旭化成グループは世界20カ国以上に生産・販売・研究開発の拠点を持ち、4万人近い社員を擁するグローバル企業です。創業時より変化の気風に富み、時代のニーズに応じてポートフォリオを積極的に転換し、事業拡大を図る多角化経営に取り組んできました。近年では新たなトレンドを見据え、バッテリーセパレータメーカーや自動車内装材メーカーの大規模なM&Aを実行したことでも話題を呼んでいます。
2022年に創業100周年を迎える同社は、その先の2025年に売上高3兆円という目標を掲げ「収益性の高い付加価値型事業の集合体」となることを目指しています。グループ社内報『A-Spirit』は、こうした経営方針を社内に浸透させ、高い専門性ゆえに不足しがちな事業部間のコミュニケーションを高める役割を担っています。
中期経営計画を反映させて誌面をリニューアル
現在の『A-Spirit』は2016年度にスタートした3カ年の中期経営計画「Cs(シーズ) for Tomorrow」に基づいてリニューアルされました。2018年度までの中期経営計画では「クリーンな環境エネルギー社会」と「健康・快適で安心な長寿社会」の実現に向けた経営を、3つのC(Compliance、Communication、Challenge)の実行により「成長・収益性の追求」「新事業の創出」「グローバル展開の加速」を戦略の柱とする持続的成長に向けた事業基盤づくりを進めています。また同社の強みでもある多様性を生かした旭化成グループ相互の結合「Connect」で、昨日まで世界になかったもの(価値)を社会へ提供〈Creating for Tomorrow〉するということがテーマとのこと。
広報室CSRグループ長である石川 徹さんは『A-Spirit』の編集方針について次のように語ります。
「当社グループは化学品、繊維、住宅、医薬・医療機器など多種多様な事業を展開していますが、事業間の壁が存在し、シナジー効果が十分発揮できていないという課題があります。こうした状況のもと、トップの経営方針を浸透させつつ、グループとしての一体感を醸成し、その総合力を高める一助となることが『A-Spirit』の大きな役割の1つです」
さまざまなCをキーワードに新たな企画を展開
この中期経営計画の方向性を具現化する企画として打出されたのが「Cのゲンバ」と「解体新所」です。広報室CSRグループの名和 志寿香さんは、企画の狙いについて次のように説明します。
「『Cのゲンバ』は3つのCのうちChallengeに焦点を当て、さまざまな事業領域で“挑戦する人”を紹介する企画です。どのように挑戦してどのような悩みを抱き、どうやって乗り越えたかというドキュメンタリー仕立てになっており、他事業部の社員が読んでも興味の湧きやすい内容にすることを心がけました。
また、『解体新所』は一人の社員がリポーターとなって、自身とは普段関わりのない事業部を訪問。素朴な疑問や質問から事業に対する理解を深め、さらに事業部同士の融合、今後のConnectの可能性を探っていくという企画です」
この企画にリニューアル時から携わっているのが、広報室の荒田 実紀さん。2企画とも、思った以上に反響があったと言います。
「この2つの企画は読者に新しい視点を持ってもらえた、という点で手応えを感じています。今までほとんど関わってこなかった事業をあらためて知る、あるいはプロジェクトを進める上での工夫や心構えなどを別な角度から知る機会となり、『ヒントにさせてもらった』『今の自分に生かしたい』という意見もいただいてありがたかったです。
こうした企画がきっかけとなって新しい事業の芽が生まれれば、会社も社内報もさらに活性化すると思っています」
社員が誇りを持ち、社外にも魅力を発信できるツールに
リニューアルの際には、国内外のニュースやトピックスをコンパクトにまとめて紹介するページも「エースピTIMES」として読みやすく生まれ変わりました。担当しているのは広報室 報道グループの阿曽村 明子さん。
「普段はメディア向けのニュースリリース作成・発表などの対外的な仕事が多く、『エースピTIMES』はそれらのソースをもとに社内向けにまとめ直して記事にしています。事業部の方に記事を社内報に掲載する際に再度お願いをすると喜ぶ方が多く、社外だけではなく、社内に対しても自分たちの仕事をアピールするニーズもあると感じています」
