消費者がお金を出して組合員になり、協同で事業を運営・利用する生活協同組合。全国にたくさんの店舗や宅配センターを展開していますが、その中の一つで、北海道全域を統括する「コープさっぽろ」では、昭和45年から社内報『コープなび』を発行し、職員のコミュニケーション活性化やモチベーション向上に役立てています。2020年には、「社内報アワード」初応募にして、紙社内報部門 1冊子19P以下でグランプリを獲得。一躍、社内報業界の注目を集めました。その魅力と、編集の方向性やこだわり、またコロナ禍においての制作秘話などについて、編集者にたっぷりお話を伺いました。
思い切ったリニューアルで、読者の心を鷲掴み
黒いサングラスにピンストライプのスーツ姿で渋くポーズを決める本部長。初の応募で「社内報アワード2020」のグランプリをさらった作品は、昭和のダンディズム漂う表紙が強烈なインパクトを放ちます。
「これは、西部警察や石原軍団のイメージで作成しました。表紙は特集ページと連動しているのですが、何かのパロディにしたり、有名なキャラを模倣してみたり。デザインはあえて固定化せず、毎回違った趣向を凝らしています」と語るのは、2018年から『コープなび』の編集に携わる広報部の田村裕子さん。
長い歴史を誇る「コープさっぽろ」の社内報ですが、グランプリ受賞作品は、実は全面リニューアルをした第一号だったとか。リニューアルに踏み切った理由は、せっかくいいものをつくっても、読んでもらえていないという課題を解決するためでした。
「休憩所に置きっ放しにされているのが悲しくて。やはり手にとってもらうには、『読んでみたい』と思わせる表紙にして中面に誘導することが大事だなと。そこで、『インパクト』『面白い』をテーマにすることにしたのです。それも中途半端ではなく、思い切って」と、言葉に力を込める田村さん。
独自テイストがジワリと浸透、仮装も演出も協力的に
その威力は、絶大でした。職員からの反響が大きかったのはもちろんのこと、「社内報アワード」で受けた高評価も「間違っていなかった」という確信と自信につながったといいます。
「客観的に見て、どの程度のレベルなのかを知りたくて応募したアワードですが、予想以上の評価をいただけて、知らせを受けた時は、周りに驚かれるほど大きなリアクションをしてしまいました。以来、ずっとこの路線で続けています」
最近では、職員の方から、提案を受けるケースもあるとか。「例えば、これ」と見せてくれたのは、4人の男性が縦一列になって横断歩道を渡る表紙。これは、ビートルズの名アルバム『アビイ・ロード』のジャケットをイメージしたデザインで、職員からのリクエスト第一弾だそうです。
「4人ともノリノリで参加してくださいました。表紙では仮装をしてもらうことも多いのですが、冊子のテイストが浸透するにつれ、皆さん心構えが出来てくるのか、いきなりの演出依頼にもとても協力的で、感謝しています」と笑みを浮かべます。
表紙と連動の特集事例は、「成功事例を面白く」がテーマ
とはいえ、「コープさっぽろ」は月刊誌。毎回、新しいネタを考えるのは容易ではないそうです。
「見せ方については常に悩んでいるような状況ですが、ライターさんとデザイナーさんがアイデアマンなので、とても助けられています」と田村さん。
制作体制は、内部が、田村さんと部長の2人。他に3人のライターと、デザイナーが企画の段階から加わり、総勢6人で編集会議を行なっています。そこでまず決めるのは、表紙と連動する巻頭の特集企画。ここは、成功事例を取り上げることに決めているとか。
「毎月幹部会があって、そこで、いろんな事業所の成功事例が紹介されるので、その中から私が2、3候補をピックアップし、編集会議にかけて最終決定します。道内に、店舗やセンターなど、160近くの拠点があるので、偏りなく紹介することを心がけています」
取り上げる事例が決まったら、ライターに取材候補者へのヒアリングを行ってもらい、それを元に、デザイナーと3人で企画の詳細や見せ方を詰めていき、ライターにラフを描いてもらうというのが一連の流れ。撮影は、プロのカメラマンに依頼しています。
「コープさっぽろ」の良さを伝えたくなる人を増やす
『コープなび』が高評価を受けたのは、表紙及び特集の面白さだけではなく、全ページにわたるコンテンツの充実度も大きな要因でした。時流に沿った企画や連載企画は、どれも読み応え十分。
どの企画も、「コープさっぽろが好きで、誰かに良さを伝えたくなる人を増やす」という発行目的に沿ったものであることを常に意識しているといいます。
