今月末に迫ってきた、「社内報アワード2020」コンクールの応募締切。「ただ今準備中!」というご担当者、「どうしようかな」と迷っているご担当者、どちらにもぜひご一読いただきたいのが、今回の対談です。「社内報アワード」で長年審査員を務める馬渕 毅彦さんと古川 由美さんが、審査の際にどこに注目しているか、ざっくばらんに語り合いました。これから応募用紙を記入する方は見逃せませんよ!
〈~入賞企画の傾向編~ 『上位入賞を果たす企画の共通点とは?』もぜひご覧ください〉
目次
申込用紙の中でも特にしっかり記入すべき欄とは?
――審査時に特に注目するのは、どの点でしょう?
古川 ずばり、「企画の目的」です。応募企業の意図を正確にくみ取るために、細心の注意を払いながら応募用紙を熟読します。どの企画も、「その企画を何のために実施するのか」、つまり、目的があって始まるはずです。当然、審査もその点をしっかり見るので、編集側が目的や企画の狙いをつかみきれていないまま応募用紙に記入すると、その企画を通して何を伝えたいのかがわからなくなり、審査にマイナスの影響を及ぼしてしまいます。
馬渕 応募用紙に記入された「企画の目的」は、審査の第一関門となりますよね。編集者の頭の中で、企画の目的やそのテーマに対する問題意識が整理されているか否かが、この欄から読み取れます。
残念なことに、毎年、「たくさん書き連ねているのに、何度読んでも焦点がぼやけて見えてこない」というケースが、結構あります。コンクールでは、「企画の目的」をきちんと整理した上で、的確に、わかりやすく記入することは、絶対に必要です。最終審査の結果を見ると、これが上手にできている企画が入賞しています。
古川 さらに加えると、「一読者としてその企画を読んだときに、どう感じるか」も大切にしています。社内報の読者は、基本的に従業員なので、その読者目線を意識することは何より重要です。ですから、「自分がこの企業の従業員、つまり一読者だったら、この企画を読んでみたいかな。腹落ちするかな」という視点を大切にしています。
馬渕 働き方改革やワークライフバランス、社員の幸福といった“今どき”の言葉を未消化のまま使っているケースも、時々見受けられます。そのワードは、本当に、自社で働く中から問題として湧きあがってきたのか――? 企画を考える際には、その点を意識した上で、目的を達成するための言葉としてふさわしいかどうかを検討することをおすすめします。
古川 場合によっては、その企画だけでは目的や狙いが完結しないこともあると思います。「こういう目的で企画しましたが、結果的にはこうでした」「取材をしたらこういう問題が出てきました」という、予想外の展開になってしまったというケースですね。
そういう場合は、変にごまかさずに、「出てきた問題を社員で共有することにした」「今後はこういう課題に向き合いたい」など、正直に書いていただけると、その後の展開に役立つアドバイスができると思います。
社内報担当者に役立つ審査講評をフィードバック
――審査講評を書く際に気をつけているのは、どのようなことでしょう?
馬渕 私は「虫の目」と「鳥の目」を意識しています。社内報の担当者は、企業内の課題を解決するために企画を考えるわけですが、その課題に向ける視点が「虫の目」の人と、「鳥の目」の人がいるのです。つまり、「低い位置からディテールを見る」人と、「俯瞰して全体を見る」人。
往々にして経験が浅い担当者は「虫の目」で見る傾向があり、それはそれで必要なのですが、鳥のように高い位置から全体を眺めることで見えてくることもあります。逆に、上からばかり見ていても、現場レベルの視点を欠いてしまいます。
つまり、両方の目が必要なのですが、これがなかなか難しい。そこで、審査講評では「虫の目」と「鳥の目」を行ったり来たりさせながら、「どういう意図でこの問題を企画化し、このような表現方法をとったのか」を今一度意識していただき、「ほかの切り口ならどうなったか」に目を向けていただけるような講評を心がけています。
古川 自分もかつては社内報担当者だったので、社内報づくりの苦労は理解できます。ですから、審査講評を受け取ったときにどんな気持ちになるのか、講評される側の気持ちに寄り添うように心がけています。
たとえ未熟な企画であっても、担当者は一生懸命作ったから「社内報アワード」に応募してきたはず。その気持ちはくみ取りたいのです。「この担当者が頑張ったところはどこだろう?」と長所を探し出して、きちんと励ます。その上で、問題点を指摘し、アドバイスをしています。
馬渕 審査員泣かせなのは、パーフェクトな企画ですよね(笑)。
古川 あまりに素晴らしすぎて、「わたくしが審査講評なんて、おこがましい」と思ってしまうこともあります(笑)。ゴールド賞受賞企業の担当者とお話しすると、そういう企業ほど「もっと良くしていこう」という意識がものすごく高くて、本当に感心します!
