企業それぞれのICのあり方に着目する「深掘り!ICP*Session」。今回ご紹介するのは、株式会社ZOZOの中でも物流部門に特化した「部内報『Smile』」です。中心メンバーとして活躍されるICPの伊東 優衣さんは、改善の積み重ねで着実に現場のコミュニケーション活性化を進めてきた努力の人。「みんなの笑顔をつなげたい」という強い思いがエネルギッシュな行動力の源です。
なぜ現場に絞り込んだメディアを展開する必要があったのか、本社のIC担当部門との連携をどう図るか、といった新たな角度からICの多様な可能性を探ります。
*ICP(Internal Communication Producerの略。社内報をはじめとしたインターナルコミュニケーション施策を担当する方)
【Close up ICP】
株式会社ZOZO
フルフィルメント本部 人財支援ブロック
伊東 優衣さん
(いとう・ゆい/2019年11月入社。物流拠点「ZOZOBASE」におけるIC業務を担当し、部内報『Smile』の制作に携わるとともに、地域貢献活動の一環としてイベントの企画・運営を手がける)
【インタビュアー】
LINEヤフー株式会社
コーポレートコミュニケーション本部
髙橋 正興さん
(たかはし・まさおき/2014年からインターナルコミュニケーション担当として数々の大規模な社内イベントを実施。プロデューサー、ディレクター、シナリオライターの1人3役をこなす)
株式会社ZOZO
設立:1998年5月21日
事業内容:ファッションEC
2004年12月よりファッションショッピングサイト「ZOZOTOWN」の運営を開始。2023年現在、1,500以上のショップ、8,900以上のブランドを取り扱い、コスメ専門モール「ZOZOCOSME」、靴専門モール「ZOZOSHOES」、ラグジュアリー&デザイナーズゾーン「ZOZOVILLA」を展開している。
従業員数:1,645人(平均年齢33.1歳)※グループ全体(2023年6月末時点)
URL:https://corp.zozo.com
現場のつながりを強めるために生まれた「部内報」
ZOZOBASEにおける多面的なIC活動
※ZOZOBASEは千葉県習志野市と茨城県つくば市に計4拠点(取材当時)を持つ物流部門の総称(2023年度11月より新拠点がつくば市内で本格稼働開始予定)
①部内報『Smile』2020年3月配信開始
イントラネットを活用した媒体。経営理念の浸透企画(スマイルデリバリー共有会)や社員インタビューの記事や動画を主としたコンテンツを毎週更新
②イベント運営「Smile Delivery with You」
2023年より地域貢献や社内外問わずのZOZOBASEの魅力発信を軸としたプロジェクトを立ち上げ、社員家族の招待イベントや障がいのある方とともに過ごすイベントなどを開催
髙橋:ZOZOBASEでは3年前から部内報を制作されているとのことですが、なぜ全社向けとは別のメディアが必要になったのか、その背景を教えていただけますか。
伊東:一つのきっかけは、2019年に株式会社 ZOZO USEDというグループ会社が株式会社ZOZOと合併したことです。別々の会社で働いていた社員同士がこれから同じ目標に向かって進んでいくためには、双方がもつ良い文化や組織風土を融合させていく必要がありました。また、ZOZOが運営している物流拠点「ZOZOBASE」も千葉県・茨城県と離れた距離にあったため、どんな人が働きどんなことをしているのかが見えにくく、連携がとりずらいという問題がありました。それらを踏まえ、拠点間や人のつながりを強化するために人財支援ブロックという専任の組織が立ち上がりました。
髙橋:なるほど。人財支援ブロックでは主にどのようなIC活動をされているのですか。
伊東:まず部内報『Smile』というWeb媒体で、「ZOZOBASE」の社内向けに経営理念の伝達や社員インタビューなどの読み物記事を週に1回配信しています。それと並行して、文字情報だけでは不十分な面を補うために動画コンテンツも制作しています。「スマイルデリバリー 共有会」というタイトルで、経営層の思いや「ZOZOBASE」の取り組みを伝えるもの。最近では物流業界に大きな影響を及ぼす「2024年問題*」の情報もキャッチアップできるようなコンテンツも加えています。現在、部内報『Smile』の制作チームは3人体制ですが、動画も企画ごとに担当を決めて全員で協力し合いながら撮影しています。
*トラックドライバーの時間外労働時間を960時間とする規制によって生じる問題
