ICP*の取り組みを掘り下げる「深掘り! ICP Session」。今回は大分県宇佐市の三和酒類が実現したインターナルコミュニケーション(以下、IC)施策の転換について、サポート本部の菅原 智子さんと髙畑 真由子さん、相良 恒太郎さんに話を伺い、前後編の2回にわたってお伝えしています。今回は後編です。
前編ではIC施策を転換した経緯と、社内報を全面リニューアルした背景などについてお聞きしました。後編では、社内イベントを一旦リセットして、高い参加率のイベントに変えていった取り組みを深掘りします。
*ICP(Internal Communication Producerの略。社内報をはじめとしたインターナルコミュニケーション施策を担当する方)
【Close up ICP】
三和酒類株式会社 サポート本部 総務課
課長 菅原 智子さん(写真右)、髙畑 真由子さん(写真中央)、チーフ 相良 恒太郎さん(写真左)
【インタビュアー】
LINEヤフー株式会社
コーポレートコミュニケーション本部
髙橋 正興さん
(たかはし・まさおき/2014年からインターナルコミュニケーション担当として数々の大規模な社内イベントを実施。プロデューサー、ディレクター、シナリオライターの1人3役をこなす)
三和酒類株式会社
設立:1958年9月
事業内容:総合醸造企業
麦焼酎「いいちこ」をはじめとして、清酒・ワイン・ブランデー・リキュール・スピリッツなどを幅広く手がける。「品質第一」を社の基本理念とし、原料や水を選び抜き、技術の全てを傾けて酒を醸造している。
従業員数:378人(2024年8月1日現在)
URL:https://www.sanwa-shurui.co.jp/
三和酒類が実施したIC業務の転換
① 社内報の全面リニューアル
若手社員主体で制作していた社内報『酒の杜』を、サポート本部が業務として制作し『新・酒の杜』に全面リニューアル。
② 社内イベントのリセットと見直し
長年実施されてきた社内のイベントを一旦リセットして、新たなイベントを実施。
③ 全体朝礼と全社会の見直し
平日に実施されている朝礼の内容や、月1回開催されている全社会の運営を見直し。
社内イベントを意義・目的から見つめ直す
髙橋:社内イベントの見直しに着手したのは、社内報のリニューアルとはまた別の流れだったのでしょうか。
菅原:社内報と同じタイミングで見直しを図りました。当時の社長が掲げた「CCRN*」の言葉をもとに、カルチャー(C)、クラフト(C)、リージョン(R)、ネイチャー(N)を軸にして見直した点も同じです。
(*「CCRN」についての詳細は前編でご紹介しています)
髙橋:前編のお話にも出てきましたが、以前から新入社員歓迎バレーボール大会、運動会、ボウリング大会、忘年会、研修旅行など、年中イベントをされていましたよね。
菅原:イベントはたくさんありました。ただ、イベントを運営する若い社員にとっては何のためにやっているのか、意義や目的が薄らいできていました。見直しでは、イベントの運営はサポート本部が業務として行うことを前提にして、検討を始めました。
髙橋:見直しはどのように進めていったのでしょうか。
菅原:まず役員の皆さんにイベントへの思いについてインタビューしたところ、さまざまな意見が出てきました。手厚すぎるのではないかという意見もあった一方で、三和酒類らしいコミュニケーションの文化は残していきたいという想いが意見として挙がりました。この思いを受けて、時代に合った形に変えようと、全てのイベントを一旦リセットすることが決まりました。
髙橋:リセットというのは、長年続けてきたイベントをやめたということですか。
相良:「やめた」というよりも見直しをするために「一旦休止」という感じでしょうか。長年続いているイベントの多くはその意義や目的を見失っていました。今一度見つめ直して、やはり必要であると思えば復活させれば良いし、そうでなければ時代に合ったイベントに変えていくつもりでした。
髙畑:もっと多くの人に参加してもらえて、三和酒類のカルチャーやビジョンを生かしたイベントを新たに始めたいと考えました。その見直しをしている時期に、新型コロナウイルスの感染拡大が重なったのです。
社内での花見や感謝祭などの新たなイベントを展開
髙橋:新たなイベントはいつから動き出したのでしょうか。
菅原:第1弾のイベントが、2021年春に開催した「さくらの杜カフェ」です。本社工場の敷地全体は、もともとみかん畑でした。そこに、従業員が桜の木を植樹して、その数が500本以上になっていました。でも、これまでは花が咲いて、散っていくのを見ていくだけでした。そこで、サポート本部のメンバーでコーヒーとお菓子を準備して、従業員の皆さんに昼休みに来ていただいて、お花見を楽しんでもらうイベントを開催しました。
