社内報を制作するにあたり、そのすべてを内製している企業もあれば、外注しているところも多くあります。そもそも外注するメリットとは何でしょう。そのメリットを生かすために、外注する際にはどんなところに気をつければいいのでしょうか。
広告デザイン業界で25年のキャリアを積んだ後、社内報専門会社のウィズワークスに入社、さまざまな企業とタッグを組んで制作物をつくってきたディレクターの林 利和に、制作会社側から考えた、連携のコツを聞いてみました。より良い社内報づくりに向け、外注先とのコミュニケーションに悩んでいるご担当者は、参考にしてみてください。
▼林 利和(はやし・としかず)
広告代理店勤務時に外注先だったデザイン会社社長のカリスマ性とクリエイティブ力に惹かれ、同社に転職。全員がアートディレクター、コピーライター、デザイナー、営業という環境でクリエイティブ力を鍛える。のち、ウィズワークスの前身であるナナ ・ コーポレート ・ コミュニケーションに入社。社内報ディレクターとして、さまざまな業種の社内報制作を長期にわたり担当。モットーは「社会に価値を。お客さまに成功を」。
外注のメリットは「役割分担」
――ひとつの企業様を長期にわたり担当されていますよね。発注側が外注のメリットを感じてくださっているからだと思いますが、社内報を完全内製している企業も少なくないなか、そもそも、外注するメリットはどこにあると思いますか?
林:当たり前ですが、外注の良いところは、「担当者がすべてを背負わなくてよい」ということです。例えば弊社では、企画、取材、執筆、撮影、編集作業、デザインのすべてについて、総合窓口としてご相談いただけます。例えると、うちは図書館であってWikipediaなんですね(笑)。積み重ねた知識や経験を惜しげもなく披露する。
調べる時間が浮いた分で、企業の社内報ご担当者は、社内調整や、次号の企画を練ることに時間を使っていただけたらいいなと思っています。それぞれの業務領域に役割分担ができるというのが、利点だと思います。
――ご担当者としては、その「役割分担がうまくできるかどうか」が、外注先との連携でいちばん悩むところだと思います。対して内製のメリットは、外注先とのコミュニケーションコストが抑えられるところかと。
林:「外注先とのコミュニケーションコストが増えてしまう」というのは、例えば社内報を外注する場合、自社の文化・背景や、社内報制作のねらい、何を社員に伝えたいのかなど、定量化しにくい観点について、外注先にわかるように説明しなければならないからですよね。そして、たとえそれが共有できても、今度は誌面になったときに、「イメージと違うものが出てきた」となってしまいがち。
でもそれは、外注される側の力量の問題です。発注側の意図を汲めるか、不満や違和感を口にされたときに納得のいくアイデアをどれだけ出せるか。つまり、制作会社側の引き出しの多さにかかっていると思います。
例えば、部署紹介の企画があって、「毎回部署が変わるだけで、新鮮味がないんだよね」と言われたときには、「全国津々浦々の営業所を紹介するのであれば、ご当地の方言をふんだんに盛り込んだらどうですか?」とか、若手社員がターゲットの社内報で、「ベテラン社員を紹介したいが、若手が読むかどうか」と相談されたときに、「でしたら、『ボクとセンパイ』というタイトルで、入社7~8年目の社員が、影響を受けたベテラン社員を紹介するというのはどうですか?」とか。
そんなふうに、10秒くらいの会話で、「なるほど、いいね」と言ってもらえる引き出しを、制作会社側がどれだけ開けられるかだと思います。
だから社内報のディレクターは、編集会議の2~3日前とかではなく、日常的に準備をしていないといけません。私の場合、あらゆるクリエイティブが気になるんです。商品タグやショップカード、電車の中吊り広告、雑誌のデザインや映画のポスター、テレビ番組……。それらを、いつ引き出しから出すかわかりませんが、さまざまなところで「お、これいいな」と思ったら、それを引き出しの中にしまっておくようにしています。
発注側は、発行理念や企業課題、企画意図を明確に
――社内報専門の制作会社だからこそ、そのあたりのノウハウは蓄積がありますよね。とはいえ、その力を生かすために、発注側が気を付けるべきこともあるのでは?