髙橋:単なる読み物企画とは一線を画した部内報、ということですね。
伊東:ただ読んでもらうだけでは、やはり限界があります。最近では、社内だけでなく社外の人ともつながりたいという思いが膨らんで「Smile Delivery with You」という新たなプロジェクトも立ち上がり、社内外問わずに「ZOZOBASE」の魅力を発信できる取り組みにチャレンジしています。手始めとして、社員の家族を「ZOZOBASE」に招待し、会社の魅力を伝えるイベント「ファミリーデー」、そして「笑顔をつなげよう。野菜で染色体験」と題する地域交流イベントを開催しました。これは廃棄野菜を使って障がいのある方々と共に染色を楽しむものです。「ZOZOBASE」では障がい者雇用の促進に注力しているのですが、どうしても同じ部署のスタッフとばかり関わることが多くなってしまいます。もっとお互いを分かり合えるきっかけをつくりたいと、外部の支援企業の協力を得て実現させた企画です。染色に着目したのは、同じ染料でも多様な柄が生まれるためで、いろいろな人がいろいろな思いを持って働いていることをZOZOらしい形で伝えたかったからです。
髙橋:「ZOZOBASE」が単独で活動することを、本社ではどうご覧になっているのでしょうか。調整が難しくありませんか。
伊東:全社的なICは、本社のフレンドシップマネージメント(以下FM)部が担当し、毎月社長が登場して全社のトピックスを紹介する「全体朝礼」をライブ配信したり、社員同士のコミュニケーション活性化イベントを企画したりしています。「Smile Delivery with YOU」のような新しい企画を立ち上げるときは、まずFM部に会社の方針とズレていないか相談をした後、私たちの思いを肉付けしています。また、FM部の全体朝礼でも「ZOZOBASE」の取り組みを紹介してもらうなど、コミュニケーションはこまめに取り合っていますね。部門ごとに対象やスタイルは違っても全員で一緒にやっていこうという想いで、互いに切磋琢磨し合える関係性が築けていると思います。
部内報で社員同士が触れ合うきっかけをつくる
髙橋:今や部内報『Smile』に登場するのが社員の目標までになっているそうですが、最初の頃はなかなか認知されなかったとか。どんな施策がうまくいったのでしょうか。
伊東:最大の要因は、なぜ部内報『Smile』があるのかという存在意義が浸透しなかったことです。そこで部内報『Smile』では毎年読者アンケートを行い、私たちがどんな思いで運営し、アンケート結果を元に翌年はどうしていくかを報告する記事を毎年必ず配信しています。悪い結果でも隠さず、報告したことをしっかり実行することで信頼度を高めてきました。社員インタビューなどもいろいろなレイヤーの方にヒアリングをし、公平な人選を行っています。そうした努力を重ねて2年ほどで、次第に高い評価を得るようになりました。
髙橋:言葉では簡単に聞こえますが、実行に移すのはとても難しいことだと思います。企画を立てる上で、最も重視されているのはどんなことですか。
伊東:何を伝えたいのか、誰に伝えたいのかを強く意識しています。ターゲットとする人たちにどんな思いを持って、どう行動してほしいか、そこが企画の決め手です。どのコンテンツでもレイヤーと勤続年数、課題、3つの要素を組み合わせてターゲットを細かく絞り込み、企画ごとのすみ分けを意識しています。業務のすきま時間で見てくださる人が多いので、そこを明確にしないと焦点がぼやけてしまいますから。
髙橋:目的意識を強く持ち、深く考えて企画を練り上げていることがよく伝わってきます。他社の社内報担当者の参考になるような実践のコツがあれば、ぜひ教えていただきたいのですが。
伊東:対話を増やすことに尽きます。経営層や管理職の方々とも対面で話す機会をたくさん作って「ZOZOBASE」の現状や社員の活躍をキャッチアップしています。また、取り上げる題材については管理職と現場の方の双方にヒアリングを行って決定しています。IC活性化の前提として、一つ一つのコンテンツに「人とつながる」要素を盛り込むことを重視しているので、リアルな現場の声は大切です 。部内報『Smile』をきっかけに会話が生まれるように、インタビューイーの先輩社員からのコメントを紹介したり、スマイルデリバリー共有会のMCをいろいろな人にお願いしたりと、「人」がきっかけで見てもらえるような工夫もしています。互いを分かり合うには一緒にいるだけではダメで、まず相手を「知りたい」という気持ちがないと。そのために触れ合うきっかけを作るのが自分の役目だと思っています。
