「社内報アワード2019 表彰&ナレッジ共有イベント」(2019/10/16)にて実施された上位入賞9社による事例発表の模様を、順次ご紹介してまいります。
第8回は、動画部門でゴールド賞に輝いたキヤノン株式会社です。受賞企画「カメラがつないだ3つの奇跡」は、動画と紙社内報のメディアミックスした作品。その制作過程について、渉外本部 広報部 グループ社内報室の押田 秀輝さんが発表されました。
1台のカメラが生んだ奇跡をタイムリーに捉える
当社の社内向けメディアには、月刊誌『キヤノンライフ』と、毎日更新のWeb 媒体『G.CIPフロントライン』があります。
ほかに映像媒体として1984年から『キヤノンライフ ビデオニュース』を制作しており、年に11回、特集とニュースからなる約7分間の番組を、国内はもとよりキヤノン中国などアジアにも配信しています。さらに『G.CIPフロントライン』の映像ニュース版『 G.CIPフロントラインビデオ』を週刊で配信しています。
今回の動画作品は、『キヤノンライフ ビデオニュース』の号外として制作したものです。
それでは早速、「カメラがつないだ3つの奇跡」をご覧いただきます。約6分の作品ですが、主な内容は、台湾の海岸でキヤノンのカメラが拾われ、中の画像データがSNSで世界中にシェアされて、日本にいるカメラの持ち主が見つかったというものです。
「カメラがつないだ3つの奇跡」ストーリー
■932日間、カメラは海を漂っていた
皆さん、この物体が何かお分かりですか。実はこれカメラなのです。台湾にある宜蘭(ぎらん)県蘇澳(すおう)海岸で、清掃活動をしていた地元の小学生に発見されました。なぜここに、このカメラがあったのでしょう。
実はこれは、東京に住む大学生の所有するカメラでした。彼女の名前は、椿原 世梨奈(つばきはら せりな)さん。ダイビングサークルに所属し、フォトグラファーの両親からもらったキヤノンのコンパクトデジタルカメラPowerShot G12 で水中撮影を楽しんでいました。しかしある日、石垣島でなくしてしまったのです。
「2年半前の夏休みに石垣島にダイビングに行ったとき、仲間のエア切れでパニックになり、気付いたらカメラを手放していたんです。両親からもらったカメラで、思い出がなくなったのがショックでした」と、椿原さんは大変落ち込んだそうです。
それから932日後の2018年3月23日、台湾の宜蘭県蘇澳。地元にある岳明小学校の児童が、これを海岸で見つけました。児童を引率していた李先生が恐る恐る防水カバーを開けてみると……、そこにはキヤノン製のデジタルカメラが。まだバッテリーがあり、最新の写真は2015年9月7日とあります。李先生は思わず声を上げました。「これは奇跡だ!」
■SNSで拡散し、大切なカメラは持ち主の元へ
李先生は素晴らしい行動力の持ち主でした。児童たちと「カメラの持ち主を探そう」と話し合うと、すぐに自身のSNSで情報を発信。それは瞬く間に世界中を駆け巡り、わずか1日で、東京に住む一人の女子大生の元に朗報が舞い込むこととなりました。
「ダイビングの先輩から『これ世梨奈のじゃない?』というLINE が来て、初めてなくしたカメラだと気付きました」(椿原さん)
そして同年4月26日、失ったカメラを取りに、椿原さんは台湾に向かいます。奇跡のストーリーは台湾・日本双方のメディアで大きく取り上げられ、キヤノンインクでは、子どもたちに感謝の気持ちを伝えたいと、キヤノンマーケティング台湾と共同で、岳明小学校にカメラとプリンターの最新機種を贈呈しました。
「子どもの視点は純粋で、大人とは違う感性にあふれているので、いただいたカメラできれいなもの、価値あるものをたくさん撮ってほしいです。実は私も、長年キヤノンのカメラを愛用しているんですよ」と李先生。
贈呈式の翌日、カメラの返還セレモニーが盛大に行われました。
「このたびの出来事で、台湾にご縁を感じるようになりました。自分も日台友好の架け橋になるようなことができたらいいですね」。椿原さんの笑顔が輝きました。
