Web/アプリ社内報の導入により、インターナルコミュニケーション(以下、IC)はどのように変わったのか。実際に紙社内報からWeb/アプリ社内報への移行を経験した社内報ご担当者3社に、移行した理由やその際に苦労した点、導入によって生まれたポジティブな変化などを、座談会で語っていただきました。導入を検討中の企業の方々は必読です!
登壇者
株式会社Wo-one
代表取締役
犬飼 奈津子 さん
学校法人 河合塾
経営戦略担当グループ広報チーム
宮﨑 希 さん
日本出版販売株式会社
社長室広報課
係長 吉野 光 さん
菅野 まどか さん
山口 未来 さん
各社の自己紹介とWeb/アプリ社内報導入まで
犬飼:今年の5月まで、ジェイアール名古屋タカシマヤで15年ほど広報を担当していました。「日本一露出度の高い百貨店」を目標にPRをしてきて、押しが強すぎると業界で話題になるほど(笑)、攻めのスタイルでやってきました。
結果、テレビ露出だけで年間500件近くにまでなり、広報は、人や企業のステージを上げることができる素晴らしい仕事だと実感し、これを生涯の仕事としていきたいという思いから、2023年6月に株式会社ウーワン(Wo-one)を立ち上げました。みんなが大切にされ、個々の魅力を発揮できるような社会を目指して、現在は、企業広報のサポートや広報担当者の育成支援、各種セミナーの講師を行っています。
宮﨑:河合塾は今年90周年を迎えますが、50周年のときに「Keiju」という社内報ができました。
現在5名のメンバーで編集しています。
河合塾グループのさまざまな事業について、部門・法人の枠を超えて、横断的に相互理解を生むために、昨年7月に社内報を完全にWeb化しました。
導入当初は定期配信で苦労しましたが、それを乗り越えた今は閲覧数と双方向性の向上が課題です。閲覧率は今年度に入ってから上向いて、4〜6月は月平均が4割程度まで伸び、ようやく認知が広がってきました。双方向性については、各部門からのパートナー募集を始めたところです。
菅野:日販グループは、持株会社である日販グループホールディングス株式会社のもと、9事業約30社から成るグループです。そのなかで弊社は取次事業の中核事業会社で、書店に関連する商材(本、文具、雑貨など)の卸売り会社です。
1957〜2020年までの約60年間、紙社内報を発行していましたが、2019年10月にホールディングス体制へ移行したのを機に、社内報を含め社内コミュニケーションのあり方を改めて検討しました。グループのさらなる成長、拡大のためには連携を強めることが重要であるという結論に至り、社内報をグループ全体のコミュニケーションツールにするためWeb化してリニューアルすることを決定。2021年4月にアプリを導入してWeb社内報へ完全移行しました。
Web/アプリ社内報導入で生まれたポジティブな変化は?
犬飼:ジェイアール名古屋タカシマヤでIC担当となり、アプリを使いながら社内報をWeb化しましたが、リアルタイムに情報発信できることが一番の魅力だと感じました。紙社内報のときは年4回発行で、例えばフレッシュ感を打ち出した新入社員紹介企画を実施しても、発行するころにはもう現場で戦力になっているというような、“時差”が出てしまいました。それが、Webでは「今日入社式がありました」「新しいお店が本日オープンしました」「クリアランスがスタートしました」と速報できます。リアルタイムでの情報共有を実現できるというのは、最良の変化でした。
宮﨑:同感です。弊塾のWeb社内報では「河合塾Today」という、ストレートニュース記事を掲載しています。各現場、校舎のイベントや新しい取り組みを、写真付きで簡単に掲載できるので便利ですね。よりタイムリーに配信でき、読者からも反響がありました。
吉野:紙社内報の時代は月1回発行でしたが、月刊でも犬飼さんがおっしゃる“時差”がありました。作る側も「古い情報だから載せなくていいか」となったりして、本来皆さんに伝えるべきことも、タイミングや誌面のボリュームで伝え切れないでいました。Webだとタイミングもボリュームも制限がないので、伝えるべきことを素早く全員に伝えられます。これはすごく大きなメリットです。
