「社内報アワード2023」のイベントで同じテーブルになった第一生命ホールディングスとマクロミルの両社。社内アンケートの話題になると、同じシステムを使って効果を上げていることが判明しました。それをきっかけに交流を深めている両社の社内報ご担当者に、従業員の声に耳を傾けながら社内報をつくりあげることの重要性について、語り合っていただきました。
第一生命ホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーションユニット
マネジャー
松田 麻里 さん
profile/2018年から社内報制作を担当。2020年に社内報はWebへ完全移行。所属部署では、経営層と社員の対話機会や社内表彰などのインターナルコミュニケーション施策も運営している。
【社内報の基礎情報】
媒体名:『CONNECT』
媒体の種類:Web社内報
対象読者:グループ全社員
閲覧対象者数:約6万5千人(国内)
創刊:2010年
閲覧環境:会社パソコンのほか、私用スマホからもアプリでアクセス可能。
更新頻度:ほぼ毎日(月15回以上)
発行目的:会社の情報をタイムリーにわかりやすく伝えるだけでなく、世界10か国、30を超えるグループ会社に所属する社員お互いに関心を持ち、仲間としての絆を感じることができる、「読むと元気をもらえる。会社をもっと好きになる社内報」を目指して記事を発行している。
株式会社マクロミル
広報・ブランドマネジメント部
部長
飯尾 美貴 さん
profile/新卒で朝日新聞社に入社後、オーストラリア政府観光局、外資系ホテルでの広報マーケティング責任者などを経て、2022年8月に株式会社マクロミルに入社。社内外広報、ブランディングの責任者を務める。社内報を含む社内広報経験は約20年。
【社内報の基礎情報】
媒体名:『ミルコミ』
媒体の種類:紙社内報
対象読者:正社員、契約・派遣社員、パート・アルバイト、OB・OG、家族、顧客、内定者、産育休中の社員、株主など(オープン社内報)
創刊:2002年
発行部数:1,000部
判型:A4
ページ数:約30ページ
発行頻度:3カ月に1度(季刊)
発行目的:「マクロミルの”リアル”を伝える」がコンセプト。事実の背景にあるストーリーや、従業員一人一人の本音に深く迫ることで、従業が何か考えるきっかけを得たり、刺激を受けたりすることを目指している。従業員の声をコンテンツに活かし、従業員目線で会社の“リアル”を伝えていくことを心掛けている。現在リニューアル中。
社員の声を反映すること=一体感醸成のきっかけ作り
——昨秋に開催された「社内報アワード2023」表彰・交流イベントは、数年ぶりにリアル開催となりました。両社は同じテーブルとなり話が弾んだそうですね。
飯尾:他社様とどう交流したらよいのか最初は戸惑ったのですが、せっかくの機会ですし、同じテーブルの松田さん皆さんにご挨拶させていただいたんです。すると、松田さんから「社内報で御社のサービスを使っているんです」と。そこからは、何のサービスをどう使っているのか、松田さんを質問攻めにしてしまいました(笑)。自社のサービスがどう社会の役に立っているかは、従業員が一番知りたいことなので、「還元しなければ」の一心でした。
松田:「社内報アワード」にはずっと参加させてもらっていますが、コロナ禍の数年間はイベントもオンライン開催で、交流の機会がなくなったのがとても残念でした。事例を詳しく聞けるオンラインイベントも良いけれど、やはり各社のご担当者の皆さまと交流できることが一番の魅力だったので。昨秋のイベントでは偶然にも、弊社と関係が深いマクロミルさんと同席になり、うれしかったです。「社員の声を集めるって、やはり大切ですよね」という話で盛り上がりました。
——「やはり」の意図は……?
松田:第一生命は、世界10か国に30社を超えるグループ会社を展開し、約7万人の社員がいるため、社内報の好感ポイントとしてよく挙がる「知っている人が載っていることでの親近感」を実現するのは、正直難しいです。ですが、会社の取り組みや経営層の発信などにお互いが興味を持ってコラボレーションできること、共創・協働できることを探していかなければ、グループとしての会社の成長は実現できません。このため、まずは社員に仲間としての一体感や絆を感じてもらいたいという想いで、Web社内報『CONNECT』をつくっています。自分も第一生命グループの一員である、会社に自分の声が届いていると感じてもらうためには、社員の声を社内報に積極的に反映することが必要だと思います。
飯尾:マクロミルグループは従業員数2,000人強という規模ではありますが、第一生命さんと同意見です。弊社の今一番の課題は、組織内コミュニケーションです。課題になった理由は2つ考えられます。一つは、コロナ禍でのフルリモート勤務も含め働き方が変化したことです。対面のコミュニケーションが少なくなったことがさまざまな阻害要因になり、かつての一体感が薄れていると考えています。もう一つは、事業モデル変革が急速に進んでいることです。弊社では、マーケティング課題の解決のためにさまざまなソリューションを提供していますが、M&Aも含め組織が変化するスピードが速いと思います。その変革を従業員がキャッチアップし続けるのは、なかなかハードです。コロナ禍においても、部やユニット単位ではマネジャーやリーダーがフォローしてきましたが、全社で見ると、コロナ禍前のような一体感が薄れている、というのが現状です。
そんな状況下でも従業員にさまざまな情報を発信し続けるのが私たちの役割なのですが……、どんなに頑張っても10%程度しか伝わらないのが現実かなと思っています。どうすれば、「伝わる」状態を生み出せるのか? その答えは従業員の声の中にあると思うのです。「従業員がどんな状況にいて、どういう課題を持っているか」を知ろうとしなければ、答え探しのスタート地点にも立てません。そんな想いで、コロナ禍以降は特に意識的に従業員の声を聞くようにしています。
松田:同感です。「届いているか」はもちろん、「社員の声に応えられているか」も重要な問題です。
——具体的には、どのような方法で社員の声を集めていますか?
