「社内報アワード」に入賞された企業にご登場いただくオンライン事例発表セミナー。2024年の第1弾は、Web/アプリ社内報部門 企画単体でゴールド賞を受賞した株式会社ファミリーマートから、管理本部 広報部 コーポレートブランドグループの長野 梨江子さんにご登壇いただきました。
コンビニエンスストアの新店舗をゼロからサポートする店舗開発職の活躍にフォーカスした企画は、Webならではの工夫や仕掛けが盛りだくさん。感動や驚きに満ちたコンテンツの制作秘話をお聞きしました。
【プレゼンテーター】
株式会社ファミリーマート
管理本部 広報部 コーポレートブランドグループ
長野 梨江子さん
[ファシリテーター]
ウィズワークス株式会社
社内報総合研究所 所長
橋詰 知明
読みやすさ重視でボリュームを絞る
――貴社では社員、加盟店、お客様と3方面のステークホルダーに広報媒体を展開しています。複数あるインターナルコミュニケーション(IC)ツールの中でも柱と位置付けるのが、社員向けのイントラネット(ポータルサイト)だそうですが、まずはその概要についてご説明をお願いします。
長野:社員向けのICツールは長く紙で発行していましたが、2019年4月にポータルサイトに移行しました(加盟店と本部をつなぐコミュニケーションツールとしての紙媒体は継続)。私はちょうど切り替わる時期に広報部に異動になり、以来内容に関して試行錯誤を重ねてきました。社員向けには、現在は次の5つの媒体を展開しています。
● 社長メッセージ・記事共有(目的:トップの想い・動きを社員に伝える)
● ファミりんく(目的:各部門の取り組みや想いを知る)
● わたしの隣のスゴい人(目的:社員間のコミュニケーションの活性化)
● ぶらり営業所の旅(目的:社員間のコミュニケーションの活性化)
● FamilyMart NEWS/受賞一覧(目的:会社のできごとをタイムリーに紹介)
全体に共通する目的:社員と会社(経営層)をつなぐ
社員がファミリーマートを、もっと好きになる
※配信頻度は、ニュースのみ週2~3回で、その他は月1回程度。
――今回のゴールド賞受賞は、『ファミりんく』 に掲載された企画ですね。こちらについて詳しく解説していただけますか。
長野:『ファミりんく』 はしっかりした読み物を発信する媒体ですが、読みやすさを考慮して、文字量2,500~3,000字、4~5分で読めることをルールにしています。コンテンツは、社員の活動をリポートした「社員に密着!シリーズ」やテーマを設けて社員に語り合ってもらう「座談会」、社員をクローズアップした「プロフィール」などがあります。
ゴールド賞をいただいた企画は、「社員に密着!シリーズ」の中の1本です。社員または部門に密着取材し、取り組み内容や想いを紹介する本シリーズは、読者に対して部門や職種への理解促進を図ること、また同時に取材対象者のモチベーション向上を目的としています。
読者と取材対象者の共感を大切に
――受賞企画は「自分の子どもに誇れるお店をつくりたい『店舗開発』編」という副題ですが、どのような理由・背景から制作されたのでしょうか。
長野:この企画は第7弾になるのですが、これまで取り上げたのは、加盟店の経営コンサルを行うスーパーバイザー職など、開店した後の業務からのケースが多く、「そういえば、開発職ってやっていないよね?」という話からスタートしました。店舗開発職はお店をスタートするのに必ず必要な職務であることを社員も認識してはいるのですが、どういう仕事で、どんなプロセスでお店ができあがっていくのかは、あまり知られていないという現状がありました。そこで、光を当ててみようとなったのです。
――どのような記事か、こだわりを含め解説をお願いします。
長野:全体の構成はこのような流れにしました。
「自分の子どもに誇れるお店をつくりたい『店舗開発』編」構成
タイトルとリード
↓
開発担当者のプロフィール
↓
オープンの日付と賑やかな店舗の様子を紹介
↓
業務フローの図版(開発職の仕事内容を知ってもらうため)
↓
