「社内報アワード2022」コンクールにおいて、Web/アプリ社内報部門 媒体全体でゴールド賞、企画単体でシルバー賞を受賞した株式会社 土屋鞄製造所様のWeb社内報『革ノオト』(以下、『革ノオト』)。創刊1年目で「社内報アワード」に初応募し、いきなりゴールド賞受賞という『革ノオト』は、審査員からも熱い視線を集めました。
その土屋鞄製造所様が、満を持してオンラインでの事例発表会にご登壇くださいました。その視聴者数は、普段のセミナーの倍近く。審査員だけでなく日本中の社内報ご担当者が注目したプレゼンテーションは、ハイセンスで温かい『革ノオト』独特の世界観に満ちあふれていました。
「社内報アワード2022」ゴールド賞受賞
Web/アプリ社内報部門 媒体全体
Web社内報『革ノオト』
「社内報アワード2022」シルバー賞受賞
Web/アプリ社内報部門 企画単体
「まさのりの部屋」
【プレゼンテーター】
株式会社 土屋鞄製造所
人事本部コミュニケーションデザイン課
小笹 玲子さん、小木原 佐弥さん
【インタビュアー】
ウィズワークス株式会社 社内報事業部 マネジャー 橋詰 知明
プレゼンテーション
組織課題解決のためMVV+Sと社内報を同時にリリース
小笹:弊社は1965年、家族経営のランドセル工房から始まり、現在はランドセルと大人向けの皮革製品を提供しています。お客様にご満足いただける品質、技術、美しさを目指し、ものづくりをしている会社です。従業員はパート・アルバイトも含め600人以上、国内外の店舗、工房、オフィスを合わせ約30の拠点があります。製品の企画、デザイン、製造、販売まで、全てを自社で行っているため40以上の職種があり、18歳から60歳以上のベテランまで、さまざまな年齢の人が働いています。
近年、会社が急成長したことで組織課題として浮き彫りになってきたのは、「土屋鞄らしさ」を共有する場所がなくなったことでした。加えて新型コロナウイルスが襲来。スタッフ間の物理的な距離に加えて、心理的な距離も広がってしまい、組織課題は深刻さを増していきました。
具体的にはどのような課題があるのか? 考えた結果、組織の中に「わからないまま」「知らないまま」「バラバラのまま」という3つの課題があると設定しました。どれもそのままにすると組織のエンゲージメント低下を招くものばかり――、そんな危機感から、これらの課題を社内報というツールで解決しようと考え、昨年『革ノオト』を立ち上げました。人事本部 社内報チームに所属する私と小木原で、年間150本を超える記事を取材、撮影、ライティング、Web運用まですべてを担っています。
ここで当社のミッション・ビジョン・バリュー+スピリット(以下MVV+S)を紹介します。MVV+Sは社内報と切っても切り離せないものです。
組織が小規模だったころは経営層と社員の直接的なコミュニケーションで土屋鞄らしさを広げることができましたが、創業時と比べて人数が数十倍になった現在は、「らしさ」の共有が難しくなりつつあります。さらにブランドとしてスケールアップするため、土屋鞄らしさを明文化し、より強い組織にする必要がある、そんな思いから昨年春にMVV+Sが作られ、一人一人が大切にするべき考え方や行動を言葉にしました。 MVV+Sと社内報は同じタイミングで全社にリリースされました。
会社・組織・人へのエンゲージメントを高める『革ノオト』
小笹:ゴールド賞をいただいた『革ノオト』のコンセプトは「土屋鞄に携わる人の声を聞き・共有し・愉しむ」です。『革ノオト』という名前はひとつの響きに2つの思いを込めました。土屋鞄に携わる人たちの思いを書き留める「みんなのノート」であることと、工房に響くミシンやトンカチの音、スタッフの声やお客様との会話などを広げて全社で共有する、「みんなの音」を集めたものであることです。
発行目的は、「会社・組織・人へのエンゲージメントを高めること」、これに尽きます。読後にどういう気持ちになってほしいかを、以下のように設定しました。
1 :会社/経営陣の方針・考えに対して理解を深め、興味が高まる
2 :社内のコミュニケーションを活性化・循環させる
