」(芥川さん)。

あまり伸びていない記事は“ピックアップ”という固定表示できるところに持ってきたり、現地レポーターに拠点内でのリマインドをお願いしたり。場合によっては、現地レポーターに直接「なぜ低かったのか」と尋ねてみることもあります。すると、工場でトラブルがあったとか、繁忙期だったとか、意外な原因が判明することも。そうした細かいフォローも欠かさないようにしています」(柳原さん)。

中計浸透企画は、社内で認められた証し

 制作陣が社内での存在感が増してきたのを感じたのは、アベレージで40%を超えたあたりから。他部署からの「社内の情報インフラとして活用したい」という依頼が増えてきたのです。

 特に、経営企画部から持ち込まれた、エンゲージメートサーベイの結果数値の改善のために中期経営計画の浸透企画を『P-Mates』で実施したいという相談は、CSRグループとしてとても嬉しい出来事でした。

チャンネルとしての価値を認められたということですから。会議などの場で、『そろそろコミュニケーションツールとして使いませんか?』という提案はさりげなくしていたのですが」と、笑顔を見せる阿部さん。

 この企画は全10回の特別連載で、毎月タイムリー号として更新しています。現在も連載の最中です。

中期経営計画の内容について役員が一人ずつ自分の担当本部で取り組むことや、思いやビジョンを語るという内容ですが、閲覧率は非常に高く、場所によっては、70%以上の数字を叩き出したところも。普段タイムリー号は鮮度重視のため、日英の2言語のみで素早く発行するようにしていますが、この特別号は現地レポーターのお力も借りながら6言語でスピーディーに発行できるようにしています。その効果は十分出ていますね」(芥川さん)。

中期経営企画に関する連載は、閲覧率も高く、『P-Mates』の価値が認められた証明となりました
中期経営企画に関する連載は、閲覧率も高く、『P-Mates』の価値が認められた証明となりました

動画とスマホ対応で、さらなる高みを目指す

 こうした鮮度勝負のタイムリー号をもっと増やしていきたいというのが、これから取り組みたい課題でもあります。

「翻訳の工程があるので、どうしても時間がかかってしまうのですが、やはり随時更新こそがWebの魅力なので。速報性重視のニュースはタイムリー号とし、そうでない記事を定期号にするなど、更新頻度は意識して増やしていきたいです。多言語とクオリティは維持しつつ、スピード感を持って情報提供できるように頑張ります」と、今後の抱負について話す阿部さん。

 芥川さんも同意するようにこう語ります。

「質の向上という意味では、コンテンツごとにターゲットを定めて、そこに刺さる内容を届けられるようにしたいです。今も『こういう内容の記事をアップしたらこういう拠点のアクセスが上がる』といった傾向はうかがえますが、もっと確度の高い法則のようなものを見つけたい。それで、もっと戦略的に企画を考え、発信できたらいいなと考えています」。

 一方の柳原さんは、「閲覧率のさらなる向上」を課題として挙げます。

「ずっと英語でやってきたせいか、他の言語のページは、まだ周知が足りていないように感じます。翻訳にかかる手間や工数の割には閲覧率が物足りないので、『現地の言語で読める』ということをもっと広めていきたいと思います。そうすれば、数字も自然に付いてくると思っています」

 さらに、3人が共通してチャレンジしたいと考えているのが、動画とスマートフォンでの閲覧。

「実はリニューアルで予定していた内容の中で、唯一実行できていないのが動画での配信です。サーバーへの負荷の問題で会社としてまだ取り組めない状態なのですが、世の中の動向的にもそろそろ解禁したいな、と思っています。あとは、スマートフォン対応ですね。こちらは社外からでもアクセスできてしまうという意味でセキュリティ面の問題をクリアしなくてはならないと思いますが、閲覧率をさらに上げる切り札はやはりスマホだなと感じます。この2点に早急に取り組みたいです」

 と、力強く語る阿部さん。

 今後は、アメリカやヨーロッパへの本格的な事業展開が予定されているというポリプラスチックス。世界の隅々まで鮮度の良い情報を届けるために、3人の飽くなき挑戦は続きます。

動画やスマホ閲覧導入を視野に、『P-Mates』を更に発展させていきます
動画やスマホ閲覧導入を視野に、『P-Mates』をさらに発展させていきます

 


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