昨年の「社内報アワード」インターナルコミュニケーション・プロデューサー(以下、ICP)部門で上位を占めた3人のICPにご登壇いただき、意見交換する公開座談会をオンラインで開催しました。その内容を3回にわたりお届けします。
インターナルコミュニケーション(以下、IC)の世界で最先端を走る3人が、働き方が大きく変わる状況の中で、何を考え、何を目指し、どんなコミュニケーション施策を展開してきたのか。そこからどんなナレッジが生まれてきたのか。すべてのIC担当者に役立つお話が満載の座談会の中から、今回は、「ICPって何する人?」にフォーカスしました。
【パネリスト】
株式会社リクルート
マリッジ&ファミリー事業 企画G
桑原 史帆さん
2009年 株式会社リクルート入社。営業を経験後、広報へ異動。旧 株式会社リクルートマーケティングパートナーズのコーポレート広報として、チャレンジングな組織風土への改革をテーマにIC全般を担当。担当領域のビジョン作成PJTリーダーも兼務し、企業理念の浸透や全社の組織活性を推進。2度の産休・育休を経て2020年10月より現職。
株式会社ファイブグループ
経営企画室 コーポレートコミュニケーション部
広報マネージャー
式地 知美さん
株式会社ファイブグループ居酒屋店舗でのアルバイトを経験し、「“楽しい”をつくる」という会社の価値観に惹かれそのまま社員就職。その後約5年間の店長経験を経て、2019年にコーポレート部門に社内転職。2020年より本格的に広報担当に着任し、会社PR、採用広報、社内報など広報全般の領域を1人で担当。
ヤフー株式会社
インターナルコミュニケーション室
髙橋 正興さん
2006年 ヤフー株式会社に入社。トップページをはじめ、複数のサービスでWebプロデューサーを務める。2014年よりインターナルコミュニケーション室に異動し、以後は全社イベント統括のかたわら、「Yahoo! JAPAN公式アナウンス部」の部長も務める。
【ファシリテーター】
ウィズワークス株式会社 社内報総合研究所 所長 浪木 克文
事業戦略を進め、課題を解決する「空気づくり屋」
浪木:今日は「社内報アワード2021」のICP部門で上位に入賞した3社にお集まりいただきました。皆さんはICPをどのような定義で考えていますか? 自己紹介を含めお話しください。
桑原:2009年にリクルートに入社し、2020年10月からマリッジ&ファミリー領域、ゼクシィブランドのIC全般を担当しています。ICPは、会社の中の「空気づくり屋」。何か課題がある場合、それに対していかに対処し、社内に流れる空気をポジティブな方向へ導くか。その策を考え、事業戦略を推進するエネルギーにすることがICPの仕事だと考えています。
髙橋:「空気づくり屋」って、いいですね。今、空気を感じ取るのが難しい状況になっていると思いますが、キャッチする方法を教えていただけますか。
桑原:定期的にとるアンケートやサーベイのコメントからでもにじみ出てくる空気感ってあると思っています。回答をじっくり読み解いていると、社員の声なき声が聞こえてくるというか…。その上で社内メンバーへのヒアリングなども重ねながら、社員のリアルな状況や心情を少しでも理解できるように心がけています。
式地:施策の年間計画は、どういうステップで考えていますか?