林:冒頭で話した「役割分担」に通じると思いますが、私がお客様にお願いしているのは、企画の部分です。
社内報は、企業課題を解決したり、経営目標を達成したりするためのコミュニケーションツールです。その企業にどのような課題があり、どういう目的で社内報を発行するのか。誰にどんな目的でその企画を届けたいのか、といった部分は、社内事情に精通している社員でないとわかりません。だからこそ、そこはやっぱり明確にしていただきたいし、私も特に丁寧にコミュニケーションを図っています。
例えば、「社長が交代したので新しい社長を紹介したい」という場合。そのままの発注ではなく、「社長の考えを若手に浸透させたい」のか、「社長の人柄を知ってもらい、フレンドリーに感じてほしい」のか、その目的を深めていただければ、取材時の質問も変わってくるんですよね。「20代の自分に語りかけたい言葉は?」という質問を入れれば、若手が興味を持つかもしれません。
――企画面はいちばん大切ですものね。ところで、「企画の意図は伝わったはずだけど、イメージと違うものがあがってきた」というのも、発注側の経験としてはよくあることで、対応に苦慮するご担当者が多いようです。
林:そうですね。以前、社内報リニューアルの相談を持ち掛けられたときに、お客様から「それまでの社内報は色のイメージが違ったが、どう伝えればいいかわからなかった」という話をされたんですね。なので、私は全体的なカラーディレクションの話から始めました。色の基本的な考え方を説明したうえで、「例えばトップメッセージや経営的な情報発信ではコーポレートカラーを使い、部署の活発な様子を伝えるときには、この色を使う」というふうに、一度ルール決めすることを提案したのです。そうすると、全員が頭の中に同じカラーパレットを持てるので、次回からは「なんでこの色を使ったんですか?」というズレが生まれなくなります。
誌面構成についても同じで、とにかく初めの段階ですり合わせをし、お互いに共通認識を持ち、納得感を持って次に進めることが大事です。そのために、企業様には、例えばひとつの特集のなかにいろいろな要素が入っている場合、「優先順位をつけてもらう」ことをお願いしています。
優先順位というのは、単に誌面の中でいちばん大きくて目立つというもの、という意味ではありません。小さくてもキラリと目につかせる工夫はいろいろあります。なので、ボリュームが必要なもの、小さくても目立たせたいものなど、誌面構成の優先順位を確認して、「なるほど」と思ってから次の工程に移ることができれば、お互い効率的に進められると思います。
外注先ディレクターの、制作に対する姿勢を見極める
――発注側は社内の課題、企画意図や構成の優先順位を検討しておくこと。でも、外注先も、作成に入る前に丁寧にコミュニケーションを重ねてそれらを理解し、都度提案し、共通認識を持ったうえで進めていく。その連携プレイを円滑にできるかは、外注される制作会社の力量次第――。
林:そのとおりです。だからこそ私たち制作ディレクターは、いちばん最初の編集会議で、引き出しにため込んだいろいろな経験やアイデアを、聞かれたらさっとご担当者に提案できるよう、常日頃から準備をしておかなければなりません。
私は、あらゆるものを駆使しながら、シンプルでわかりやすくも、ひねりやウィットを練り込み、できればご担当者が、「なるほど、そういう手があったか!」と思わず膝を打つような提案ができるよう、いつも心がけています。常にお客さまとの対話を大切にし、コミュニケーションに勤しみ、お客さまの声を聞き漏らさず、よいものをつくろうという意識。そんな意識を持った制作ディレクターでありたいですね。
♪林からのメッセージをぜひお聴きください♪(約30秒)音が出ますので音量にご注意ください
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