Web化のメリット その1
● リアルタイムの情報発信ができる
● 手軽にタイムリーに掲載できる
● タイミングやボリュームの制限がない
記事UPのタイミングや回数で悩みながら
犬飼:初めは週5本ほど記事をUPしていたのですが、社員からは情報量が多過ぎる、更新頻度が高過ぎるという声があり、最終的に「隔週の決まった曜日・決まった時間に2〜3記事アップする」と決めて運用するようになりました。
宮﨑:弊塾も更新本数には悩みました。Web版をオープンする際は、ボリューミーな特集記事、コミュニケーションを促進する軽めの記事などを合わせて15本程度配信しましたが、その後が続かなくて。編集に負荷がかかる特集記事の定期更新がなかなかできず、簡単な寄稿記事に頼らざるを得なくなりました。オープン時は河合塾単体で45%ぐらいの方が掲載後すぐに見てくださったものの、翌月は25%へとダウン。アンケートやヒアリングをすると、「記事が多過ぎて読みきれない」という声が聞こえてきました。そこで今年度からは2週間に1度更新、約3記事UPに切り替えたところ、少しずつ閲覧数も増え、定着してきました。
吉野:「社内報アプリ」を導入して3年目になりますが、最初の2年間はとにかく浸透させることを目標に、記事を打ちまくりました。年間400本ぐらい出したと思います。
一同:400本!!(驚愕)
吉野:はい。まずは社内報を認知し、閲読を習慣化することを目指していたので。今期からは量より質のフェーズへと進みましたが、日々更新はしています。年間400本のころにアンケートを行うと、「ちょうどいい」という回答が多く、意外でした。こちらとしては「多過ぎる」と言ってほしかったのに(笑)。Webのメリットにはこういった反響を得やすいこともありますね。反応が可視化されることで、やりがいを感じやすくなりました。
各社の更新頻度
ジェイアール名古屋タカシマヤ:毎週決めた曜日、時間に2、3記事
河合塾:月2回隔週水曜日、約3記事
日販グループホールディングス:日々更新
Webになってからの反応と編集会議
犬飼:クリアランスや初売りにはたくさんのお客さまがいらっしゃる、年間で最も忙しい日です。従業員は朝早くから準備をし、開店前からお客さまの行列ができます。そこで速報として、お客さまが開店と同時に入っていく様子を撮影して、従業員の皆さんが疲労困憊で帰る時間に合わせて社内報にUPしました。すると、「しんどかったけど頑張ったかいがあった」「お店が愛されていることが分かった」「疲れも吹き飛んだ」といった声をたくさんいただきました。動画が上げられるのはWebならではで、すごく良かったと思います。
宮﨑:「目標達成した校舎に成功事例を聞く企画」は、1カ月で1,000PV以上と閲覧数が急伸。このことから、常に現場視点で発信していくことが重要だと感じました。
Web版に移行してからは「自部門の取り組みを紹介してもらえないか」「これ社内報のネタにどう?」という声を気軽にもらえるようになったのも、非常に大きな変化です。紙媒体のようなスペース制限がないWeb社内報ならではの特徴により、部門側にとっても掲載依頼のハードルが下がっていると感じます。
菅野:改めて調べてみたら、2020年度は533本の記事を上げていました(笑)。各部門の方からの「取り上げてほしい」という要望にすぐに応えて記事をアップできるのは、うれしい変化だと日々感じています。
吉野:まず広報を身近に感じてもらいたい、情報を渡したらすぐに発信してくれる存在だと認識してもらいたい、と頑張ってきましたが、そのぶん広報のスタッフには負担をかけたかもしれません。
山口:先日、社内セミナーのレポートを担当したのですが、情報の鮮度を保つためにスピード感が必要で苦労しました。でも今の吉野の言葉で、もっと頑張ろう! と思いました。
Web化のメリット その2
● 反応が可視化される
● 動画をアップできる
● 受け手の要望に応えやすい
宮﨑:日販さんの533本の記事、コンテンツの内訳は?
