日産自動車の関連会社として、開発から生産までを担う完成車メーカー・日産車体株式会社。約3,000人の従業員を抱える同社では、PC環境のある従業員に向けたイントラ、創業時から続く社内報、主に社長メッセージに使うビジュアルシステム、社長と従業員が直接対話するダイレクトミーティングを使い分け、活発なインターナルコミュニケーションを行っています。
その中でも特に重要視しているのが、社内報です。従業員の約半数を占める、現場のPCを持たない人にとって、社内報は貴重な情報源。支持率も高く、なんと70%近くの人に読まれています。今回は、社内報『Pole Pole』の制作秘話を中心に、未来に向けた取り組みなどについても伺いました。
広報グループの誕生を機に現行スタイルに刷新
1941年の創業時から社内報文化を醸成してきた日産車体。今に続く『Pole Pole』が誕生したのは2004年のこと。総務部に広報グループができたのを機に大幅リニューアルに踏み切り、誌名も社内公募により一新しました。
「とはいっても、当初はニュースや生活情報が中心。特集を軸にした現在のスタイルに変えたのは、2012年あたりからですね」
と話すのは、そのころから編集に携わる黒井 祐美さん。刷新の際は、「会社が分かる、面白くてためになる社内報」をテーマとしました。「気軽に読めるよう、ちょっとカジュアルに」という意向は、東アフリカの言語・スワヒリ語で「ゆっくり、のんびり」を意味する「Pole Pole(ポレポレ)」を誌名に用いたことにも表れています。
制作を担当するのは、黒井さん一人。制作会社も入れていますが、依頼する事柄は少ないとか。
「企画も、取材・執筆もほぼ一人でやっています。撮影に関しても、表紙とそれに連動するものはプロのカメラマンにお願いしていますが、基本は私。全面的に外注しているのはデザインだけです」
こだわりは、「笑顔」と「共感」、そして「分かりやすさ」
そんな黒井さんが、編集するうえでこだわっていることは3点。1つは、顔を紹介すること。
「基本方針として、技術や商品ではなく、人を紹介したいという思いがあります。それには顔、それも笑顔を出していくことが最善の策。笑顔には、抵抗力を高めたり、快楽物質を出したりする効果があるといいますよね。周りの人を気持ちよくする効果もあるので、撮影時は必ず笑顔をお願いしています。『体にいいですから』と頼み込んで(笑)」
その言葉通り、誌面には弾けるような笑顔が満載。黒井さんもそれが「一番の自慢」だと胸を張ります。
2つ目は、共感を大事にすること。日産車体は開発、管理、生産の3つの部門に分かれ、人のタイプも仕事内容も全く異なりますが、社内報は全員をターゲットにしています。そのために工夫しているのが、多角的視点を持つこと。
「特集は、なるべく多くの視点を盛り込むように心がけています。例えば品質の企画なら、日常的な品質に話を広げ、部門も世代も違うたくさんの人に出てもらい、全員が自分事として捉えられるようにするなど。ある職種の人にしか響かないピンポイントな内容にはならないように気をつけています」
3つ目は、分かりやすさ。写真を多く文章は短めに、多忙な現場の作業員でもサッと目を通せるようにしています。
また、間接部門と直接部門では使用する用語も異なるため、専門用語には必ず注釈を付けるようにしているそう。「用語が分からないと面白く読めないですから。以前、切り取って使える用語集を付けたことがあるのですが大好評で、広報メンバーも重宝しています」
従業員に浸透するにつれ取材交渉がスムーズに
明確な編集方針と細やかな配慮で成長を続けてきた『Pole Pole』。読者からの信頼は厚く、それは2011年から始めたアンケートからもうかがえます。
アンケート結果の推移
●アンケート回答率:40%→70%(2018年)
●「読んでいる」:87%→95%(2018年)
● 「役に立っている」:72%→96%(2018年)
このように、それぞれ驚異的な伸びを見せています。
取材に出る黒井さんも、浸透していることを肌で感じるとか。また、高い支持率のおかげで、取材も以前よりやりやすくなったそうで、「浸透するにつれ協力度が増した」と話します。黒井さんの上司・シニアスタッフの井出 雅樹さんもこう続けます。
「異動してきて4年になりますが、想像以上に現場が受け入れてくれることに驚いています。ひと山越えている感はありますね。これも黒井が誠実に制作してきた結果だと思います」
と、黒井さんに賛辞の声を贈ります。
会社の方針に合わせても目線はあくまで現場に
従業員に愛され、すっかり定着した『Pole Pole』ですが、ここにきて転換期を迎えています。これまでは中期経営計画を中心にベーシックな企画を組んできましたが、今後は未来の会社づくりに寄与する内容にしていく考えがあるのだとか。
「社長が10年、20年後に、若い従業員が生き生きと働ける文化や習慣をつくっていくという方針を打ち出していることが理由です。だとしたら社内報もそれに合わせていかないと。ただ、どう企画に反映させていくかは今後の課題です」
と黒井さん。唯一はっきりしているのは、「会社からのメッセージ本」にはしないということ。井出さんは
「目線はあくまで現場に置き、第三者的な立場を崩してはならないと考えています」
と、社内報の立ち位置を強調します。
新しい時代に合わせた情報発信のあり方を模索
さらには、マイナスの情報も速やかに開示していこうという動きも起きています。契機となったのは、昨年、一昨年に起きた会社の不祥事でした。
「報道された当初は社内でも『何が起きている?』とザワザワした雰囲気がありました」
と解説するのは、小林 聡課長。
「昔であれば、何を伝えて何を伝えないかじっくり考えて従業員に情報伝達することも許されましたが、今は情報伝達のスピードが早く、時間が経過すればするほど従業員の不信感は増してしまいます。この問題をきっかけに『マイナスの情報もイチ早く従業員に知らせよう』という動きが強くなったように思われます」
社内報では、不祥事後の取り組みについても記事にし、周知を図っているといいます。
こうしたうねりの中で、インターナルコミュニケーション全体のあり方も模索しています。
「今後、どんな情報をどういう形で出していくのか、考えていかないといけません」と話すのは、今年1月に中途入社で広報メンバーに加わった熊谷 みづほさん。
「増えている若い従業員向けの新しいツール、例えば動画やスマホなどを使った情報発信も検討していくつもりですが、それに加え、彼らがどんな情報を欲しているのかを探ることも大事だと思っています」
そのための試みとして、この春から各拠点に情報員を置く仕組みをスタートさせ、早くも成果が上がっているとか。
若さあふれる未来を見据え、一歩一歩着実に、改革の歩みを進めています。
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社内報『Pole Pole』
創刊:2004年
発行部数:8,300部
仕様:A4版、4色、32ページ
発行頻度:隔月刊 -
会社情報
URL:www.nissan-shatai.co.jp
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