2020年10月6日(火)~9日(金)に開催した「社内報アワードONLINE EVENT 4DAYS」では、上位入賞を果たした優秀企業10社による、社内報制作の事例発表を行いました。「社内報ナビ」では、各社の発表内容を紹介していきます。
第2回は、東京地下鉄株式会社様。「社内報アワード2020」では、紙社内報部門 特集・単発企画8ページ以上でゴールド賞に輝きました。新しく生まれ変わった銀座線渋谷駅のリニューアル工事を取り上げた企画の意図や背景、同社のインターナルコミュニケーションの方向性についてお話をいただきました。
目次
社員の行動変容を促す、3つの編集方針
当社は、東京都心部を中心に9路線、180駅を展開する鉄道会社です。社員数は本体とグループ会社を合わせて約1万2,000人。その7割強に当たる約8,600人が乗務や保守・点検といった鉄道部門に勤務しています。特に、現場で働く社員の多くは、業務であまりパソコンを使わないため、多メディア化が進む現在においても、インターナルコミュニケーションツールは紙にこだわり、冊子のグループ報を毎月36ページ以上のボリューム(内容により変動)で発行しています。
社内報の歴史は古く、創刊は1955年。『地下鉄』(のちに平仮名で『ちかてつ』)という旧タイトルで600号以上発行したのち、2004年の民営化に伴い、現在の『めとろはーと』に刷新しました。編集方針は、以下の3点です。
社内報の編集方針
- 教育
会社の目標や取り組み、他部署・他職種の仕事について知ってもらう。また自分たちの仕事を他の人にも知ってもらうことで、会社全体の知見を深める。 - 働く動機付け
社員一人ひとりのモチベーションアップにつなげる。 - 一体感の醸成
「本社とグループ会社」「鉄道と鉄道以外」「本社と現場」という3つの壁を取り払い、グループ全体の結束感を強化する。
この3つの柱を通して、共通認識や共通言語を改めて確認してもらうことを目的とし、最終的には、コンピテンシー(高い業績や成果につながる行動特性)を高めることを目指しています。
「安定志向」から脱し、挑戦するマインドへ
制作にあたっては、この編集方針に対応したページ構成をすることに加え、中期経営計画(2019〜2021年、「東京メトロプラン2021」)が標榜する「挑戦」というキーワードも強く意識しています。
この言葉が掲げられた背景には、弊社特有の課題があります。それは、慎重で受け身型の社員が多いということ。鉄道業界は、安全運行が「当たり前」とされる世界。「安全第一」という価値観は非常に重要なことではあるのですが、一方で、変化を怖れるマインドが企業風土を培う要因ともなっています。しかしそれでは、鉄道業界を取り巻く昨今の急激な変化には対応できません。
一般に鉄道というと「安定」のイメージを持たれるかもしれませんが、当社でいえば、女性社員の増加や、インバウンド伸長によるお客様ニーズの国際化・多様化、さらには海外への事業展開など、実際にはさまざまな変化が起きています。また、働き方改革などにより、社員のライフスタイルも大きく変わってきており、今後もその傾向はますます高まると予想されます。
こうした変化に伴い、社員の学ぶべきこと、身につける知識も変わってきており、社内報の制作側にも、時代の波に柔軟に対応し、あらゆる角度から物事を見る力、そして挑戦する力が求められていると感じています。
列車を走らせながら敢行した、前代未聞の難工事
今回ゴールド賞をいただいた特集「銀座線渋谷駅、挑戦の軌跡」は、まさにその「挑戦」を色濃く打ち出した企画で、日本最古の地下鉄である銀座線の発着駅・渋谷駅の大規模移設工事を取り上げました。
銀座線渋谷駅は、1日22万人が利用する、主要な駅の1つ。1938年開業と古い駅舎のため、混雑や乗り換え経路の複雑さなど問題が多く、過去に何度も改築の話が出ていたものの、JRの列車が行き交う直上および百貨店の中にあるという位置の関係で、長らく当社単独での工事が難しい状況にありました。渋谷駅周辺の再開発に伴ってようやく工事着手できたのは、2009年。それから約10年を経て、2020年1月に、未来志向の駅として「新生・渋谷駅」が誕生しました。
特集を組んだ理由は、大きく2つあります。
1つは、数十年に一度あるかないかの大規模な工事だということ。建物が密集する都市において営業列車を走らせながら行う工事というのは非常にレアなケースであるうえとても難しく、まさしく前代未聞と言ってもいい一大プロジェクト。そのため、会社のニュースとして発信する必要性があったのです。
