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長期経営構想の達成のため、社員の現在地に合わせて緻密に企画設計(キリンホールディングス株式会社)

「社内報アワード2023」の入賞企業にご登壇いただく事例発表セミナー。第4弾は、Web/アプリ社内報部門・企画単体カテゴリーで2企画のゴールド賞受賞をはじめ、多くの作品で入賞されているキリンホールディングス株式会社様の事例を紹介しました。

ご登壇いただいたのは、コーポレートコミュニケーション部の古源 紀子さんです。Web/アプリの特性を生かしつつ、伝えたい内容をどんなターゲットへ発信するか、綿密な準備を含んだ制作プロセスをお話しくださいました。

 

【プレゼンテーター】

キリンホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーション部
古源 紀子(こげんのりこ)さん

【インタビュアー】

ウィズワークス株式会社 
社内報総合研究所 所長
橋詰 知明

新しい長期経営計画構想を、全社へ浸透させたい

――本日は、「社内報アワード」で数々の入賞経験を持つ貴社に、魅力的なコンテンツを制作する秘訣をお聞きしていきます。現在展開されているインターナルブランディングWebサイト『KIRIN Now』の概要をご紹介いただけますか。

古源:『KIRIN Now』はキリングループの国内全従業員に向けて情報を発信する経営ツールと位置づけています。開設は2021年6月、「ワクワク続々」をコンセプトにキリングループの未来にワクワクする情報を届けるWebサイトとして展開中です。

 この媒体には明確な運営目的があります。キーとなるのが、私たちが2019年に長期経営構想として策定した「キリングループビジョン2027(通称KV2027)」です。キリングループとして「食・ヘルスサイエンス・医」の3つの領域で社会的価値と経済的価値を両立し、「健康・コミュニティ・環境・酒類メーカーとしての責任」という4つのCSVパーパスを実現させて「食と医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」と宣言しました。

 しかし、この「KV2027で目指す姿」について従業員の理解度や浸透度を調査したところ、約半数が「知らない」という未認知、または「知っているだけ」という認知の状態で留まり、その先の理解・共感・体現までには至っていないことが分かりました。そこで私たちはさらなるインターナルコミュニケーションの強化が必要と考え、『KIRIN Now』を開設したという経緯があります。

 この媒体の目的は、第1に「KV2027」および中期経営計画の達成に貢献すること、第2に「KV2027」で重要なキーワードである「CSV」という価値観を自分ごと化してもらうこと、第3に全従業員が知るべき情報を発信することです。この目的のもと、メインの読者ターゲットは若手リーダーやリーダー予備軍の30代従業員と設定しています。

『KIRIN Now』基本情報。立ち上げ時から経営ツールとして位置づけ

『KIRIN Now』基本情報。立ち上げ時から経営ツールとして位置づけ

――社内報をコミュニケーションツールとして活用される企業様は多いのですが、最初から「経営ツール」として位置づけられている点は素晴らしいですね。『KIRIN Now』の編集方針はどのようなものですか。

古源:編集方針は3項目を設定しています。1つ目が共感できるポイントを作ること、2つ目が挑戦につながるマインドや行動を織り込むこと、3つ目が本音が伝わる企画を立案・発信することです。読んで終わりではなく、きちんと行動変容につながる発信をしたいと考えました。経営ツールとしての機能も、経営情報の発信装置・現場情報の受信装置・参加型双方向コミュニケーションの場という3つを持たせました。

編集方針と機能。読んで終わりではなく、行動変容につながる発信を意識している 編集方針と機能。読んで終わりではなく、行動変容につながる発信を意識している

 

 これらの方針・機能を最大限に発揮できるよう、少し特色のある編集体制を敷いています。
媒体オーナーや編集長の立場は私たちコーポレートコミュニケーション部が担いますが、運営自体は部で完結させるのではなく、人財戦略部・CSV戦略部・マーケティング戦略部などインターナルブランディングに関連する各部署から1〜2名ほど参加して編集に携わってもらっています。企画の相談をしたり現場からの意見をお聞きしたりして、広い視野での運営ができるよう心掛けています。

    従業員の関与度を5段階で区切り、記事を作り分け

    ――コンテンツ設計はどのようにしていますか?

    古源:連載・特集・資料ライブラリーの3分野を設定しています。特徴的なのは、従業員の関与度に応じて複数のCSV関連コンテンツを作り分けているところだと思います。

     「KV2027」の達成につながる従業員の「CSVの自分事化」について、私たちは具体的に「未認知/認知/理解/共感/体現」という順に深くなっていくと仮定しました。社内アンケートとヒアリングを基に、従業員の皆さんがどのステージにあるのか把握し、「未認知を認知へ高めるには」「理解を共感へつなげるには」と狙いを定めて企画を立案しています。

     後ほどご覧いただきますが、企画の目的・ターゲット・企画構成などについてはフォーマットへ落とし込み、この段階で関係各所や取材対象の方々とも意見を擦り合わせて構成を固めます。ここで合意が取れていないと、途中で思わぬ修正が発生して発信内容がブレてしまいます。なので、走り出す前に「私たちはKV2027の達成のためにこんな企画を立てている」「こういう発信なので、こんなご協力をいただきたい」というように、関係する皆さんにきちんと伝えるようにしています。