相良:まだコロナ禍だったので、賛否両論あったと思いますが、外の開放的な空間ならいいだろうと判断して実施しました。
髙畑:お天気に恵まれて、育児休暇中の社員で赤ちゃんを連れてきてくれた人もいて、すごくなごやかな雰囲気でした。他の部署からの要望があって、翌年はもう1カ所会場を増やしました。
髙橋:コロナ前には忘年会を開催されていましたよね。これは継続できなかったのでしょうか。
相良:もちろん忘年会の再開も検討しました。しかし、万が一集団感染して年末の繁忙期に業務が停止してしまうと、お得意先様やお客様はもちろんのこと、従業員やそのご家族に多大なご迷惑をかけてしまうこと、またコロナ以前と比べて外食・交通の事情もガラリと変わっていたこともあり、コロナ以前と同様に企画するのは難しいと思いました。
菅原:以前のように全社員が集まって飲食するのは難しいと考え、リニューアルを検討したところ、出てきたアイデアが「感謝祭」です。会社の理念に「おかげさまで」という言葉があるので、いつも支えてもらっているご家族の皆さんにその気持ちを向けようと、オードブルを持ち帰っていただくことと、従業員全員を対象とした豪華賞品が当たる抽選会を行う形式にしました。
髙橋:「おかげさまで」を体現したイベントですね!
相良:以前の「忘年会」はご家庭の都合や交通手段の問題で参加できる従業員が限られており、コロナ前最後2019年の参加者は368名中200名弱でした。それに対して2021年から開始した「感謝祭」は業務時間内に行ったこともあり、3年連続300名以上(欠席者は出張・業務・休暇等)の方が参加してくださいました。
イベントは参加率を重視する
髙橋:感謝祭の参加率は……、約8割!? 正直なところ、社内イベントは過半数の社員が出席してくれたら成功だと思っていましたが、貴社の場合は過半数では物足りない?
菅原:皆さんに楽しんでほしいですね(笑)。
髙橋:特に参加率の高いイベントは何ですか。
相良:研修旅行です。創業者がとても大事にしていたイベントで、50年以上前から毎年実施(コロナ禍等一部期間を除く)しています。皆で一緒に研修したりお酒を飲んだりすることで、役職・部署や年齢を問わず一気に仲良くなれます。新入社員は入社して2カ月で研修旅行に参加(毎年6~7月、数班に分けて実施)するのですが、今年も皆が「とても楽しかったです!」と言ってくれたのが印象的でした。参加率は毎年7~8割ほどです。年によって1泊2日または2泊3日のプランにすることで、ご家庭の事情で長期間家を空けられない従業員も何年かに1回は参加できるように工夫しています。アンケートでは皆様からいろいろなご意見やご要望をいただきますが、さまざまな制約があって全てのご要望にお応えできないのが心苦しいですね……。
髙橋:皆さんに喜んでもらって、参加率も高くなるイベントを開催するコツみたいなものはありますか。
相良:運営する自分たちも楽しめるような企画を考えています。運営する側ばかり負担となって楽しめないようでは続かないですしね。コロナが少し落ち着いた2022年秋に「秋の夜長に皆で語り合おう」というコミュニケーションの場として飲食費用を補助する企画を実施しました。弊社は酒造メーカーなので地元の飲食店には多くのお得意先様がいます。そのお店を「場」として利用させていただき、社員同士の交流を推進するという内容です。54日間実施して、合計260組、延べ1,258人が参加してくれました。この企画で仲良くなって、今でも一緒に飲みに行くグループもあるようです。昔と違って飲みに誘いづらいご時世ですが、企画があると誘いやすいみたいですね(笑)。
髙橋:従業員は368人なのに延べ1,258人! コロナが明けて、飲み会の補助をする会社は最近増えています。ぜひ、成功のための工夫を教えてください。
相良:この企画には目的が2つあります。一つ目はもちろん「従業員同士のコミュニケーションの推進」ですが、もう一つは「地元の飲食店様の応援」です。なるべく多くのお店に行ってほしいとの思いから、運営側でお店のリストを作成し、社内事前予約制にしました。
また「領収書のもらい方」から「経費精算の仕方」まで全て説明書を作り、全従業員に周知しました。企画を実施することで経理のメンバーの業務を増やすことになるので、領収書の記載ミスや精算ミスで余計な負担をかけないように配慮しました。参加者数等の表に出る数字も大事ですが、裏方として協力してくださる方々に配慮することも企画を成功させるための秘訣ではないでしょうか。