2つ目は、技能・技術を伝承する重要性を伝えるため。現場における技術の伝承は当社の長年の課題で、その意味でも欠かせない素材でした。また、本プロジェクトは既存工法を応用したものではありますが、その応用レベルが桁違いに高いため、レガシーとして未来に残したいという会社の方針もありました。
企画の狙いは以下3点、すべて先に挙げた編集方針に合致したものになっています。
企画の狙い
- 工事のことをよく知らない社員にも意義を伝えたい
(教育) - 関係者の熱いメッセージから、刺激を受け熱い気持ちになってほしい
(働く動機付け) - 一大プロジェクトをやり遂げた「誇り」を感じてほしい
(一体感の醸成)
この3つを通して、社員の心に少しでも「自分も挑戦したい」という思いが芽生えることを期待して制作しました。
素材を生かしたシンプルな構成で、「人」にフォーカス
本特集は10ページ。見開きごとに5つの内容を盛り込んだのですが、プロジェクト自体が壮大なため、「事実」をありのままに伝えることに徹し、シンプルかつオーソドックスな構成にしました。こだわったのは、各見開きのテーマを明確にすることと、時間軸に沿って展開すること。そうすることで、ブレずに制作でき、読者にとってもわかりやすい内容になったのでは、と考えています。
各見開きのテーマと構成は下記の通りです。
【誌面展開】 ※「」内はテーマ
●1〜2ページ 「リボーン」
開業日に撮影した駅舎の写真を大きく見開きで使い、新駅を大々的にアピール。同時に、最低限知っていてほしい注目ポイントを4点に絞って掲載。
●3〜4ページ 「プロジェクト始動」
プロジェクト初期のメンバー2名に当時を振り返ってもらうインタビュー記事をドキュメンタリー調で表現。
●5〜6ページ 「10年分のバックヤード」
工事に携わった社員たちの苦悩や葛藤、喜びをオムニバス形式で掲載。
●7〜8ページ 「運命の6日間」
プロジェクト最大の山場(第3回線路切り替え工事及びホーム移設工事)にあたる6日間を、必見ポイントの写真と4名の解説で紹介。クライマックスにふさわしい臨場感を演出した。
●9〜10ページ 「さらなる進化」
今後も進化を続けていく渋谷駅の未来像を役員のメッセージとともに指し示した。
工夫点としては、工事そのものよりも、携わった「人」にスポットライトを当てたことです。
可能な限り関係者に直接取材を行い、無理な場合は、ヒアリングシートに記入してもらう形で多数の声を集めました。そのどれもが興味深い話ばかりで、どこを抽出するかは迷いどころだったのですが、コンセプトを「感情が揺さぶられた瞬間」に設定して選び出しました。関係者の「思い」を伝えることで、読み手にも何らかの「感情」を引き起こさせたい、そんな狙いがあってのことです。
もう1つ、コメントすべてに顔写真を入れたこともポイントです。写真の中でもっとも人目を引くのが顔写真だと言われていることが、その理由です。加えて、写真の脇にはプロフィールも掲載。このセットは、感情移入してもらうためのちょっとした仕掛けですが、その裏には、そのまま目を工事写真や文章に転じてもらいたい、そうすれば必ず臨場感を持って読んでもらえる、という確信に近い思いがありました。
こうした意図がうまく伝わったのか、本特集への読者の反応はとても良く、アンケートにも好意的な意見が多数寄せられました。
読者のニーズに応え、より魅力ある社内報に
「社内報アワード2020」でも高い評価をいただき、大変うれしく思っていますが、冊子自体の課題は少なくありません。特に改善したいのは、本誌全体の閲読率です。
アンケートによると、94%の社員に読まれているものの、そのうちの60%は興味のあるページだけしか読んでいない、という結果が出ています。つまり、読者のニーズとの乖離があるということです。全体の閲読率を100%に近づけること、それが私たちの目標です。そのためには、読者の要望や声によりいっそう耳を傾け、誌面にしっかり反映していくことが大切だと考えています。
目指すのは、読んだ社員が、何かしらの気付きを得られる社内報。その結果として、会社が希求する「挑戦する社員」を一人でも多く増やせたら。そんな思いを胸に、まずは我々制作陣が挑戦心を持って、社員の気持ちを刺激する企画をたくさん生み出していきたいと思っています。
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グループ報『めとろはーと』概要
創刊:1955年
仕様:月刊、A4判、4色、36P~
発行部数:13,000部 - 会社情報
URL: https://www.tokyometro.jp/
[編集部Pick Up]
- 編集部訪問でも有益情報を発信してくださいました
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