今年6月に創業120周年を迎えた、福岡県北九州市に本社を置く濱田重工株式会社。1898年、八幡製鐵所の建設工事に従事したことから事業をスタートし、現在は、鉄鋼・エンジニアリング・半導体の3事業を展開。新日鐵住金株式会社をはじめとするお客様のパートナー企業として、日本の基幹産業を支える一翼を担っています。
そんな同社の広報グループでは、創業120周年記念のリブランディング事業や、120年史の編纂にも取り組みながら、通常どおりグループ情報誌『はまゆう』は月刊発行を続けています。多忙な中でも変わらぬ高いクオリティは、いかにして保たれているのでしょう。その秘訣や工夫についてお話を伺いました。
社内報は、隠れたスターに光を当てる表舞台
グループ情報誌『はまゆう』は、2,000人のグループ会社社員が、グループ全体の情報を知る貴重なツールです。新卒で入社以来、一貫して社内報業務に携わってきた編集長の古賀明日香さんは、「弊社は全国に拠点を置いているため、社員は事業所内や自身の仕事など、目の前の課題に注力しがちです。経営方針や経営計画、会社の決定事項を自分ごととして捉えてもらえるように、社内報の企画で咀嚼して伝え、社員一人ひとりの仕事に置き換えて考えてもらうことを目指しています」と話します。
中でも力を入れているのが、社員参加型の特集企画です。「『はまゆう』は、隠れた優秀な社員を主役にする場です。口数が少なく目立つタイプではない社員も、『はまゆう』への登場をきっかけに光が当たるよう、公平性を意識しています」と古賀さん。
余裕を持ったスケジュールで、高い品質を維持
『はまゆう』は、広報グループの古賀さんと、前田麗保さん、全国の事業所にいる編集委員8人、内容を精査する役員・管理職の皆さんによって作られています。
編集会議は月に1回、1時間開催。事前に古賀さんと前田さんが企画のたたき台を考えます。開催の1週間前までには資料を準備し、「これについての意見をください」との案内を編集委員に送付。あらかじめ現場の意見も聞いてきてもらっています。
毎年11月には翌年の年間企画テーマを立案。掲載号の3、4カ月前から企画の詳細を検討し、2、3号分を同時進行しています。常に納期に余裕を持ったスケジュールで制作し、工程表にある納期の1週間前には、全工程を終わらせているという徹底ぶりです。
そんなスムースな進行のカギを握るのが、社員への取材です。『はまゆう』は社員を主役にする場。社員への取材が欠かせません。まずは取材対象者を入念に調査し、その人物の何が秀でているのかを、定量的・定性的に分析。誰が見ても「この人なら」と思える社員を対象にします。
取材先が決定したら、早め早めに取材を打診。余裕を持った依頼をすれば、たいていは引き受けてもらえますし、だめだった場合も違う依頼先を探すことができます。
この「早め早め」の原則を、古賀さんは、新入社員時代に上司から教わりました。「人に仕事を頼むからには、相手の都合を考えなさい。相手がどうしてほしいかを考えて動き、仕事で相手の力になれると、頼みやすい関係が築けるようになるから、と。その教えを意識して仕事をしていくうちに、少しずつうまく進められるようになりました」と振り返ります。
この心得は、2016年に新卒入社で社内広報に配属された前田さんにも受け継がれています。ただ、前田さんは一度、忙しい現場をおもんぱかるあまり、「忙しければ、断っていただいても構わない」のニュアンスを取材依頼文に含めてしまったことがあったそうです。
「これでは社内報に出てほしい気持ちが伝わらないよ、と古賀さんからアドバイスをもらい、『確かに、そうだ』と。それからは、『あなたが協力してくれることで、みんなにとっていい誌面ができるんです』の思いで依頼をしています」と前田さん。
