五大法律事務所の1つに名を連ねるTMI総合法律事務所。弁護士約400人、弁理士約80人を中心に800人以上の所員を抱え、国内4拠点、海外展開も9拠点。そんな巨大事務所のコミュニケ―ションツールのひとつが、所内報『TM-EYES』。一般的な法律事務所は「チームより個人」というイメージがありますが、TMI総合法律事務所は、最高のリーガルサービスを提供すべく、チーム編成とコミュニケーションを重視しているため、所内報の役割も決して小さくありません。実務担当お1人の所内報編集部を訪問し、所内報作りのこだわりを伺いました。
法律事務所にコミュニケーションは必要か?
TMI総合法律事務所が所内報を創刊したのは2009年。創刊の理由は、同事務所・田中克郎代表の「コミュニケーション重視」の方針によるものでした。
「『弁護士・弁理士にコミュニケーションは必要だろうか?』と考える人もいるかもしれませんが、代表の田中は必須と考えています。法律事務所の場合、実は往々にして、専門分野によって所内に壁ができてしまいがちです。しかし田中は、それを取り払い、一体感を重視した事務所を作りたいと考えて1990年に独立しました。事務所名に個人名を入れていないのも、その考え方からです。それに、うちは企業法務を中心とした事務所。プロジェクトチームで動く案件が多いため、個人の顔や人間性を知っていたほうが、プラスに働くのです」
このように話すのは、『TM-EYES』の編集を取りまとめるマネジメントオフィサーズスタッフの小早川幸子さん。加えて、創刊当時は、所員が500人に届く勢いで、急激に事務所が拡大している最中でもあり、所内に一体感を生む方策が必要だったといいます。
そこで同誌が編集方針として掲げたのは、次の3つ。
- お互いの顔が見える家族的な企業文化の醸成
- 仕事へのやりがいを共有できるコミュニケーションツール
- お互いの仕事に興味を持つ
今もこれらに基づいて制作に当たっています。
仕事内容を紹介できない制約の中でどう仕事に切り込むか
編集体制は、小早川さんを中心に、編集委員が15人。15人の内訳は、事務系スタッフが主体ですが、弁護士も4人含まれます。情報収集は手分けして行っているものの、企画案や台割は小早川さんが1人である程度決め、3カ月に1度の編集会議で意見を聞く形を取っています。
「企画を考えるうえで難しいのが、“仕事の成果を誌面で紹介できないこと”です。仕事内容はすべてが機密情報で、触れられないのです。この点は、他の業種の方々と大きく違うところですね。制作はウィズワークスのディレクターとコミュニケーションを重ね、校正はプロにお願いしていますが、内容に問題がないかどうかは、弁護士にもチェックしてもらっています」。
そんな制約がある中で、「どのように仕事に関わることに踏み込んでいくかが最大のテーマ」と言う小早川さんが、過去に好評だった企画として挙げてくれたのは、他業種からの転身者のインタビューや仕事術の記事。こうした、読み手に対してやりがいを喚起する企画を、もっと増やしていきたいと意気込みます。
代表は一番の理解者。企画や人選は意向を反映
記事は、ごく一部を除いて、寄稿がメイン。弁護士の皆さんは書くことに慣れているため抵抗なく受けてくれるうえ、文章も上手いので助かるそうです。誌面に出ることについても、快く引き受けてくれるケースが大半なのだとか。
「バックに代表がいると分かっているためか(笑)、断られることはほぼないですね。弁護士の世界は意外と体育会系的なタテ社会。それに、うちは明るく陽気な弁護士が多いというのも大きいです。一方、弁理士はシャイな者が多いので、誌面に出てもらうために働きかけが大事になってきます」。
中でも一番の理解者は、そもそも所内報の仕掛け人でもある田中代表だと言います。積極的に意見をくれるのはもちろん、自らネタや参考資料を提供してくれることも少なくありません。
「企画や人選については田中に直接確認を取ります。編集途中でも、ここは相談したほうがよさそう、と思うところは確実に相談するようにしています」と、代表に全幅の信頼を寄せる小早川さんです。
グループ単位で登場する表紙で「つながり」をアピール
誌面では「表紙」にも力を入れています。毎号、記事内容と何らかのつながりを持つグループに出てもらっています。
「私自身は個人にフォーカスした表紙も考えていましたが、代表は『グループだ』と。当初は、整列した集合写真がほとんどでしたが、最近は動きのある写真にも挑戦しています。
4月号は1月入所の弁護士、7月号は4月入所のスタッフと決まっていますが、他の号は特集記事などに登場した者にお願いしています。プロのカメラマンによる撮影が、記念になればとも考えています。何年か後に同じメンバーで撮影し、各自の変化を楽しむことができたら…と話したこともあります」。
グループ分けはもちろん、毎号変化をつけるためにポージングを工夫したり、1人ずつ撮ったりと知恵を絞っています。また、撮影がスムーズにいくように、事前にイメージビジュアルを用意して渡しておくのもポイントだと話します。
ひと工夫が光る、通知メールと配布方法
読んでもらうための“仕掛け”にも、小早川さん流のアイデアが注がれています。
まず、担当してすぐに始めた配布のお知らせメール。タイトルを目立たせたきれいなレイアウトが目を引きます。「前日に送信するのですが、単に『発行します!』だけで終わらせず、どんな内容なのかを説明しています。見やすいレイアウトを心がけ、軽めのタッチの文章で、読む気を起こさせるようにしています」。
工夫を凝らした甲斐あって、このメール自体を楽しみにしているという声や、返信で新しい情報をくれる方もいるのだとか。
また、配布は新卒のスタッフに依頼しています。「季刊で年4回とはいえ、配布は一人一人手渡しですから、コミュニケーションにつながります。それも、最初に配るのは、自分たちが表紙と記事になった号。少し照れながらの配布だと思いますが、会話が弾むこともあるようですよ」。
より「考えさせる」冊子へ、速報性のWeb化も視野に
そんな小早川さんが課題としているのが、新しさを出すこと。「同じことをやっていても面白くないので、そこはいつも考えています。制約はあっても、何か少しでも新しいことを仕掛けていきたいんです」。
創刊から10年、これまでは仕事が出せない分コミュニケーションと楽しさ重視、人寄りの誌面でやってきましたが、「それだけでいいのか」という悩みがあるといいます。
「それが理由で、実は昨年から少し路線に変化を出しているんです。仕事について考えさせるものを、ということで成長するヒントや仕事術などを企画したのですが、それが好評だったので、今後もそうした路線は取り入れていきたいですね」。
特に読まれているという年始の代表インタビューも、写真にインパクトを出すなどの変化を加え、さらに評価が高まったそうです。
また、国内拠点や海外オフィスが増えていること、海外留学者や出向者も多数いることもあり、Web化にも取り組みたいと話します。「海外スタッフからの要望が多いんです。紙版はPDFでも見られるようにしていますが、データ容量が重いですから。時流的にも、どこかでWeb化は考えていかないといけないと思う一方、自宅に持ち帰ってゆっくり読んでほしいという希望もあり、紙はなくしたくないので、どう両立するかも課題です」と小早川さん。
新しいツールの拡充やそれらの全体最適は、期待して待っている方々が多い分だけ、今後とりわけ意義深い取り組みとなりそうです。いずれにしても、所内の結びつきと事務所のさらなる発展のために、所内報は、もはやなくてはならない存在となっています。
- 所内報『TM-EYES』
創刊:2009年
発行部数:1,000部
仕様:B5版、4色、20ページ
発行頻度:季刊 - 会社情報
URL:www.tmi.gr.jp