髙橋:イベントの参加はどのように呼びかけているのでしょうか。
相良:イントラネットの掲示板で、記事がトップに出るよう、毎朝再投稿しています。
菅原:呼びかけは、相良の圧が強いのが特徴です(笑)。皆さんにレスポンスしてほしいときには、呼びかけのタイトルに「現在の参加者●名・昨年対比●%」や「現在●名が回答」と実況を入れていて、まだの人は「回答しなきゃ」と思ってくれるようです。
相良:参加者が少ないと同情票が集まります(笑)。「現在参加者0人」と書いたときは、直接電話がかかってきて、「応募者がいないんだったら、俺やろうか」と声をかけてくれる従業員もいました。気にかけてくださる方がいると思うとうれしくなります。
月1回の全社会を勤務時間内での開催に変更
髙橋:IC業務の転換時期に、全社朝礼と全社会の見直しもしています。どのように変えたのでしょうか。
相良:毎週月曜日が全体朝礼、火曜日から金曜日は2カ所に分かれて朝礼をしています。コロナ禍は少人数の朝礼に切り替えていましたが、経営層の想いもあり、今年に⼊って元の朝礼に戻しました。その際、コロナ禍では中止していた従業員による1分スピーチも復活しました。皆さんのスピーチを聞くと、その方たちの考えや人となりを知ることができ、朝から楽しい気分になります。スピーチの内容が社内でのコミュニケーションのきっかけになっているとも聞きました。
髙橋:全社会はどのように見直しをしたのですか。
髙畑:全社会は月末に1回で、以前は勤務時間外に開催していました。夕方5時から始まりますが、内容が盛りだくさんで、6時半までかかることも珍しくありませんでした。
菅原:イベント全体を見直した際、勤務時間内に実施する方針を決めて、全社会は夕方4時半から30分間の開催に変えました。
相良:終了時間が決まっていることで、みんな集中して話を聞けるようになり、参加率も以前より高くなりました。
髙橋:これは大きな決断ですよね。なぜこの改革ができたのでしょうか。
菅原:勤務時間内での開催は、経営層の「覚悟」の現れだと思います。創業者の思いがあって、経営層がこうありたいと思うことを実現するのが私たちです。経営層からは要所要所で背中を押してくれるような、コミュニケーションに対する熱い思いを感じました。その結果としてできた取り組みだったと思います。
ICを魅力ある仕事にしたい
髙橋:時代の流れに合ったICの転換を図ってきたことがよく分かりました。改めて、ICの役割をどのように感じていますか。
相良:新しく企画したイベントのアンケートでは「良い会社だと思った」「家族も会社に感謝していた」「このイベントを楽しみに日々仕事を頑張れた」等の感想をいただくようになりました。企画したイベントがきっかけで仕事に対するモチベーションが上がっているのであれば、本当にうれしいです。モチベーションが上がればパフォーマンスも上がり、会社全体にも良い影響が出ると思います。ICはそういったサイクルを作る起点でありたいですね。
髙橋:最後に、ICの業務を次の世代へ伝承していくために、これから心がけていきたいことはどんなことでしょうか。
相良:弊社は酒造メーカーなので、酒造りや新商品開発、全国を飛び回る営業職など面白い仕事がたくさんあります。これらの業務を希望する若手は多いですし、私もその一人でした。そういった業務を一通り経験した後でも構いません。「ICも面白そうだ」と思っていただけるよう、我々自身も楽しみながらこの仕事を続けていきたいと思います。
髙橋:時代に合わなくなったイベントをリセットして、思いから積み直していったことは素晴らしいですね。ありがとうございました!
〈取材後記〉
深掘りして分かった
「菅原さん・髙畑さん・相良さんの取り組み、ココがすごい!」
①ICを魅力ある仕事に作り変えた再生力
やらされ感の漂っていたIC業務を、根本からルール・やり方を見直し、担当自らが楽しんでやりきれる仕事にした。
②全員参加へのこだわり
イベントへの高い参加率を実現させるためのこだわり。特に毎年の社員旅行は今だからこそ強い絆を生んでいる。
③伝統と革新のバランス感
絆を重視する伝統を維持しつつ、次の世代が受け継ぎやすいICの形を模索し続けている。
時代の空気を大事にしながら、伝統をつなげる、いいちこ的スタイルが会社を元気にする!
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