「ゴールド賞を受賞したから満足」なんて思いは一切なくて、「まだまだ、もっともっと」と、さらなる高みを目指そうとなさるのですよね。そういう企業がまた応募してくださったら、自分の知見をフル稼働して講評し、アドバイスをします。
例えば、別の切り口を提案してみたりすることで、「もっともっと」という気持ちに応えるようにしています。それが担当者の中で新たなヒントにつながれば、審査員冥利に尽きますね。
共通の審査軸に則り、専門家の目で、熱意をもって、審査する
――審査員は皆さん社内報の専門的知見をお持ちの方ばかりです。そんな方々が評価結果を論じあう最終審査会は、毎年白熱しますね。
古川 皆さん社内報の専門家ですが、経歴や得意分野はそれぞれで、長年培ってきた経験・知見で審査をします。その結果を議論する最終審査会は、審査員自身のレベルを磨くことになり、大変勉強になります。毎年最終審査会の後は、「より真摯に企画に向き合おう」と、気が引き締まります。
馬渕 審査というのは、実はとてもハードな作業です。応募用紙から企画の目的や担当者の思いをくみ取り、その背景を知るために企業のHPを読み込みつつ、企画を隅から隅まで熟読する、そして講評に落とし込む。この一連の作業はかなりのエネルギーを消耗します。
しかし、審査員なのだから、それは当たり前。それくらいの姿勢で臨まなければ、応募企業や担当者に失礼ですからね。最終審査会は、そういう気持ちで審査に臨んできた審査員が意見交換する場ですから、白熱するのは自然なことです。
古川 「最終審査会は戦いの場だ」という審査員もいるほど(笑)、真剣勝負なのです。
――その議論は、共通の審査基準に則った上で、ですよね?
馬渕 もちろんです。先ほど古川さんが話したように、社内報の専門家がそれぞれの経歴や得意分野を発揮しながら異なる視点で審査するのですから、見方は変わって当たり前です。ただし、それは個人の感情や好みでジャッジするという意味ではありません。公平な審査のために、共通の審査軸に則って、というのが大前提となります。
それぞれのアプローチで審査のスキルを磨き続ける
――社会の変化に応じて、社内報もツールやテーマが多様化しています。そのような動きに対して、審査員としてどのように対応していますか?
古川 安心して応募していただくためには、講評のクオリティを高いレベルで維持することが必要ですし、それが審査員の心得だと思っています。なので、普段、社内報セミナーの講師として企業の担当者と接する際には、企業の担当者をはじめ受講される社員の生の声にも耳を傾けています。
それと、これまでのご縁を大切にし、社内報業界の諸先輩から現役の社内報担当者の方々まで継続的にコミュニケーションを図り、「社内報の現場感」も審査に生かしています。
馬渕 私は「人と組織がどうすればもっとイキイキとした関係になるか」を日々追究していて、それを社内報のアドバイスに生かしています。経営・組織論的な分野はもちろん、哲学、心理学、社会学、生命科学など、さまざまなジャンルの本を読み込んで知見を深めるよう努めています。
社内報の最終的なゴールは、企画を通して従業員がイキイキと働き、幸せになる、その結果、企業価値が高まる、というものだと思います。このゴールに近づくためのアドバイスができるよう、自身の思考を鍛えています。
――昨年から動画部門が始まり、今年は「紙社内報 1冊」「Web社内報 媒体」の2ジャンルが新設されます。
馬渕 動画部門は昨年が初にもかかわらず、たくさんの応募がありましたね。これからのインターナルコミュニケーションの中で、動画が果たす役割はとても大きいはず。活字で伝えられるもの、動画で伝えられるもの、それぞれの特徴や価値がありますからね。社内インフラが整っている企業は、ぜひ動画をインターナルコミュニケーションの活性化に役立ててほしいですね。そしてアワードでぜひその企画を拝見したいです。
古川 これまで「社内報アワード」は「1企画での応募」が特徴でしたが、今年新設された2ジャンルは、たくさんの要望に応えたものだと聞いています。何事においても、進化することは非常に大切です。「社内報アワード」も時代に合わせて進化していることを、うれしく思います。
目的意識を持って審査を受けることで、効果が高まる
――応募を検討している企業へ、メッセージをお願いします。
馬渕 「社内報アワード」のコンクールに応募することは、社外の第三者視点に接する良い機会となります。ただし、応募したら自動的に何かが得られる、ということではありません。フィードバックされた審査講評から何を見出し、自社の社内報にどう生かしていくのか。言い替えれば、自分自身がいかに積極的にかかわっていくかが重要なのです。その姿勢で応募すれば、自社の社内報も、担当者としての自分も、大きく成長することでしょう。
古川 「上司から命じられて」というのではなく、担当者自身が、目的意識を持って、応募してくださるといいですね。皆さま自社の社内報をより良くしたいという真摯な想いが強いと思います。そしてその想いは、創刊間もない社内報でも、小規模企業様でも、変わらないはずです。
その想いを、私たち審査員に届けてください。応募したからといって、すぐに劇的に変わることはないかもしれません。しかし毎年の積み重ねがじわじわと効いてきて、やがて、自社社内報のレベルアップが実現することでしょう。
〈~入賞企画の傾向編~ 『上位入賞を果たす企画の共通点とは?』もぜひご覧ください〉
馬渕 毅彦さん
(馬渕文筆事務所 代表)
元・日商岩井株式会社(現・双日株式会社)の社内報『NISSHO IWAI LIFE』編集長であり、PR誌『Tradepia』編集長。そのほかホームページ、アニュアルレポートなど同社広報媒体の制作全般に従事。この間併行して、市販単行本などの編纂にも従事。現・馬渕文筆事務所 代表。
日経連社内報センター主催の社内報コンクールで全国最高得点(1983年)、PR研究会主催『全国PR誌コンクール』で最優秀賞(1986年)受賞するなど、社内報の現場を知り尽くした専門家。
古川 由美さん
(社内報総合研究所パートナー・コンサルタント)
川鉄商事株式会社で約13 年、社内報編集業務に従事。日経連推薦社内報コンクールにて、推薦社内報15 年連続受賞。その後、日本経団連推薦社内報審査員、社内報関連セミナー講師、現在は社内報総合研究所パートナー・コンサルタント。「社内報アワード」の審査、社内報診断、社内報セミナーの講師を務める。