桑原:今、3年間にわたる事業変革計画の1年目が終わるところですが、3年後の組織のあるべき姿を経営陣と検討し、逆算する形で1年ごとのテーマを決めました。そのテーマに沿って、サーベイ、ヒアリングなども参考にしながら施策決定をしていきます。計画策定の際大事にしているのが、KGIとKPIを数字で明確に置くことです。ICの仕事は成果が見えにくいので、KGIとKPIを何の数字でどのくらいに設定するかには、こだわっています。例えば、今期は「戦略への共感UP」を重点テーマに据えていたため、「事業戦略の共感度合い」を数字で測っています。
髙橋:マクロではKGIとKPIをしっかり置いて、でも一人ひとりの思いなどミクロなことは具体的に掘り下げて感じ取る、ということですね。
ICPには、組織全体を俯瞰し、着想する役目も
式地:ファイブグループの基幹事業で、関東中心に展開して18年目になります。「“楽しい”でつながる社会をつくる」という企業理念を大切にし、従業員も楽しく働くことにこだわりを持っています。私自身は、現在はコーポレートコミュニケーション部で広報担当をしていますが、スタートはアルバイトでした。社員となった後、2年前までは居酒屋の店長を務めていました。社内転職で現在の業務を始めたのが2020年の後半からです。いわゆる1人広報で、常に五里霧中で走っています。
弊社には、飲食業界ならではの課題が3つあります。
① 経営と現場の距離
② 1,500人規模のアルバイト
③ 採用工数と採用コスト
学生アルバイトは卒業などで入れ替わり、その数は年間約600人。そういう状況が常ですから、経営層からは「経営と現場がつながること」「会社への関心度を上げること」「働きがいとエンゲージメントを高め、店舗で良いパフォーマンスをすること」の実現を要請されています。部署としては、その実現を、社員登用やリファラル採用につなげたいという思いもあります。
ですから弊社のICPは、ハードとしては「アルバイトと経営をつなげること」で、そのための仕組みを準備するのが役目となります。ソフトは、「何を届けていくか」で、つまりは社内ブランディング活動。企業理念を浸透させ、すべてのスタッフの働きがいへとつなげていく。それがICPの仕事と考えています。
髙橋:アルバイトさんに浸透させるために気をつけていることはありますか?
式地:トーン&マナーです。私が店長だったらどう伝えるか、どういう働きかけをすれば意図を汲み取ってもらえるかと常に考えています。あとはwin-winになる情報ですね。「これを知るとあなたにはこういう成長があるかもしれない」「仕事がしやすくなるかもしれない」など、双方にメリットが生まれるコミュニケーションを心がけています。
桑原:すごく共感します……。難しいことをそのまま難しく伝えるだけなら、ICPはいらないですもんね……。難しいことをわかりやすく、面白く、遊び心を持って伝えることが、腕の見せ所だと感じています。式地さんのレジュメの中の、④と⑤の間は、働きがいを実際のアクションにつなげるフェーズですよね。ここが、一番の難関、ICで壁にぶつかるところだと常々感じているんですが、どんな工夫をされていますか?
式地:まさにそれを、社内で議論しているところです。現在は、広報で社内報のPV数や読了率をとり、経営企画で働きがいとかチームワークなどオンボーディング系の調査を行い、事業部で良い店舗はどういう店舗かを指標化してランキング、という取り組みをしています。その3つの調査結果を見ると、業績が伸びている店舗は、働きがいのポイントが高く、社内報の閲読率も高い。この相関を誰もがわかる指標化することにチャレンジしているところです。実は、これらを全部まとめて見ている部署が、弊社内にはありません。ですから、ICPには全体を眺めて着想する役割もあると思っています。
浪木:会社によって課題は違うけれど、それを解決するのがIC施策であり、実行するのがICPなのだと、皆さんのお話を伺っていて、改めて思いました。
ICPは最先端のコミュニケーションを実現するトップランナー
髙橋: 私は2006年にヤフーに入社し、現在15年目。IC室に異動して、7年ほどが経ちました。ヤフーは「UPDATE JAPAN」を企業ミッションとし、インターネットを活用して人々の生活利便性を格段に高めていくことを目指しています。
会社のコミュニケーションをうまく回るようにすることがIC担当者の仕事ですが、その部署は円滑なコミュニケーションの社内での手本にならなければなりません。いわば社内コミュニケーションのトップランナーです。IC室が時代遅れのコミュニケーションをしていると、会社全体のコミュニケーション・スピードが遅くなってしまいます。特に今、急速に働き方が変化し、みんなで霧の中を走っているような状況でも、ICPは最先端のコミュニケーションを実現していく、そういう存在でありたいです。その際に意識すべきことがインプットとアウトプットです。
① インプット:会社全体の最新の状況を把握する
② アウトプット:いろいろな伝え方を試して効果のある方法を見つける
まずインプットですが、誰がどういう情報を望んでいるのかを常に把握しているべきだと思っています。弊社では、全社朝礼のたびに4,000件ほどのアンケート結果をまとめ、経営陣に報告します。ほかにも上司とのコミュニケーションサーベイ、社員満足度調査など、頻度、切り口を変えて社員の最新状況を把握しています。「社員は今こういう状況です」と役員へインプットする役割は非常に重要と感じています。
アウトプットについては、伝える方法がどんどん変化しているので、新しいことを面倒くさがらずにやるよう努めています。例えばコロナ禍を機にリアルイベントが完全にオンラインに切り替わったことで、映像の重要度が高まりました。そこでIC室のメンバーも映像編集ができるように、自宅に撮影や編集ができる環境を整えました。また、“つながっている感”を出すために、全社員の集まる会合ではリアルタイムで質問を受け付けることを始めました。社員が聞きたいことに社長が必ずその場で答えるというもので、これはコロナ禍当初の不安が強い状況下で、とても喜ばれました。
浪木:質問は匿名ですか?