「台湾と日本でこれほど大きく報道されたのは、カメラが壊れなかったという奇跡だけではなく、子どもたちが一生懸命海岸の清掃活動をしていることや、持ち主を探そうと努力した姿に共感してくれたためだと思います。人と人との絆は宝物になることを、実感しました」(李先生)
いかがだったでしょうか。カメラが単なる機械ではなく、持ち主の心の一部であることを伝えるストーリーに、私たちの製品一つひとつの価値をあらためて実感させられた気がしました。
「これからもいろいろなものを撮って思い出を残していきたいと思います」(椿原さん)
石垣島から台湾へと渡ったカメラのニュースは日本のテレビでも報じられましたが、当社では、ニュースを見る前に、広報部員がSNS からの情報収集で気付きました。そしてすぐに「この物語には、従業員に自社に対する誇りを感じさせる力がある。これを伝えるのは社内報の使命だ」と確信し、上司に相談して取材の許可を得ました。
制作に際しては脚色をせずに事実のみを伝え、同時に『キヤノンライフ』とのメディアミックスを図ることとし、私が現地に赴くことになりました。
制作において心がけたこと
- 脚色を避け、事実だけを客観的におさえたドキュメンタリーをめざして制作
- 冊子『キヤノンライフ』でも同時期に特別レポートとして取り上げるなど、即時性とメディアミックスを心がけて報じる
映像を「線」でとらえる、それがドキュメンタリー制作の醍醐味
台湾へ渡航する前に、急ぎ椿原さんのSNSにアプローチして、取材の許諾を得ました。また、北京と台北の販売会社の協力を得て、返還セレモニーの前に、キヤノンから小学校にカメラとプリンターを贈呈する手はずを整えました。
台湾で行われる贈呈式と返還セレモニーには、日本、北京、台湾の担当者が集まるとはいえ、社内報の制作は私一人のオペレーション。シナリオ構成から撮影、編集、記事作成まで、すべてを一人で担当するため、前もっておおよその流れを決めておきました。
また、撮影した映像から画像を切り出して紙媒体に展開する必要もあります。そこで機材は、画素数の多い4Kカメラと動画も撮れる手持ち用カメラの2台を用意しました。
スチールカメラでの撮影を「点」とすれば、映像ドキュメンタリーは「線」のようなもの。起きたことを組み合わせながら、見る人を引き込んでいく。そこに良さがあり、難しさがあります。
現地でのロケハンや撮影許諾は、本来は何日も前に取りかかるものですが、今回は時間がなく、その場その場で臨機応変に対応していきました。細心の注意を払ったのは、李先生の信頼を得ることです。企画の趣旨や社員向けの番組だということをご理解いただき、子どもたちの撮影許可を得た上で、撮影に臨みました。
返還セレモニーにはものすごい数のマスコミが集まり、椿原さんにフラッシュが注がれる中、私たちは邪魔にならないように気遣いながら撮影を続けました。
セレモニーから帰るタクシーの中でもカメラを回し、素材用に周辺の風景を撮影し続けました。帰国する飛行機の中でシナリオの再構築をし、頭の中で何度も検討した結果、たどりついたタイトルが「カメラがつないだ3つの奇跡」でした。
ワンオペの苦労は、アンケート結果で報われた!
帰国後はすぐに編集作業をスタート。今回はタイムリーな発行を目指したため、社内の技術部門を頼らず、自分でできる範囲で編集まで行いました。
一方、『キヤノンライフ』には、紙媒体のメリットを生かし、もっと踏み込んだ情報を掲載しました。
社内の反響は予想以上に大きく、オンエア後と誌面掲載後のアンケートでたくさんの好評を得ることができました。
今回の受賞企画は、小さな奇跡の重なりが生み出した結果です。自社を誇りに思う物語を紡いでくださった皆様に、心から感謝いたします。
-
『キヤノンライフ ビデオニュース』概要
創刊:1984年
発行サイクル:年間11回
視聴方法:イントラネットを介してダウンロード
平均時間:約7分
※「カメラがつないだ3つの奇跡」はこの号外として制作 - 『キヤノンライフ』概要
創刊:1957年
仕様:月刊、A4判変型、4色、32~40ページ
発行部数:31,000部 - 会社情報
URL: https://canon.jp/
※ゴールド賞事例紹介、coming soon!(敬称略)
ソフトバンク㈱
[関連記事もぜひご覧ください]