3 :土屋鞄らしさ(=MVV+S)を実感・共有・体現し合う
編集方針はMVV+Sを基盤とし、その上に5つの方針を立てています。
5つのカテゴリー、それぞれに人気企画が
小笹:『革ノオト』のコンテンツは、大きく5つのカテゴリーから成っています。
『革ノオト』のコンテンツ
1 :会社のニュースを伝える「お知らせ」
2 :人のことを掘り下げた「ひとのこと」
3 :制作背景を伝える「つくること」
4 :社長メッセージや会社の方針を伝える「会社のこと」
5 :編集部員のキャラクターを押し出した「編集部だより」
今回、シルバー賞をいただいた、「会社のこと」カテゴリーの連載企画「まさのりの部屋」は、毎月発信される社長メッセージです。「まさのり」は社長の名前です。この企画のミッションは経営陣を身近に感じてもらい、社長を通じてMVV+Sを発信し、土屋鞄らしさの実感・共有・体現につなげることです。
定期的なアンケートでわかったのですが、この企画の注目度はとても高いのです。昨年6月は、退職する副社長との対談を掲載しました。2人の出会いからの歴史や退職の理由などを語りあってもらい、読了後に会社が一丸となれる記事を目指しました。
小木原:「ひとのこと」カテゴリーに、人にフォーカスして大切にしているものについて語ってもらう「6rls.」というコンテンツがあります。6という数字は小学校の6年間を表し、土屋鞄でも大切にしている数字になります。この企画のミッションは2つで、読者ターゲットである若手社員に数年後の自分が活躍する姿をイメージしてもらうこと。もうひとつは部署・役職の垣根を越えて幅広く社内の人を紹介することで、スタッフ間のコミュニケーションの活性化を促し、協業を生み出しやすくすることです。
その人の仕事のポリシーが垣間見られ、くすりと笑え、実際に会ったら話しかけたくなるようなエピソードを載せることで親近感を醸成することを目指していて、毎月トップ10に入る人気コンテンツになっています。
『革ノオト』制作の4つのこだわり
小笹:このように各企画にさまざまなこだわりを持つ『革ノオト』ですが、全体についても、もちろんこだわりを貫いています。それが下記の4つです。
1 :読了後の気持ちをデザインする
組織課題「3まま」を解決できるかを企画段階で徹底的に検討。土屋鞄らしさ、MVV+Sが絡められていることを検証してから原稿を練り上げる。
2 :クリエイティブへのこだわり
土屋鞄の世界観を体現するインハウスのクリエイティブチームと土屋鞄らしいデザイン設計のため立ち上げ時から協業。
3 :多様なコンタクトポイントの設計
職種によってアクセスしづらい環境の人も多いので、工房や店舗にQRコード付きのポスターを掲示。
4 :PDCAで社内報を共創する
定量・定性両側面から評価を継続。グーグルアナリティクスでPV、UUの分析と不定期アンケートを実施。8割近い人が閲覧し、2年目は昨年度比1.2倍に。
インタビュー
『革ノオト』制作の4つのこだわり
——『革ノオト』には統一された世界観と行き届いた気配りを感じます。お二人が社内報の立ち上げから携わってきたからこそだと思っていたのですが、小笹さんは創刊が決まった後に入社、小木原さんはさらにその後で担当になったと聞き、非常に驚きました。
小笹:私は編集も原稿執筆の経験もなかったのですが、弊社は「まずやってみよう」という社風で、思ったようにやらせてもらえたのが功を奏したのかなと思っています。今も試行錯誤中で、セミナーや他社事例で、社内報について日々勉強しています。
小木原:私も文章を書くのは入社以来初めてでした。写真を担当することが多いけれど、それも独学です。制作時は、土屋鞄が大切にしている洗練された上質な世界観を重んじつつ、社内報ならではの遊びごころも大切にしています。
——「まさのりの部屋」からは、社長のお人柄が伝わってきます。