    2つの実例と、異なる企画の固め方

    ――詳しい情報をありがとうございます。今日は実際に作り分けている2本のコンテンツを紹介いただきます。解説をお願いできますか。

    古源:1本目は一番ビギナーのステージにいる方へ向けた「寺子屋CSV」という企画です。これは5段階のうちの「未認知」を「認知」へ進めるためのコンテンツで、企画シートでもその点を明記しています。6項目ある中で特に重要視しているのが上から4つ、メインターゲットまでの項目です。この発信によって「KV2027」の達成にどう影響するか、その背景の課題は何かという点は、企画において最も大切な部分だと考えています。

    「寺子屋CSV」企画シート。左列の上から4項目を子細に詰めて企画設計している

     シートに基づいて制作したコンテンツがこちらです。CSVの認知や理解に至っていない方向けなので、興味を引くように会話形式での記事にしています。今回は営業職など地域のステークホルダーとの接点が多い方々をターゲットにしたので、現場感を知りたい皆さんにより刺さるよう、流通や飲食店に関連した事例を冒頭に載せています。

    寺子屋CSVの画面(スクロールしてご覧ください)

     登場し、取り組みについてお話ししているのは実際にコミュニティで地域活性化を進められた従業員の方ですが、発言内容のすぐ下にその取り組みにおけるCSV価値について解説を差し込んでいます。現場の事例からポイントが抽出されて、疑問がクリアになる仕立てにしました。

    ――CSVを大上段から解説するのではなく、現場での悩みや、行動から達成したエピソードを紹介することで「共感」へつなげるような構成も意識されているのですね。

    古源:記事下のコメント欄にたくさんの営業の方から応援や共感の声をいただき、皆さんに響く記事になったと感じています。

     2本目は、関与度を「理解→共感」のステージへ促すための企画「1ミリ変える、ストーリー。」です。1本目と同じように企画シートを作成しますが、大きく異なるのは「目指したいこと」のゴール感です。認知よりさらに深い共感を得て、刺激を受けた読者が自分の中で反芻できる状態を作りたいという狙いがありました。

     コンテンツの見せ方も「寺子屋CSV」とは異なります。エモーショナルに伝えるために写真の作り込みを丁寧に行い、見出しも心にグッとくるフレーズを意識しました。記事の置き方も先ほどは会話形式でしたが、こちらは一人称で語りかけるような文体にしています。

    「1ミリ変える、ストーリー」。の画面(スクロールしてご覧ください)※セミナー当日ご紹介の記事とは異なります

    ――「CSVについて伝える」と特化しても、ステージが違うとこれだけ変わってくるのですね。こちらの「1ミリ変える、ストーリー。」はブログサービス「note」にも転載されていますね。

    古源:はい。私たちは、自信を持って従業員1人1人のエピソードを広く社会に発信できると考えています。社外の方にも見ていただけたら、グループ全体の企業ブランド向上にもつながります。

    幅広い層から興味を引く仕掛けと、細かな対応

    ―― お話をうかがって、従業員の皆さんへのアンケートや他部署と協力した編集・企画立案など、緻密な準備と設計が、訴求力の高い記事を生み出しているのだと実感しました。

    古源:企画立案にあたって他部署からの編集部員の皆さんのご協力は大きく、私たちだけでは見つからない人財や課題、発信すべきテーマについて専門的な視点から情報をいただけています。

     また、工場に勤務する皆さんは会社用のデバイスがない場合が多いのですが、そういった方々にもいつでもどこでもご覧いただけるように私用デバイスからもアクセスできる設計にしています。関連した部門や職種の方々を取り上げた際は「身近な人が出ているなら1回でも見てみよう」という動機付けになって大きな効果がありました。自分に関係のある人や話題など、記事にフックになる部分があるかないかで反応が大きく違うので、しっかり従業員の方の声を聞けるように注意しています。

     記事下のコメント欄についても100%のコメントバックを目指していまして、投稿があったら私たちからご協力いただいた方に「返信お願いします」とお知らせしてラリーが生まれるようにしています。そこは泥臭く手作業で行っているところです。

    ―― 経営課題の抽出から記事制作、コメントの相互やり取りまでとなると、気を配る範囲は本当に多岐にわたりますね。

    古源:そうですね、この仕事はある意味敵がいないというか、営業でいう競合がいない仕事だと思っています。自分が経営課題を理解できるようになって、人と顔がつながって、発想力が豊かになって、という自分の成長がインターナルコミュニケーションの充実に直結している。自分の能力が高まれば高まるほど良いものができるというところにとてもやりがいを感じます。

     今後は海外の事業会社の皆さんとも連携して、国内向けと海外向けでの大きな作り分けも視野に入れています。ちょうど今、価値観や理念の浸透度についてヒアリングを行っているところで、情報を生かしながらまた違った形での最適な発信方法を模索しています。

    ―― お話をうかがい、『KIRIN Now』の強さの秘密を感じ、さらにはICの仕事の価値を再認識することができました。貴重なお話をありがとうございました。

     

     

     Web/アプリ社内報『KIRIN Now』

    創刊:2021年
    閲覧対象者:正社員、派遣・契約社員パート・アルバイト、内定者
    更新頻度:週に1~3回
    会社情報:https://www.kirin.co.jp/


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