髙橋:複数のメディアを掛け合わせる上で、ICPとしてはどんな構想をお持ちですか。
伊東:物流部門は西千葉にある本社から離れた場所にあり特殊な職場環境なので、全社的な発信だけでは業務や人の魅力が伝わりにくいと感じています。それだけに、私たちは「ZOZOBASE」をもっとオープンな場にしたいんです。「ZOZOBASE」はまもなく5拠点に増えるのですが、距離が離れるほど拠点同士のつながりが失われないようにしないと。そのためにさまざまな方法でコミュニケーションの活性化を図ろうとしています。たとえば部内報『Smile』は「ZOZOBASE」の社員限定のメディアですが、「Smile Delivery with You」は、アルバイトの方をはじめ地域の皆さんまで視野に入れたプロジェクトです。「You=地域の人たち」であり、プロジェクトごとに“You”が入れ替わるイメージで広げようとしています。コンテンツごとに制作はすみ分けていますが、「みんなの笑顔をつなげていこう」という軸の思いはすべてに共通しているものです。
世界中をカッコよく、笑顔にする会社になる
髙橋:驚くばかりの行動力ですが、伊東さんは他にも業務をお持ちとか。限られた時間で仕事をうまく回すポイントについても、ぜひお聞きしたいです。
伊東:実は私、タスク管理が得意なんです(笑)。週単位と月単位、デイリーのスケジュールを組み入れたシートをExcelで作成し、毎週末に翌週のスケジュールを見直して進行管理をしています。こういう作業が好きで(笑)。上司から1週間の振り返りをするようにすると、自身の成長したポイントや改善点が可視化されるよとアドバイスいただいて、その振り返りも続けています。
タスク管理のポイント
- Excelで月間/週間/デイリーのスケジュールを作成
- 一覧で管理し、バランスを取りながらタスクを実行
- 毎週金曜日に見直しを行い、翌週のスケジュールを組み立てる
髙橋:その実直な積み上げが素晴らしい成果につながっていることがよくわかりました。最後になりますが、今後はどういうことに取り組んでいきたいですか。
伊東:一つは、今の方法以外にも、違う形でICの活性化を図ることです。もっと多くの人が「ZOZOBASE」を好きになり、働きたいと思える、そんな環境づくりにチャレンジしたいです。地域交流イベントの運営などもまだ道半ばですが、その狙いの一つは採用につなげること。楽しく働く姿をアピールすれば、「ZOZOBASE」で働きたいという新しい仲間が地域に増える。それをゴールにしています。もう一つは、当たり前のことですが、部内報『Smile』を継続させること。長く続けていると基本を忘れがちですが、同じ熱量を持ち続けてクオリティーを高めていきたいです。漫然と発信するのではなく、良い組織にし、良いコミュニケーションをとるという大前提があっての部内報『Smile』だと運営側が忘れてはいけないと、常に思っています。
髙橋:伊東さんが考える「良い組織」とは?
伊東:会社はお客様に良いサービスを提供する場で、社員同士が遠慮して何も言えない組織では発展しません。レイヤーも年齢も関係なく意見を言い合える組織になるためにも、ICの活性化が大事だと思います。ICの真の目的は、「世 界中をカッコよく、世界中に笑顔を」を実現できる会社になること。お客様の笑顔につながる仕事ができるのが、良い組織だと思っています。
髙橋:素晴らしいですね。対話のある職場づくりは最終的にお客様の笑顔につながるという一言に、ICPとしての一貫した思いを感じます。今日はありがとうございました。
〈取材後記〉
深掘りして分かった
「伊東さんの取り組み、ココがすごい!」
①全社対応組織との連携
全社規模の施策と部門特化の施策を相互補完の関係になるように連携をこまめに重ねてきていること。互いに違うスタイルを取りつつ、切磋琢磨していること。
②オープンなコミットで読者を味方に
部内報が知られてないころから課題をオープンにして改善をコミットし、公平なメディアとしてファンを増やしてきたこと。
③つなげることへのこだわり
離れた拠点にいるメンバー同士をつなげることにとことんこだわり、「コミュニケーションは、いい組織、いい会社にすることが目的だ」とブレないこと。
部門への『特化施策』で深く心に届け、人をつなげる
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