と、社内外双方を知る立場ならではの感想を口にします。さらには社内報が社外向けにも活躍しているとも言います。
「『A-Spirit』は、マスコミにも一定数配布しています。そのため、社内報の記事を見て取材を申し込まれることもあり、非常にユニークなツールに育っていると思います」
企業の特質を生かし唯一無二のメディアに
『A-Spirit』のユニークさは記事バランスにもあります。
経営方針に直結する真面目な話題だけではなく、スポーツやエンターテインメントなどの話題にも恵まれているからだと荒田さんは感じています。
「陸上部が全日本実業団駅伝(通称:ニューイヤー駅伝)2019で三連覇を成し遂げ、柔道部も世界大会優勝者、オリンピック選手を多数輩出するなど、スポーツの話題が社内全体を勇気づけてくれます。また、旭化成グループキャンペーンモデルのページを設け、その活動や日常を紹介することで誌面に華やかさもプラスされます。剛柔がバランスよく同居する誌面を作れることが、当社の利点かなと思っています」
模索する中で、ARを取り入れた新たな試みが始動
2019年1・2月号で1220号を数えた『A-Spirit』。歴史とともにさまざまな挑戦が続きます。初めてエントリーしたウィズワークス主催の「社内報アワード2018」では、3企画がブロンズ賞に輝くなど、高い評価を獲得しました。
石川さんは次のように語ります。
「社内報という性格上、客観的な評価を得る機会が少ないので、社内報アワードで賞をいただいたのは大きな励みです。社内報は効果測定が難しいメディアですが、これからも挑戦を続け、読者の皆さんの役に立ち、楽しんでもらえるようなものにしていきたいです」
新たな試みとしてAR(拡張現実)技術を利用した動画コンテンツも開始しています。
「今までもイントラネット上で動画配信は行っていましたが、より身近にスマートフォンで自宅でもアクセスできるようなものをと考え、「@AR」を導入しました。導入したばかりなので、効果はこれからというところですが、『新しい試みで、面白い』という声など寄せられており、励みになっています」と名和さん。
荒田さんもこうした新しい試みに挑戦することに大賛成だと言います。
「社内報制作メンバーは毎回「どんな企画が喜んでもらえるのか?」悩み苦しみますが、だからこそ一冊に結実する喜びも味わえます。私も撮影にプロカメラマンを入れたり、新企画を提案したりしてきましたが、それも読者が満足感を感じられる誌面にしたいという思いからです。」
さらなる成長、そしてグローバル・メディアへの挑戦
そして、『A-Spirit』が目下抱えているのはグローバル企業ゆえの悩みです。
「現在は日本語版から記事をピックアップし、広報室の担当者が英訳してPDF配信しています。ただ、日本で話題になったことでも海外では全くピンとこないことも多く、タイムラグもありますし、どう解決していくかがこれからの課題です」と名和さんは話します。
「さまざまな事業がありますので、なるべくバランスよく紹介していくということを心がけています。ただ、それでも限界はあります。近年、M&A等で多様な価値観を持つ新たな仲間たちが増え、グローバル企業としての成長は喜ばしいことですが、その状況下でインナーコミュニケーションのメディアとして、どのような方向性のもと、どのような発信を行うべきか悩み、試行錯誤しています。今まさに、産みの苦しみだと思っています」と石川さん。
2019年5月には新しい中期経営計画が発表されるので、それに合わせてさらに誌面をリニューアルする予定で、これからも『A-Spirit』チームの挑戦は続きます。
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グループ社内報『A-Spirit』
創刊:1947年
発行部数:約2万9,000部
仕様:A4版、4色、24〜36ページ
発行頻度:隔月 -
会社情報
URL:www.asahi-kasei.co.jp
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