「発行目的や編集方針は、基本的にずっと同じですが、そこに毎年発表される広報部の事業方針を加えています。2021年度は、「コープの人にこそ知ってもらう」、2022年度は、「『コープなび』のファンを作る、みんながもっと関わる、作り手も楽しむ」というものだったので、それらをテーマやキーワードに活かしています」と説明する田村さん。
「誰かに良さを伝えたくなる」という目的の達成度について水を向けると、「読者のアンケートでは、紹介した商品やサービスに対して、「ぜひ試してみたい」「食べてみます、飲んでみます」という声や、試してみておいしいので、「広めていきたい」「手土産や来客用に買います」という意見が散見されるので、少なからず成果は出ているように思います」と、手応えを口にします。
現場で奮闘する職員を力づけたコロナ禍での『コープなび』
リニューアル後、ファンを増やし続けている『コープなび』。2020年春に始まったコロナ禍では、そのファンを励ますことに力を注いだといいます。
コープは、地域の暮らしを支えるエッセンシャル・ワーク。コロナ禍において、多忙になった業種の一つです。特に伸びが大きかったのは、宅配部門。物流の人手が足りず、本部からも支援を入れたり、低調になった旅行事業部門から人を回したり、と対応に追われました。
そんな状況の中、編集部では、「自分たちができることは何か?」を第一に考え、現場で奮闘している人たちにフォーカスした特集を組んだり、理事長からのメッセージを掲載したり、コロナ禍に関連する記事を掲載してきました。
「特に反応が良かったのは、3回にわたって掲載した理事長のメッセージです。「困難な状況にある組合員さんやお得意先様に対して、お手伝いができることがあれば、手を尽くしていこう」というような内容なのですが、いつもの遊び心は抑えて、真面目にまっすぐに伝えたところ、「自分のできることをがんばりたい」という声をたくさんもらいました」と、振り返る田村さん。
当然ながら制作への影響も大きく、田村さんたち制作スタッフもイレギュラーな対応を迫られました。
「本部がある札幌市は一番感染者数が多かったので、緊急事態宣言、蔓延防止等重点措置の発令中は、市外へ出向く取材・撮影は基本中止に。できるだけ札幌市内で選ぶようにしたのですが、どうしても必要な市外への取材は、ライターさんにヒアリングシートや電話で行ってもらい、撮影は現地のカメラマンを探してお願いしていました」(田村さん)
制限が解除された今は通常に戻っていますが、2年間続いたハードな日々は、『コープなび』とファンの結びつきをより一層強くした期間でもありました。
若手職員の要望から、Webと動画配信をスタート
コロナ禍での編集部では、新たな取り組みも始めました。それは、Webサイトの開設と動画配信。長い間紙一筋できた「コープさっぽろ」ですが、若手職員へのヒアリングで要望が出たことから、チャレンジすることに。
「若手の職員はスマホやPCの方が見やすいということで、開設しました。対象はアカウントを持っている人限定ではありますが。コンテンツは、冊子の特集ページと人気のレギュラーページをアップしています。また、動画はオリジナルで、特集ページの取材・撮影の舞台裏を追ったもの。より楽しんでもらおうという思いから始めたのですが、概ね好評です」と田村さん。
今後の目標については、アンケートを増やしたい、と考えているとか。
「理由は、誌面に登場いただいた方に、読者の声を届けたいからです。「面白かった」「元気づけられた」、そんな感想を持つ方はきっと多いと思うのですが、現状聞き出す手段としては、アンケートなので。そうした読者の声は、登場してくださった方のモチベーションにもつながるり、なびの価値も上がると思うので、今年はアンケートを増やすことに注力したいと思います」(田村さん)。
読み手も登場者も、そして作り手も、楽しく、ハッピーになれることを目指す『コープなび』。面白さを追求し続けることが、「コープさっぽろ」の良さを外部に広げていくことにつながっていくのは間違いないでしょう。
- 社内報『コープなび』
創刊:1970年
発行部数:14,000部
仕様:A4版、4色、16ページ(20ページ以上の場合も)
発行頻度:月刊 - 会社情報
URL:https://www.sapporo.coop/
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