小笹:社長に初めてお会いした時に、「なんてチャーミングな人だろう」と思いました。現場のことをよくわかっていて、トップダウン的な言動はまったくありません。そのチャーミングさをしっかりと読者に届けたいという思いで原稿を書いています。社長も「今回はアロハシャツで来てみたよ」など、社内報への参加を前向きに、楽しんでくださっています。経営陣のポジティブな姿勢は、社内報の浸透の強力な追い風になっています。
小木原:冒頭でお伝えした弊社のミッション「時を超えて、愛される価値をつくる」に通じると思うのですが、社内報も、技術以上に愛があることが大事だと思っています。人にも物にも愛を持って接すると、つたない文章でもそれが味わいになったり、技術がなくても写真に奥行きが表現できたりするのではないかと。温度感がある社内報を生み出すために、とても大切な要素だと考えています。
——「温度感」、すごく伝わるワードですね。お二人がフレッシュな視点で自社のことを見つめたことも、生きていると感じました。
小笹:確かに、中途採用だからこそわかる土屋鞄製造所のすごさ、素晴らしさはあると思います。例えば……、すごい技術を持っている職人さんがいても、それをひけらかさない社風があり、「その技術は持っているのが当たり前で自慢するようなことではない」という奥ゆかしさが、私からすると大きな魅力なのです。
任されていることと協業すること
——2021年の配信本数は152記事、取材対象者はのべ740人だそうですね。全社員数を超える人数になるとか。取材を効率的に回すポイントと、お二人の役割分担を教えていただけますか。
小木原:最初に、コンテンツのバランスを踏まえながら気になるトピックを洗い出して、月初めの編集会議で提案します。担当するコンテンツ量は、時期にも寄りますが小笹と私で6対4ぐらいの分担割合でしょうか。効率化を図りつつも丁寧な取材を心がけています。
小笹:基本的に現場に任せてもらえるので、企画立案から取材、リリースまでこちらで引いたスケジュールで進めています。それが記事を量産できる理由かと思います。
「7割でGO」の言葉に後押しされて
小笹:担当役員がよく「7割でGO」と言うのです。不安だし、社内報初心者なので、「これで本当にいいのか」と迷うことも多いのですが、この言葉を聞くと、「回しながら改善していこう」という気持ちになれます。たぶん、「いろいろチャレンジしていいよ」という意味も含まれているのだと思っています。
——勇気付けられる言葉ですね。「編集部だより」というカテゴリーがありますが、取材した記事に対して客観的なコメントを添えるなど、すてきなコーナーだと思いました。
小木原:前述した「6rls.」は人メインの内容で、取材を通して私がどう感じたかはかは編集後記で、MVV+Sと絡めてつづることを心がけています。
小笹:編集後記は私と小木原のプレゼンの場でもあると思っていて、毎月必ず2本は出します。
——最後に社内広報の担当者として、やりがいを感じているところをお聞かせください。
小笹:先ほどお話ししたように奥ゆかしい社風なので、最初は、あまり反響はないかもしれないと心配でした。けれども「取材してもらえてうれしかった」とか、「記事を読んだ人に話しかけられた」とか、個別でチャットをくださることが結構あります。上司が褒めてくれるのも、すごくうれしいです。そういう声を自分の中にストックして励みにしています。今回、事例発表に呼んでいただいたことでも、モチベーションが爆上がりしています(笑)
小木原:意図していないところで『革ノオト』というワードが飛び出すと、すごくモチベーションが上がりますし、小笹と同じく、「社内報アワード」での受賞や審査講評にも刺激をいただきました。
——ありがとうございます。『革ノオト』の冊子版も動いておられるとのことで、楽しみにしています。
『革ノオト』
創刊:2021年4月
閲覧対象者:正社員、契約・派遣社員、パート・アルバイト
閲覧環境:PC/モバイルデバイスからアクセス可
発行頻度:週に1~3回(月7~14回)
会社情報:https://tsuchiya-kaban.jp/
[編集部Pick Up]
■「初応募でいきなり受賞」つながりで
【編集部訪問】
インパクト大の表紙で、思わずめくりたくなる社内報に(生活協同組合コープさっぽろ)