吉野:記事は大体3カテゴリーに分けています。「うちの部門も連載したい」という依頼が出てくるようになり、注目記事・特集記事の位置付けで出したこともあります。
日本出版販売 Web社内報記事のカテゴリー
1. しっかり作り込む注目記事、特集記事
2. タイムリーに事実を伝えるニュース記事
3. 娯楽性の高いコミュニティー記事
読んでもらうため、巻き込むための工夫
宮﨑:閲覧率アップのために細かい取り組みをいろいろしています。例えば、新入職員向けにIDとパスワード登録の認知を上げるチラシを作ったり、更新日にはイントラのトップページにバナーを記事ごとにUPするなど、閲覧導線への工夫があります。または、コンテンツ作成時に見ていない人が多い部門こそ取材に行ったりもします。掲載時には、個人だけでなく部門やエリア全員宛で、「誰々さんが取材に答えてくれました。皆さんで見てください」と協力へのお礼もしています。地道な広め方をしていたら、徐々に見てくれる人が増えてきました。
犬飼:私も見ていない層を割り出して、例えば入社5、6年目が見てないことが分かったら、その層を狙い撃ちした記事を書いたりしました。とにかく社内報を「自分ごと化」してもらうことが大事ですよね。自分ごと化されないと見てもらえないので、とにかく巻き込む。人事部と協力して、入社3年目研修の中に社内報の記事を書く研修を入れてもらうとか、アンケートで社内ライターを募るとか、みんなが社内報に関わっていく状況を作る取り組みをしました。
吉野:読んでもらいたければ、読まきゃいけない状態を作ればいいと思っています。イントラで発信していた経営方針を社内報だけに載せるとか、メール配信していた社長メッセージを動画にして社内報に載せるとか。管理職層が読んでくださると、その部下も読むようになるので、管理職層に刺さる仕事に直結した記事を増やしています。
犬飼:役員に登場いただくときは、かっちりし過ぎず、親近感の沸く役員らしからぬポーズをいろいろリクエストしました(笑)。社長、会長クラスは、現場の従業員は普段なかなか接点もなく、遠い存在になりがちですが、「決してそんなことはない」と伝えたくて、かなり無理難題をお願いしました。初めは戸惑っていらしたのに、そのうちに「こんなのどうだ?」と自らポーズをしてくださるようになりました。IC担当者の最大のミッションは社内のコミュニケーションの活性化だと思うので、自らこんなポーズをしてくださいと目の前で見せてお願いするなど、そこはもう体を張りました(笑)。
吉野:社内報への登場をお願いしても断られるケースもありますし、顔を出したくない人も多い。でも編集側としてはやっぱり顔は出したい。その辺がちょっともどかしかったりしますね。
宮﨑:……そういうときは、チーム全体で出てもらうとか、サムネイルの中の1人にするというのはいかがでしょう。どうしてもダメな方は、手元だけ映すとか。
吉野:なるほど! 役員が重要なメッセージを発信したときは、その部門の部課長に連絡して必ず見てもらって、自分のマネジメントラインの部下にも見るように伝えてもらったりなど、経営方針に関わるところはちょっと力技を使ったりもしています。
読んでもらう、巻き込むための工夫
1. 更新時にはイントラのトップページにバナーを
2. 人事部門と協力して研修に社内報制作を組み込む
3. 社内報でしか見られない情報をアップする
4. 役員など遠い存在を親しみやすく見える
協力メンバーの集め方、育て方
宮﨑:Web版に移行後初めての取り組みとして、より双方向性を向上させるために編集メンバー以外から企画・編集の協力メンバーを募ったところ、6人集まりました。スタートにあたって、協力メンバーにどこまで頼んで、どういう記事を書いてもらうかご相談したいです。
犬飼:まず、あくまでも自主的に望んで参加してもらう形を取るようにしていました。原稿を書きたい方なら、何を書きたいか、何を書けるかを話し合い、その後で、その方の上司にこちらから「社内報にご協力いただきますので、よろしくお願いします」と挨拶を入れていました。原稿作成中も一緒にブラッシュアップ。掲載時は、執筆いただいた方の顔と所属とコメントを必ず添えて、「やってよかった」「社内報は楽しいからやってみてよ」と周りに言ってもらえるようにサポートしていました。
宮﨑:それぞれの現場起点で自主的にやってみたいことをサポートすることが一番大事ですよね。そのために、アプリにUPする、CMSの入力などの作業は、なるべく編集部側で行うのが良さそうですね。
菅野:私たちは基本的にニュース原稿を書いてもらっています。レイアウトもこれまでは全部広報でやっていましたが、今期からは一部を部門の担当者に直接編集してもらっています。記事はこう入れて、書式はこうやって変えてみたいなレクチャーをして、執筆から公開までを部門にやってもらう。広報は内容チェックなど伴走程度にとどめるようにしました。
視聴者へのエールと今日の感想
山口:まだ広報に着任したばかりですが、紙からWebになることで読むようになったというのは個人の実感としてありました。さらに今日、皆さんとお話して、Webはいいツールなんだと再認識できました。
菅野:記事の一つ一つが会社の未来やパーパスの共有につながっていくと思うので、今後も頑張っていこうと、決意を新たにすることができました。
吉野:他社さんの社内報事情はなかなか知れることではないので、こういう機会をいただけてよかったです。この座談会に向けて準備することで、僕自身の考えが整理されました。
宮﨑:社内報担当として課題感や不安に感じるところは、共通する部分が多いと思います。今後もこうした他社のご担当者さまとお話するチャンスがあればぜひ活用させていただき、社内報担当みんなで、モチベーションが上げられるといいですね。
犬飼:社内報は、頑張って書いていても、なかなか見てもらえないというのが現実で、自分の仕事の価値が分かりづらくなることもあるかと思います。でも、会社を良くする、コミュニケーションを活性化させるために、すごく重要な役割であると肝に銘じて、伝えたい思いをしっかりと記事に載せていけば、その温度は必ず読み手に伝わっていくと思います。皆さんに届けたいという気持ちを大事にしようと、改めて思いました。
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