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インターナルコミュニケーションを積極活用し、コロナ不況を勝ち抜く

リーマン・ショック並み、またはそれ以上とも言われている新型コロナウイルス感染症による経済的打撃。「自社は大丈夫なのだろうか?」「仕事はどうなる?」「生活は……?」と、不安を感じている人は多いことでしょう。

そんな時だからこそ、企業はインターナルコミュニケーションを駆使してエンゲージメントを強化し、社員のモチベーションを支えることが必要です。

弊社主催のセミナーで講師を務めるヤマハ発動機株式会社の山下 和行さんは、リーマン・ショック後の厳しい状況から業績を立て直す過程で社内報の改革に取り組み、目覚ましい成果を上げました。その山下さんに、インターナルコミュニケーションとモチベーション、エンゲージメントの関係について伺いました

戸惑いながらも社内報担当になり、4年で大変革を成し遂げる

 まず、山下さんのこれまでの活動をご紹介しましょう。

 山下さんが社内報担当を命じられたのは、2014年11月末のこと。突然の話にひどく戸惑いながらも、「今の社内広報、特に社内報を変えたい」という熱心な説得でスイッチが入り、翌2015年から約4年にわたり、ヤマハ発動機のインターナルコミュニケーション全体を大改革。目覚ましい功績をあげ、インターナルコミュニケーション・プロデューサーとして名をはせるようになりました。

 社内報担当としての最初の1年間は、紙の社内報のマイナーチェンジにとどめ、2016年からの本格的な大改革に向けての準備期間とし、下記に取り組みました。

【大改革に向けての準備】

  •  社内報の発行目的の再設定
    「社内報は経営と社員をつなぐものである」
  •  社内調査
    ◇グループインタビュー:社内報の閲読率が低い若手社員に絞り、1グループ5人×5グループ。「どう改善すればよいか」のヒントを探る。
    ◇全社員対象のアンケート(正社員1万人対象)
  • 編集の基本を学ぶ
    ◇その道のプロと同じスキル習得を目指して、週末に編集者・ライター養成講座を受講
    ◇新聞記者・商業雑誌編集者へのヒアリング
  • 体制づくり
    ◇月刊の社内報を、発行目的に応える内容で、クオリティ高く発行するために、3カ月のリードタイム、つまり、3カ月前に制作をスタート。
    ◇外部制作協力者のネットワークづくり。

紙の社内報からイントラ、デジタルサイネージまで、全部刷新

 準備を進める中でリニューアルの全体構想を固めた山下さんは、2015年11月に社長プレゼンに臨みました。これまでの社内報はつくり方が古く、社長メッセージにすら若手社員はまるで興味を持っていないこと。社員が知りたいのは「人」、つまり同期や同僚がどんな仕事に取り組み、どんな成果をあげているかであること。社員に読んでもらう社内報をつくるためには、アウトソーシングが必要だということ。紙の社内報リニューアルと連動して、イントラネットで展開しているグループ報も刷新する必要があること。これら、準備作業で明確になったことを訴求し、社内報の全面リニューアルを宣言しました。

 そうして52年の歴史を持つ『社報ヤマハ』を、2016年1月号から完全刷新。タイトルも、2013年に掲げた同社の新しいブランドスローガン「Revs your Heart」にちなんで、『Revs』へと変更しました。

かつてのヤマハ発動機の社内報
ヤマハ発動機のかつての社内報『社報ヤマハ』
新しくなった社内報
2016年1月に刷新した社内報。タイトルも『Revs』に

 リニューアル後は誌面デザインを刷新し、企画では「ヤマハ発動機らしさ」をとことん追求。その成果は、全社員を対象にした年に一度のアンケート調査で、閲読率・充実度ともにアップしたことで証明されました。山下さん自身、次の3つの「変化」を感じているそうです。

  1. 社員の意識が変わった
    社内報やWeb報をよく見てくれるようになった。取材に協力的になった。
    他部門から相談を持ちかけられるようになった。
  2. 経営者の意識が変わった
    社内の雰囲気が変わったことで、「どんどんやれ!」と背中を押すように。
  3.  制作体制が変わった
    人員は3名から20名へと大幅増員(企業ミュージアムの運営含む)。
    予算は5倍に!

「インターナルコミュニケーション」の山下流解釈

 今、山下さんは、インターナルコミュニケーション施策の成功者として、注目されています。

 「社内報担当を命じられた当時は、インターナルコミュニケーションという言葉は、企業活動でまだあまり使われておらず、僕自身もよくわかっていませんでした。その後、社外の広報セミナーや専門書で学ぶほどに感じるようになったのは、インターナルコミュニケーションと社内広報は、イコールではない、ということです」

 欧米のグローバル企業では、リーマン・ショック後の2009年ころから経営層と社員とのコミュニケーションが重視され、トップダウンとは異なる新たな施策が打たれるようになった、と山下さんは説明します。

 「そこでは企業ブランドが一つの柱となり、社員同士のコミュニケーションを活性化したり、社員の一体感や帰属意識を高めたり、さらには、社員の満足度を重視し、エンゲージメントを構築するというスタンスがあります。僕は、これこそがインターナルコミュニケーションの本質だと思うのです」

【山下さんが考える、従来の社内広報とインターナルコミュニケーションの違い】

 

  • 社内広報
     社内ヒエラルキーに沿ったトップダウン型
     一方通行
     上位者を信頼

 

  • インターナルコミュニケーション
     年齢、職位に影響されない、フラットな関係性に基づくもの
     双方向性
     相互に信頼

     企業理念や社是・社訓といった「無形の価値」の共有により、社員間に「つながり」が構築される。インターナルコミュニケーションは、その「無形の価値」を社内に浸透させ、共有を促進するもの〈山下さん解説〉

