「社内報アワード2017」の事例発表3社目は、2016年4月に発生した「平成28年熊本地震」における会社の対応をまとめた企画「その時、私たちがすべきこと―『平成28年熊本地震』を受けて―」が、特集・単発企画8頁以上部門でゴールド賞を受賞した株式会社日立ハイテクフィールディングです。企画の背景やねらい、制作時に意識していたことなどをご紹介します。
いつ起きるか分からない“その時”の備えにする
当社の冊子社内報『IN FIELD』は、経営層と従業員のタテのコミュニケーションをつなぐことを役割としています。さらに現在は「会社の今を“伝える”だけでなく、従業員に“読まれ(伝わり)、使われる”社内報」を目指し、制作に取り組んでいます。受賞企画は2016年4月に発生した「平成28年熊本地震」における当社の対応をまとめたものです。
半導体装置や各種計測装置などの保守サービス業務を行う当社は、全国40カ所の拠点でサービスを展開していますが、この地震で熊本サービスステーションが被災しました。このとき、東京本社と福岡の九州支店を中心に、現地を支援しましたが、地震の被害が局地的であったことから、国内40カ所ある拠点のうち、震災対応に携わらなかった多くの従業員は、被害状況や社内の対応を知ることができませんでした。そこで、社内報を通じて、現地の状況や会社の対応を具体的に伝えることで、いつ、どこで起きるか分からない“その時”の備えとすることを目的に企画しました。
現地の状況や対応を、ポイントを絞ってまとめる
当社の第一使命は、お客様に納入した装置の安定稼動を実現すること。震災のような予期せぬ事態が発生したときこそ、当社のサービスの真価が問われます。
誌面構成は、まず特集の前段に「震災に備える」と題した社長からのメッセージを掲載。続いて見開き2ページで「お客様の被害状況と各サービス部門の対応」を展開しました。当ページでは、震度5以上を観測した地区の納入台数と、復旧作業を行ったエンジニアの延べ人数を「数値」で大きく表示し、被害の大きさを伝えるとともに、取り扱う装置の種類ごとに分けられた社内6つの部門のそれぞれの対応状況が一目で分かるような構成としました。
当社には幅広い分野のお客様がいらっしゃるため、最善の対応策は一つではありません。例えば、患者さんの命にもかかわる医用部門のお客様などへは迅速な対応が求められますが、臨時休業を取られるお客様にとっては、安否確認などの度重なる連絡は、かえってご迷惑になることもあります。こうしたお客様ごとの特徴や求められる対応を、ポイントを絞ってまとめました。
私たちも連日、社内の災害対策本部会議に参加して状況を把握。現場へ行った人にヒアリングすることで、ターゲットである復旧作業に関わらなかった従業員にも、状況をイメージできるように伝えることを意識しました。
▲最初の見開きでは、現地の具体的な状況が伝わるよう数値を大きく表示
ありのままを、リアルに伝える
続いては「復旧状況および当社の取り組み」を4ページにわたり時系列で紹介。さらに後半には現地で復旧作業を行ったエンジニアを各部門から1人ずつ選び、具体的な生の声を掲載しました。限られたスペースに、多くの情報を盛り込めるよう、インタビューの際はポイントを絞って質問することを意識しました。
最後は被災地である熊本、現地対策本部の福岡、東京本社の各所で指揮を執った3人の声を紹介。各地のリアルな状況や各拠点への要望など、中には厳しい意見もありましたが、今後の教訓として誌面に残すべく、ありのままに伝えました。
▲復旧状況は時系列で紹介。対策や教訓、新たな課題を写真やイラストを活用してまとめた
つらい状況も記録として残すことの意義
制作においては、まず阪神・淡路大震災時の復旧支援者による手記や、東日本大震災時の社内報『IN FIELD』を読み返しました。被災地に支援者を派遣する際の留意点や、食糧や宿泊場所の準備など、過去の記事には災害対応への多くのヒントが詰まっていました。
今回の企画制作にあたっては、緊迫した状況で知りたい情報が探しやすく、いざというときに読み返しやすい誌面にすることを意識しました。それを踏まえ、本企画では端的な文章でポイントを伝えることを心がけています。
通常は2人体制で制作を行っていますが、このときは1人が支援者として現地のサポートに行った期間もあり、タイトなスケジュールの中、ギリギリまで現場の声を拾っていきました。今、振り返ると現場の状況を自分たちの目と耳で確認し、この企画で伝えるべきことは何かをじっくり考え、制作に取り組めていたのではないかと感じます。
発行後、従業員からは「震災時に、全社一丸でどのような対応を取ればよいか参考になった」「震災を経験していない拠点への備えとなる」といった感想をいただき、災害対応を考えるきっかけや備えの重要性を提供できたかと思います。また、被災地で指揮を執った人からは「現場の様子を、もっと写真で記録しておくべきだった」という声もありました。
被災現場での取材や写真撮影にはためらいがありますが、会社にとっては貴重な記録です。私たちも、震災対応の最中に社内報取材を行うことに心苦しさを感じながらも、「今回の震災で得た教訓を今後に活かしたい」という思いを伝え、現地の協力を得ることができました。
被災地の方々へは十分に配慮しながらも、会社の未来のためにしっかりと記録を残す。今回の企画は、社内報という媒体の意義とその価値を、改めて認識できた仕事になりました。
社内報『IN FIELD』概要
◆創刊:1979年
◆発行部数:1,500部
◆仕様:AB判 20~24ページ
◆発行頻度:季刊