髙橋:ずっと匿名ですね。開始時はさまざまなレベルの質問が来ることでバランスが悪くなりました。でも率直な意見を聞くために、できるだけ匿名は残したい。そこでルールやツールの見直しを重ねたところ、3カ月ほどすると質問内容も落ち着いてきました。そういう試行錯誤は、社員の見えるところで行っています。そうすれば、同じような壁にぶつかっている人の参考になり、それが各現場での課題解決につながれば全社のコミュニケーションが良くなっていきますからね。トップランナーは、背中を見せて走る。だから、ICPはコミュニケーションのトップランナーでありたいと思うのです。
ネガティブな意見も「聞けてよかった」と受け止める
浪木:対談をオンラインで視聴している方からチャットで質問が届いています。「社員サーベイで批判的なコメントやネガティブな結果が出た場合、どう対応していますか?」。いかがでしょう?
式地:批判やネガティブな意見は、見えないよりは「知ることができてよかった」と受け取ります。例えば人事部がその人と話すなどして、問題の解決につなげることができますからね、ネガティブなコメントは良いこと、なのです。ちなみに、弊社はアルバイトさん含め、働きがいとチームワーク、身の回りで困っていること、不正を見かけたかなどを聞く毎月1回のアンケートを6年ほど前から始めました。現在、アンケートの回収率は98%以上です。
桑原・髙橋・浪木:それはすごい!
式地:6年間、定着化に全力を注いだ結果と自負しています!
桑原:組織の状態によってはネガティブなことや批判を書くことさえできないフェーズもあると思うんですよね。だから、「今はネガティブな想いも含めて率直な思いを書いてくれるフェーズにいるんだ」と捉えるようにしています。弊社では、アンケートは基本的に記名制です。匿名だと、ネガティブなコメントや批判を書いた背景をちゃんと理解したくても、深掘りできないので。記名性の方が書く側も責任があるし、建設的な批判、提言に近いものが集まってくるかな、と考えています。匿名のメリットは、回答数が出やすいことでしょうか、髙橋さん?
髙橋:その場で思いついた質問をポンと出す、しかも大勢の見ているところで出すのはハードルが高い。その結果10個くらいしか出なかったら本末転倒なので、ヤフーの場合は、全社朝礼など大勢を前に質問してもらう時には、ハードルを下げるために匿名にします。イベント後や見せる前提でないアンケート等は、記名制です。
ICPの独り言
桑原:ICPは、ネガティブな意見や批判もちゃんと受け止めなくちゃいけないし、受け止めたからには解決策を提示する責任もある。楽しいだけの仕事じゃないけど、やりがいもすごい!
髙橋:大きなイベントをやり遂げホッとしたのも束の間、厳しめのコメントが届いて心がギュッと辛くなることもあります。泣きたくなるけど、それでも、言われないよりマシです!
式地:事業と事業の間、グループとグループの間、階層と階層の間に落ちているものを拾って、双方を結びつける。ICPは“温かなお節介焼き屋”です。
vol.3「新たな目標へ向かう!」もぜひご覧ください!
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