インターネットが普及し始めて20年。企業のICT化の進展と歩を合わせ、Web社内報はすっかり一般化しました。ですが、Web社内報だけがインナーコミュニケーションの「最適解」でしょうか?
今回は、弊社主催の全国社内報企画コンペ「社内報アワード」2016年の応募企業に対するアンケート調査(※)から、最新のトレンドを読み取ってみましょう。
2016年のアワード参加企業では、紙の社内報を季刊で発行する企業が40%と最も多く、うち70%以上が、より高頻度更新のWeb社内報を併用していました。
2008年のリーマンショック以降、コスト削減の観点から紙媒体の発行を止め、Web社内報に一本化する企業は多々ありましたが、今回の調査で「Web社内報のみ」と答えた企業は、全体の7%に過ぎませんでした。さらに近年、紙の社内報を復活させたという話もしばしば耳にします。これはなぜなのでしょうか。
Web社内報と紙の社内報のメリット・デメリット
Web社内報は速報性に優れ、随時更新も簡単。シンプルな情報をタイムリーに共有するのに適しています。
しかし、工場や店舗など従業員全員にPCが貸与されない現場には、伝えたい情報が行き渡りません。また、1人が1台のPCを占有している場合でも、周りの目が気になって、就業時間内にWeb社内報の画面を長時間は開いていられない――との声もあります。
実際弊社でも、「Web社内報になったら読まれなくなって…」という相談をよく受けます。
一方、紙の社内報には印刷物ならではの存在感があり、まとまった長さの文章を読ませることができるため、深く掘り下げた特集企画などに適しています。また、冊子であれば読ませたい人に確実に届けられます。
職場では忙しくて社内報に時間を割けない社員側にしても、冊子ならふとした空き時間にパラパラめくったりできます。そこで気になる記事があれば、後からいつでもどこででも、ゆっくり読み返せばいいのです。
冒頭でお伝えした「紙の社内報の季刊発行+Web社内報の高頻度更新」というトレンドから読み取れることは、「媒体のいいとこ取り」です。
つまり、ここまで述べたような紙とWebのメリット・デメリットを踏まえ、
- 短い時間で伝達できるシンプルな情報=Web社内報
- 筋道立ててきちんと読んでもらいたいストーリー性ある情報=紙の社内報
といった使用媒体の最適化策が、企業の中に定着したものと言えそうです。
紙の社内報は「コスト」から「投資」に
紙の社内報が増えるとともに、「それなりにコストのかかる紙の社内報を発行するからには、社内用途だけではもったいない」と考える企業が増えてきた傾向もうかがえます。以下は、社内報の配布先を伺った結果です。
契約社員・派遣社員にも社内報を配布する企業が85%を占め、65%はOBにも、40%は家族にも配布しています。パート・アルバイトのリテンションや社員登用へのモチベーションアップ、また忙しく働く社員の家族にも仕事や会社への理解を求めるなど、社内報の活用範囲が確実に広がっていることを示しています。
さらに、31%の企業が、「その他の配布先」として、取引先・内定者・採用関係者・マスコミ関係を挙げました。取引先やマスコミ関係など社外への配布に際しては、掲載内容に細心の注意を要することにはなりますが、その手間を押してなお、PRやファンづくりなど自社に興味を持ってもらうことに多大なるメリットを感じて、社内報を配布しているのでしょう。
これは、インナーブランディングツールをアウターブランディングにも活用して、ファンを広げていく作戦です。
紙の社内報のページ数、発行部数や発行頻度などを、ただただ縮小していく単純コスト削減は、いわば消極策。翻って、インナーからアウターへと社内報の活用用途を拡大することは、社内報のメディアとしての価値を一足飛びに向上させるとともに、「コスト」を企業価値向上への「投資」に転換する、積極策と言えるでしょう。
社員の立場で発行媒体を考えよう
社内報の発行目的――人と組織のエンゲージメントを高め、持続的に企業価値を向上させる――に立脚するならば、合理的運用のみを目指して社内報をWebに単純に置き換えて、それですぐに満足な成果を得ることは難しいでしょう。少なくとも、本来の目的を真摯に目指した結果の最適解には、なりそうもありません。
社内報は持続的に企業価値を向上させるためのものであると考えると、コストダウンは手段であり、その結果、読まれなくなってしまうのであれば、本末転倒となってしまいます。
ただし、Web化と言っても今やツールが高度化・多角化しており、いわゆるPull型の社内イントラWeb社内報しかないわけではありません。社外のスマートフォンからでも双方向のインナーコミュニケーションが可能となる社内SNSや、家族やOBにも公開できる動画配信チャネルなど、Webを活用したインナーコミュニケーションツールの選択肢は多岐にわたります。
問題は、結果として活用度合いが向上し、インナーコミュニケーションが活性化するかどうかです。
社員の立場や就業形態から考えて、読みやすいのはどんな媒体か。受け入れられやすいツールやデバイスは何か。会社によっても、業務によっても、「働き方」が多様化する今、媒体・ツール・そこに載せる情報など、インナーコミュニケーション施策そのものについて、ゼロベースで再検討することは、極めて重要なことなのです。
(※)「社内報アワード2016」応募企業へのアンケート結果から、従業員規模上位100社を抽出し集計