もう一つ、取材前にはできるだけ下調べをし、深掘りできる準備をしてから取材に臨むことも、古賀さんの原則です。「私は現場や技術の仕事に関しては素人です。そんな自分が見て、読んで分かるものを作ることにはこだわり、記事の出来に納得できないときは、再度、話を聞くこともあります。その場合も、一旦記事を起こして、相手には補足で書き込んでもらえるようにしています」。
原稿確認時も、相手への負担を軽くする配慮を決して忘れない古賀さんです。
企画の立て方を学び、「読みたい」社内報に進化
こうしたさまざまな工夫によって、毎号、充実した内容を提供できている『はまゆう』ですが、かつてはニュース主体のタブロイド紙でした。現在のスタイルになったのは2011年から。きっかけは、古賀さんがウィズワークスの初心者セミナーをはじめ、外部の社内報セミナーに参加したことでした。
「他企業の社内報を見て愕然としました。企画がきちんと練られていて、こんな社内報だったら、きっと社員の人も楽しみに読んでいるんだろうな。『はまゆう』もこんなレベルにしたいな、と思いました」。
そこから社内報の改善が始まりました。セミナーに足を運び、専門家からの講評をもらいながら、企画の立て方を勉強。雑誌を読んだり、テレビのCMを見ても、「この背景、仕掛け、ねらいはなんだろう」と考えて、「いいな」と思ったことはすぐにメモ。それを制作に生かしていきました。
そんな改善の積み重ねにより進化する『はまゆう』に、社内からは、「自分たちと同じ立場の社員が登場し、仕事や社員の思いが見えるようになった」「うちの職場も出してほしい」といった嬉しい声が増えていきました。「それが本当に楽しかったんです。ちょっとずつレベルアップをして、社内の反響も変わって…」と古賀さん。「社内報アワード2016」に応募した企画は、ゴールド賞に3企画が受賞。見事に成果を出しました。社外の読者からも、社内報を心待ちにしていただけるなど、コミュニケーションや同社の魅力アピールに大切な媒体となりました。
現在は、企画を立てるときに社内の情報だけに特化せず、「他社から学ぶ」ことにも力を入れています。企業の有識者へのインタビュー企画は、社内からも好評です。社外の方への取材依頼は3カ月前に。質問項目は1カ月以上前に送るなど、いっそう「早め早め」と「相手都合」を大切にしています。
社内報の知見を生かして、コーポレートブログも
こうして一人編集で、『はまゆう』を牽引してきた古賀さんですが、社内広報の活躍が社内でも認められ、2017年4月には、社内組織上、総務から独立し「広報グループ」が発足。前田さんが編集メンバーに加わり、編集部としてパワーアップしました。
古賀さんは「英語やイラストが得意なメンバーが加わり、海外のグループ会社への依頼状作成や翻訳、ラフレイアウトの作成など編集力が高まりました」と笑顔で語ります。
編集部の体制が整ったことで、2017年5月からは、社内外向けのコーポレートブログもスタート。コーポレートキャラクターに扮して語る口調で、社内報よりも早めに社内のニュースを即時発信。学生に社風を感じてもらえる採用広報ツールにもなっています
最後に、社内報に携わって間もない人たちに、古賀さんからエールをいただきました。
「社内報の仕事は、やった人しか分からないたいへんな仕事だと思います。原稿の依頼をして『それどころじゃない』などと断られれば、凹みもします。ですが、押してだめなら、引いてみる。一度断られても、またの機会を待てばいい。何かの折に足を運んで、話せるような関係になっていけば、次の機会には頼みやすくなります。焦らなくてもいいと思います」。
社内広報が評価され、社外広報までも任されるようになったグループ情報誌『はまゆう』編集部。創業120周年の記念式典という大きな行事も無事に終え、社内広報から社外広報へと活躍の場を広げる編集部には、さらなる大きな期待が寄せられています。
- グループ情報誌『はまゆう』
仕様:A4判、4色、24~36ページ
発行頻度:月刊
発行部数:3,000部 - 会社情報
URL:http://hamada-hi.com