「社内報アワード2023」の入賞企業にご登壇いただく事例発表セミナー。第1弾は、Web/アプリ社内報部門 媒体全体で、唯一のゴールド賞を受賞し、グランプリに輝いた東急建設株式会社のWeb社内報の事例を紹介しました。
ご登壇くださったのは、50年以上続いていた紙の社内報をWeb化して、1年もたたずにグランプリ作品に仕上げた剛腕編集長。目的に向かってブレない方針を貫きつつ、「社内報は読む義務がないメディアだから面白い」と割り切る編集長が語る、立ち上げから現在までのストーリーに注目!
【プレゼンテーター】
東急建設株式会社
経営戦略本部 経営企画部
コーポレート・コミュニケーショングループ
菅 梨理子さん
【インタビュアー】
ウィズワークス株式会社
社内報総合研究所 所長
橋詰 知明
企業ビジョン策定のタイミングで社内報も見直しを図る
――まずは会社概要と自己紹介をお願いします。
菅:弊社は東京都渋谷区に本社を置く東急グループの総合建設会社(ゼネコン)です。創業は1946年、社員数は約2,600人、国内全域や東南アジアで建物のインフラの構築を地域に密着して行っています。年代別社員構成では50代が3割強と多く、この世代の引退後は一気に戦力不足になることが想定されるため、若手社員の早期活躍が求められています。また、主な職場である工事現場は全国各地に点在し、現場以外の社員や情報と接する機会が少ない環境にあります。
こうした背景の下、将来への不安やエンゲージメント低下が懸念される中で、2021年に「VISION2030」が策定され、2030年に目指す姿と実現するための道のりが示されました。
私は2013年に新卒で入社し、作業所や支店の事務を経験した後、2018年から経営戦略本部で広報業務全般に携わるようになりました。2022年以降は社内報も担当しています。
「VISION2030」実現のための「競争優位の源泉」、つまり強みは「人材」と「デジタル技術」であるとし、私たちの部署は特に「人材」を強化するため、以下の2点に注力することになりました。
- 「ビジョン対話」の開催(社員と経営層との対話)
- 社内報の活用
それまで発行していた季刊の紙社内報を、社員の意識や行動を変えるためのツールとして強化するという経営方針に沿って、2022年7月に社内報に関する1対1の個別ヒアリングと全社アンケートを実施。次のような調査結果を得ました。
・5〜10分で見出しや写真を中心に一読し、捨ててしまう |
「明らかになった社員ニーズ」と「ビジョン実現に向けた社員の意識変革」の掛け算で社内報の在り方を再定義し、Web社内報『MagazineQ+』が生まれました。Web化したのは、掛け算の結果がより大きくなりそうな媒体がWebだったからです。
わかりやすく、わくわくする社内報を目指して
菅:2023年1月に誕生した新社内報は、“少しでもあなたのプラスに”という想いを込め、紙媒体の誌名に「プラス」を付け、『MagazineQ+』と命名しました。コンセプトは「社員を知り、会社を好きになる」。編集方針、メインターゲット、目指したい読後感は以下のように定めました。
「わかりやすさ」と「わくわく感」を重視して、誰もがなじみ深いテレビのように全体を設計。カテゴリーをチャンネル、記事を番組と呼んでいます。番組は毎週金曜配信で、「毎週金曜はMagazineQ+の日」と称して、新着のお知らせメルマガを社内報キャラクター「キューたす」から全社員に送信します。キューたすは、メルマガの他に各番組へのコメントなどもします。
制作は上長を含め3名体制で、番組立案、取材、編集、メルマガ配信、効果検証などを編集長の私が、もう1人の担当とは連載番組の編集を分担しています。上長には番組承認、役員との調整、制作フォローなどを、制作会社には取材と動画制作などをお願いしています。
チャンネルは4つあり、それぞれ番組を持っています。また、アーカイブとして1969年創刊以降の過去490件分の紙社内報をPDF化して公開しています。過去の社内報全てをWebで見られるなら、Webにネガティブな印象を持つ方もその利便性を感じて、Web社内報への誘因になるのではないかと考えたからです。結果としてこのサイトの付加価値を上げることができたと思っています。
閲覧には主に3つの入り口があります。1つ目が社内イントラ、2つ目が毎週送るメルマガのリンク、3つ目がスマホアプリです。現在は会社支給のパソコン、スマホからのみ閲覧できる設定にしています。
―― ヒアリングとアンケートで意見を吸い上げてのWeb化だったというのは、非常に参考になりました。
菅:ヒアリングで41名、アンケートで660名以上の方の声を集めて、整理していきました。ビジョンで定めた方針はあっても、ついていけていない社員は必ずいるはずです。そこを取りこぼさないようにしたいと考え、積極的に1on1で話を聞きました。
―― ビジョン浸透が菅さんのフィルターを通して柔らかい発信に置き換えられている点が印象的です。歴史ある紙社内報からの大胆なリプレースで、こだわったのはどんな点でしたか?