「開店までに乗り越えた壁」と題して担当者の談話
写真で見る「××店」ができるまで
担当者へのインタビュー
その中でも特に工夫を凝らしたのが、「写真で見る」のパートです。小さい写真を組み合わせた4つの集合写真と、大きい写真で構成しているのですが、工夫を凝らしたのが、一番左に置いた大きい写真。こちらは、更地からお店ができるまで自動で写真が切り替わっていく趣向になっており、日付と13枚の写真から成り立っています。簡単にいえば、定点観測ですね。カルーセル機能というものを使っているのですが、読者からは「初めて見た」「繰り返し見た」という声を多くいただきました。写真は、工事関係者の方に協力を仰いで撮っていただきました。
――更地から撮影していくということで、店舗オープンの3か月前から準備されたと伺っています。企画のポイントや、苦労した点をお聞かせ願えますか。
長野:企画を練る段階で意識したのは、開発職のことを知らない読者にわかりやすく伝えることと、開発職をしている方に「その通り!」と共感していただけることの2点でした。そこで注力したのが、店舗選びと人選です。特に店舗選びは苦労しました。日々取材する必要があるので、私たち編集担当者が行きやすい場所であることは絶対条件。加えて、更地から追うという絵作りのためには駐車場を併設した路面店であることも必須条件で、東京はビル内の店舗が多いため難航しました。また、人選については、開発職の方に納得感を持ってもらうことを重視し、経験豊富な中堅社員に依頼しました。両方の条件を満たす選定ができたことが良い企画になったポイントだと思います。
もう一つ、大変だった点は、情報を絞ることです。これまでは短期間にギュッと凝縮した取材をすることが多かったのですが、この企画は3カ月かけてじっくり取材をしたため情報が非常に多く、どれをピックアップするかにかなり頭を悩ませました。ただ、読者の読みやすさを考慮すると、規定の文字量をオーバーすることはしたくありません。そのため、業務紹介など簡潔にできるものはマニュアルを流用し、文章で表現することは、仕事への向き合い方や考え方、熱意という部分に絞るよう取捨選択しました。
あとは、取材する中で、純粋に響いた言葉を残すことにこだわりました。実は「自分の子どもに誇れるお店をつくりたい」というサブタイトルも、取材対象者から出たフレーズなんです。一番印象に残った言葉であり、イメージもしやすいので、サブタイトルに使うことにしました。
――ぐっと惹きつけられるフレーズですよね。この言葉に限らず、作品全体から熱量が伝わってくるのですが、作り手の想いというのはどのように込められていますか。
長野:個人的には、取材した際に感じたことは大事にしたいという想いがあります。なぜなら私も取材する際は読者と同じく初めて知るという立場なので、その時に惹かれたことというのは、読者もまた興味を持つポイントだと思うからです。特に今回は驚きや感動がたくさんあったので、そこが伝わるようにいつも以上に意識しました。
とはいえ、私の想いだけで突っ走るのは危険ですから、普段から部内の第三者に冷静な目で確認してもらうようにしています。原稿も、私が書くと思い入れが強くて長くなりがちなので(笑)、他者の目を通すことで洗練させていく工程は欠かせません。複数の目でチェックする体制は、編集するうえで、もっとも大切にしている部分です。
Webだからこそできる仕掛けを
――もう一つ、審査員から高く評価されたのが、Webならではの仕掛けが随所にちりばめられている点でした。先述の画像の自動再生は審査員からも高く評価されましたし、この記事は店舗のオープン日に配信されて、当日の様子を冒頭で紹介していますよね。このスピード感は、紙では真似できませんよね。
長野:開店は、店舗開発職の業務の中では最後に当たる部分なのですが、そこをあえて記事の最初に持ってきて、アイキャッチにしました。確かに、Webだからこそできたと思います。
――「いいね」ボタンが冒頭と最後に配されているのも目を引きました。これはどんな意図があってのことでしょう?