松田:「社内報アワード2023」のイベントで飯尾さんとの交流のきっかけとなったマクロミルさんのサービスで、「Questant」というアンケートツールを使っています。年1回の読者アンケート、企画に活かすための事前アンケート、社内報以外のコンテンツに対するアンケートなどで活用しています。
飯尾:もちろん、弊社も使っています(笑)。アンケートツールではありますが、社内報を制作する前段階の情報収集にも役立てています。先ほどお話した組織課題を解決するための企画を考え、大筋が決まったら、「Questant」を使って、従業員はどんなことに満足し、どういう問題を抱えているかなどについて情報収集します。集まった声から課題が見えてくるので、それを企画に反映していきます。
アンケートの回答率と精度を高める工夫
——アンケートの回収については『社内報白書2023』でも「難しい」という結果が出ているのですが、両社では、収集の苦労はありますか?
松田:あります……。アンケートには7,000人がアクセスしているのに回答数は3,000人というケースもよくあります。回答する人は、何か言いたいこと・伝えたいことがあってのアクションだと思うのですが、逆に声を上げない人、つまり回答しない人の声をいかに捉えるかを常に意識しています。これは苦い経験なのですが、アンケートの結果から社内報の方向性を変えたものの、好反応がまったく伸びなかったという出来事がありました。多くの社員の本当の気持ちをいかにくみ取っていくか、今後も考えていきたいと思っています。
——回答率を上げるための秘策はありますか?
松田:デジタルとアナログの両方駆使すること、でしょうか。デジタルでアンケートも実施するのですが、「最後は足だ!」と、自分の知り合いや社内のいろいろな方に話を聞きに行っています。海外の方には、Web会議の際にちょっと質問したりと、地道な努力を重ねています。
飯尾:回答してもらうための工夫として、アンケートの冒頭に「回答時間:2分」と入れる、フリーアンサーはなるべく少なくする、といったことを行っています。アンケート調査は、実施する側はあれもこれもと聞きたくなるものなのですが、施策に活かされなければ意味がありません。その点を踏まえてできるだけシンプルな設計にしています。
松田:それ、すごくわかります。弊社では、アンケート作成時は、必ず仮説を立てるようにしています。目指す姿に行きつけない原因は何か、何が行く手を阻んでいるのかを考察し、問題解決するための仮説を立て、それに沿った質問を作成します。そして、アンケート結果については必ずフィードバックするようにしています。いただいた声に対して「このように考えます。今後はこう変えていきます」といった対応をすることで、「ちゃんと声を聴いていますよ」という姿勢を伝えるのです。
——仮説の具体例を教えていただけますか?
松田:Web社内報『CONNECT』に移行して3年目になりますが、アクセスが少なかった移行当初は、アクセスしない理由を単純に問いかけていました。でも、それじゃだめなんですよね。そもそもアクセス方法を知らないのか、多忙のためなのか、どっちなのだろう? と考えることが仮説の入り口。「アクセス数が伸びないのは、入り方がわからない人が多いから」という仮説を立て、それを解決する方法を考えたうえで質問したほうが良いと気づきました。
また、特に共感してほしい社員、ターゲットをどこに置くかについても、検討を重ねています。オールターゲットにすると、結果的には薄い内容になりがちです。
飯尾:私たちも仮説設定と一番伝えたい層が誰なのかは意識しています。弊社社内報の一番伝えたい層は入社3年目までの社歴の浅い方々なので、その層にヒアリングし、仮説を立て、アンケートを実施しています。今は、「これから先、紙媒体の社内報をどうしていくか」について調査しているところです。
ところで、弊社では、趣味などを紹介する企画の際に、掲載写真も「Questant」で募集しています。画像とコメントが一度に送れるので、スムーズに集められますよ。
松田:弊社も同様に活用していますが、便利ですよね! グループ各社が異なる連絡ツールを使っていて、それぞれの形式で送られてくる情報や画像を取りまとめるのは手間がかかる作業でした。「Questant」導入後は収集のルート・形式が統一されて、とても助かっています。
遠くを目指すために。横のつながりを取り戻すために
——社員から集まった声を、社内報づくりに活かすことの目的や効果について、どのようにお考えですか?
松田:前社長(現会長)がよく引用していたアフリカのことわざに、「速く行きたいのなら、一人で行け。遠くに行きたいのなら、みんなで行け」というものがあります。「遠く」、つまり将来の会社の成長のために、これまでの価値観を変えるような大きな変革や挑戦を実行するには、グループの多様な個性を持つ仲間の力が必要で、社員一人一人がお互いに仲間意識や絆を感じることが大事です。離れた場所にも同じ使命を持って頑張っている仲間がいると知ることで、「自分ももう少し頑張ってみよう」と思える――、『CONNECT』をそんな存在にしたい。社員の声を活かす企画を重ねて、実現したいですね 。
飯尾:弊社の場合は、まずはコロナ禍により損なわれた横のつながりを取り戻すことです。今もリモートワークが多く、出社は週2回程度。かつてほどのリアルなコミュニケーションが生まれない環境下で、それぞれの部署がどんな取り組みをして工夫しているのかを社内報を通じて発信していくのが、大事なミッションです。
——この対談の総括として、「社員の声を社内報の企画を活かす」ことの重要性を、一言で表現すると?
松田:「会社をもっと好きになってもらうためのカギ」、ですね。好きになるからこそ、みんなで一緒に遠くに行けるのだと思っています。
飯尾:伝えたい相手は従業員なので、その相手=従業員を理解することが初めの一歩です。理解してこそ伝わるのだと信じて、これからも声に耳を傾けていきます。
——貴重なお話をありがとうございました。
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