     インターナルコミュニケーションと深く関係する言葉に「モチベーション」「エンゲージメント」がありますが、これについてはどうお考えでしょう。

     「高品質なものづくりやサービスの提供は、現場で働く社員の高いモチベーションがあってこそ。そして、そのベースとなるのが、会社と社員のエンゲージメントです。僕はエンゲージメントを『つながり』ととらえ、それはつまり『相互の信頼』『貢献する気持ち』であると考えています。これらを醸成するための施策が、インターナルコミュニケーションなのです」 

     この考えをもとに打ち出されたヤマハ発動機流のインターナルコミュニケーションは、下記のように設定されています。

    • Why?/なぜやるのか?
      エンゲージメントを高める=つなげる
    • What?/何を共有する?
      YAMAHAらしさ=ブランド
    • How?/どうやる?
      YAMAHAらしく働く姿を伝えるコンテンツを制作・発信・共有
    • Goal?/どこまでやる?
      全社員がブランドを体現するまで

    企業と社員が「ゆるく」、でもしっかりと、つながる

     エンゲージメントを「つながり」と定義する山下さんに、もう少し詳しく説明していただきました。

     「つながる、というと『強い絆』のようなものを想像しがちですが、当社では『ゆるくつながる』ことを意識しています。今はスマホやSNSで人々がつながる時代。それぞれが複数かつ多彩なネットワークを持つ中で、社員に会社とタイトに結びつくことを求めたり、強い帰属意識や一体感を望んだりしても、実現は容易ではありません

     かと言って、社員が会社を軽んじているわけではなく、『自分はこの企業の一員である』『会社は自分の居場所だ』という認識は確かにあるのです。SNSなどで自社製品の情報を発信することが、その証拠でしょう。それらを考察する中でたどりついた答えが、会社と『ゆるくつながる』、でした」

    インターナルコミュニケーションについて解説する山下さん
    エンゲージメント、モチベーション、インターナルコミュニケーションの関係を解説する山下さん

     ここでひとつ、疑問がわいてきました。モノやサービスの競争力を上げるためには社員のモチベーションを高くするのが必須で、そのベースとなるのが会社と社員のエンゲージメントだと、先ほど山下さんは仰いました。ならば、エンゲージメントは強固な方がよいのではないでしょうか。「ゆるくつながる」と「強固なエンゲージメント」は、両立するのでしょうか?

     「会社が大切にしている理念や価値観を共有し、確固たる信頼関係を築くのが『エンゲージメント強化』です。そして『ゆるくつながる』とは、社員が常にお客さまや社会という外側に目を向けながら力を発揮できる、そういう会社と社員の関係性、立ち位置を意味しています。イメージとしては……、社員の働く姿は、ロケットで宇宙に飛び出して船外活動をする宇宙飛行士。母船(会社)とはロープでつながっていて、そのロープは宇宙空間にたゆたいながらも、確かに宇宙飛行士とつながっているから、安心してミッションが遂行できる。そんな感じです。だから『ゆるくつながる』と『強固なエンゲージメント』は、両立できるのです」

    不安が渦巻く今こそ、インターナルコミュニケーションを積極活用

     お話を伺うほどに、企業においてインターナルコミュニケーションがなぜ必要なのかがわかりました。しかし残念なことに、それを理解していない経営層が未だに多いのも現実です。これについてはどのような意見をお持ちでしょうか。

     「まずは、インターナルコミュニケーションと、業務連絡や社内通達とは役割が違うことを、経営層も社員も理解しなければなりません。そして、社内コミュニケーションの現状を分析してみて、その結果、経営層の発信するメッセージや情報が社員にしっかり届いて理解が進み、企業理念や経営方針を十分に具現化できているなら、社内報は不要でしょう。しかし、情報の浸透に偏りが見られ、社員の職種や年代で理解度に差があるならば、社内報などのコミュニケーションツールを使って解決するべきでしょう」

     企業理念やブランドに紐づいたメッセージや情報を発信し、共有し、浸透させることで、社員の行動変革を促す。これがインターナルコミュニケーションのミッション。このミッションを果たすことで、エンゲージメントは強化され、社員は安心かつ高いモチベーションで業務に邁進することができ、その結果、企業は競争を勝ち抜く力をつける。
     これが、山下さんのお話から見えてきた、インターナルコミュニケーションとモチベーション、エンゲージメントの関係でした。

     先の見えない不安がたちこめる令和2年春。社員とのエンゲージメントを高め、安心してモチベーション高く業務を全うしてもらうことで、危機的状況にも負けない企業体質を作り上げる。そのために、今こそインターナルコミュニケーションを積極的に活用しましょう。 そして、コロナ不況を勝ち抜きましょう!

     

    ヤマハ発動機 山下 和行さん
    ヤマハ発動機株式会社 山下 和行さん

    山下 和行(やました かずゆき)さん
    早稲田大学商学部卒。1990年ヤマハ発動機入社。本社で海外営業や広報戦略に携わった後、中国と米国で通算12年の海外駐在を経験。赴任国ではセールス&マーケティング、広告宣伝、事業戦略の責任者を務める。帰任後の2013年よりヤマハ発動機グループ全体のブランディングとインターナルコミュニケーションに携わり、社内報のリニューアルを含めた業務全体の改革を主導。現在は経営企画部で戦略を担当。
    2019年ウィズワークス株式会社の「社内報アワード」で特別部門グランプリを受賞した『ゲンバのチカラ』の制作では、プロデュースとクリエイティブディレクションを担当。雑誌「広報会議」2019年7月号から2020年2月号まで「インターナルコミュニケーション改革」と題した記事(8回連載)を執筆し、関連する講演も行っている。


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