長野:普通は一番下まで読んで「いいね」を押すと思うのですが、押し忘れる方もいるはずです。そうした方に、①「押し忘れ」を認識して押すことを促すため ②最初に数字を見せてこんなに人気がある記事だと思ってもらうため、という2つの意図があります。「いいね」を押すとGoogleフォームのアンケート機能に飛ぶようになっていることもあり、すべての記事の冒頭と最後に付けるようにしています。
――リマインドとアイキャッチ、2重のねらいがあるんですね。目を引くといえば、一番最後に載せた長野さんの写真。ちょっとクスっと笑えていいですね!
長野:ありがとうございます。「この人が書きました」という意味で毎回載せています。顔を覚えてもらえることで、いろんな方から声をかけていただけますし、取材依頼がスムーズに進むことが多く、業務に役立っています。
知ることの楽しみを社員に共有
――細かいところまで、実に緻密に計算されているのですね。それがコンパクトでありながらも魅力が際立つ企画になった要因だと感じます。最後に、長野さん自身が、日々の社内報づくりで感じていることをお聞かせください。
長野:今回の取材でも感じたことですが、自分が知らない社内のことを知るというのはすごく楽しいですし、それをみんなに伝えていけることも、大きなやりがいになっています。ファミリーマートで働くみんなに会社をもっと好きになってもらいたい、という気持ちがモチベーションになっていますね。
――同じ業務に励むICご担当者に、ご自身の経験からアドバイスを送っていただけますか。
長野:5年という担当歴から思うのは、杓子定規な文章よりも、書く人間が感じたこと、心が動いたことを伝えていく方が、読者から好反応が得られるように感じています。私自身これからもそのことを忘れず、作り手の顔が見えるようなコンテンツを発信していきたいと思っています。
――心が動いたことを伝えるというのは、沁みるワードですね。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
〈 Question&Answer 〉
セミナー配信後に寄せられたたくさんの質問に、長野さんが答えてくださいました。その一部をご紹介します。
Q1
「いいね!ボタン」を実装するハードル(いいね!が少ないと登場する社員は悲しく感じるのでは……など)も考えられますが、どういう理由からご決断されたのでしょうか?
「2019年にWeb社内報を始めた当初から、各記事にアンケート機能を設定していました。以前は「10点満点評価」と「フリーアンサー」としていたのですが、気軽に反応できるように「いいね!」と「②フリーアンサー」に変更しました。アンケートの平均回答数が変更前の3倍以上になったので、効果を実感しています」
Q2
今回お話を伺ったイントラ内『ファミりんく』の企画と、加盟店向け冊子媒体の企画は連動していますか? また、冊子媒体の読者層はどこまで広げていますか?
「イントラ内のWeb社内報は「本部社員向け」、冊子媒体は「フランチャイズ加盟店向け」です。企画会議を行い、同じテーマを取り上げる際には素材を共有しながら、対象者に合った内容を深掘りして制作しています。例えば「新商品」がテーマの場合、本部社員向けのWeb社内報では商品開発会議の様子や市場調査など、社員の業務に密着して紹介。一方で冊子媒体は、商品の特徴やこだわりポイントなど、加盟店様にとって商品の売り込みにつなげやすい内容を中心に紹介します。
冊子媒体は1店舗に1冊配布し、加盟店のオーナー・店長・ストアスタッフなど、同じ店舗で働く皆さんに見てもらっています」
Q3
店舗数が10,000以上もある中で、どのように情報収集されていますか?
「毎号、冊子媒体裏表紙のアンケートで各店舗から出演希望の「自薦」を募っているほか、営業担当の社員を通じた「推薦」や、各種社内コンクールの実績などをもとに、取材依頼・情報収集を行っています」
『ファミりんく』
創刊:2019年
※2019年以前は冊子で発行
閲覧対象者:正社員、派遣・契約社員
更新頻度:月に1回
会社情報:https://www.family.co.jp/
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