菅:目的からブラすことなく、明確に発信することでしょうか。「なぜWebなのか」「目的は何か」という骨子を半年前に経営層に説明して、合意を得ました。Web版のビジュアルを初めて見せたのはオープン1か月前ぐらいでしたが、詳細設計やデザインは広報担当の私に任せてくださいという気持ちでした(笑)。個別ヒアリングをしていましたし、メインターゲットの若手社員のことはよくわかっているという自負もあり、設計は自信を持って進めました。
ニーズに応えた設計と、全部は見なくてOKなスタンス
―― 『MagazineQ+』の画面を見ていきましょう。尺の表示をはじめ読者に親切な設計ですね。
菅:読者ニーズに応えて、何分で読めるか、自分に関連しているかどうかがすぐわかるようにしました。建築、土木などの属性もタグを付けて、ある種「全部見なくていい」というスタンスで、取捨選択できるように設計しています。
4つのチャンネルは以下のように分類しています。
『MagazineQ+』4つのチャンネル
- 経営チャンネル
- :経営に関するもの全て
- 仕事チャンネル:業務に近い内容
- 社交チャンネル:こんな社員がいると知ってもらう社員紹介
- 自習チャンネル:直接業務に関わらないが知ってほしい情報など
―― こちらは社交チャンネルの新入社員の紹介記事でしょうか?
菅:そうです。新入社員の特集は人気があります。この時は新入社員研修中に各チームがビジョンを紹介しながら自己紹介もするという動画を2時間程度で作ってもらい、それを配信しました。クオリティーの高い動画がたくさんありましたし、新入社員の思い出づくりにもなりました。
―― 動画はけっこう活用されますか?
菅:今回は特に新入社員の生の姿を見せたかったので、広報担当も2週間あまり研修に密着して、企画のメインコンテンツとなる動画を作成しました。動画の活用に関しては、親しみつつ臨場感も持ってもらえることを意識しています。多少のゆるさ、「くすっ」とする感じを重視しています。
カジュアルな発信ができる風土づくりにひと役買う
―― こちらは経営チャンネルの番組ですね?
菅:弊社には26名の経営者・執行役員がおり、それぞれ社員4~5名と年間を通じて対話する「ビジョン対話」を行っています。社員が参加する対話の前に役員の人となりを把握してもらいたいと企画しました。事前に募集した質問に答えてもらい、双方向性を演出しています。
ちょっとした仕掛けが欲しいと思い、色もそれぞれ好きに決めてもらっています。ちなみに、配信は役職順ではなく、誕生日順です。
―― 色や誕生日はコミュニケーションのきっかけになりそうですね。こういうところからも初心をブラさないという姿勢が伝わってきます
菅:こちらは社交チャンネルで連載している「教えて! あなたの推し社員」という企画です。社員が主に同じ拠点の人を、エピソードなどを通して紹介します。見出しは紹介者にも書いてもらいますが、それを編集部で少しキャッチーに変換します。
―― 紹介された方もコメントを返すなど、コミュニケーションがうまく機能していますね。貴社はもともとカジュアルなコミュニケーションが受け入れられる風土だったのですか?
菅:風土としてはまだ少しお堅い側面もありますが、若手の活躍が求められているという認識は40代以上の社員にも共通しているので、若手のチャレンジとして受け入れてくれているのかもしれません。
―― なるほど。やはり原点に返ってきますね。カジュアルな発信ができる企業風土を、社内報が浸透させているのは本当にすごいことです。
菅:ありがとうございます。金曜日にキューたすが全社員に送るメルマガもフランクな感じで、ちょっと遊びすぎじゃないかと思う方もいるかもしれません。でも、キューたすの知名度は高いかもしれません(笑)。これを真似して、キャラクターからメルマガ発信する部門も出てきました。ゆるさや挑戦的なところ、オープンな風土を浸透させることを、キューたすが後押ししてくれているのかもしれません。
―― 最後に、インターナルコミュニケーションは組織にどういう効果を与えられると考えていますか?
菅:通知や通達のように見なくてはならないものが仕事上たくさんある中で、見なくていいコンテンツは希少かつ価値が高くないと見てもらえません。そのため、どんな内容なら社員は自発的に見たくなるか、会社を好きになるかと、自由な発想でチャレンジできるのが、この仕事のやりがいだと思っています。義務なしで見てもらえるのは社員の嘘偽りないニーズですから、インターナルコミュニケーション業務の魅力は本当のニーズを拾えるところにある、と。その特性を逆手にとって今後もインターナルコミュニケーションを仕掛けていきたいですね。
これからも、社員が何を考え、何を求めているかをしっかり把握して、会社の方向性とのマッチングも考慮しながら、エンゲージメント向上、ビジョン達成に向けて社員の行動変容につなげていけたらうれしいです。
Web/アプリ社内報『MagazineQ+』
創刊:2023年
閲覧対象者:正社員、派遣・契約社員
更新頻度:週1回前後(1カ月に3~6回)
会社情報:https://www.tokyu-cnst.co.jp/
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