「まずは起こりうるミスを知ろう」の3回目、「事実誤認・不適切など」です。書き手には少しの悪気もなくても、言い回しで読んだ人を傷つけることがあります。そんな事態は、できれば避けたいですよね。
「起こりうるミス」の大分類:
[A]単純入力ミス
[B]語法・用法・敬語など知識不足の誤り
[C]事実誤認・不適切など
[D]体裁上の不備、用語不統一など
[C]事実誤認・不適切など
どんなミスも起こさないに越したことはありませんが、経験上、「事実誤認・不適切」の範疇に入るミスは特に深刻に感じます。というのも、過去に刷り直し・再配布に至ったのを目撃したとき、いずれも事実誤認か不適切のミスが原因だったからです。
ざっくり4つに分類した際はまとめてしまいましたが、事実誤認と不適切は別問題なので、分けて説明しましょう。
事実誤認:関係者に失礼千万
固有名詞全般
あなたが社内報に協力を依頼され、忙しい中で取材に答えたり寄稿したりしたとして、もしも誌面で自分の名前を間違って掲載されたら、どう感じるでしょう。
そう、決して間違ってはならないのが固有名詞です。
人名や会社名だけでなく、団体・組織名、市町村や駅名などの地名全般、建物・施設などの名前、商品・サービスの名称、著書・映画・音楽など芸術作品の題名などなど、すべて固有名詞。
これらに共通するのは、いずれも、間違えてしまうと強烈な違和感を感じる「誰か」がどこかにいること。ゆめゆめおろそかにすることのないよう、一つひとつ信頼できる資料に当たって確かめるクセをつけましょう。
[校正校閲クイズ:その1]
羅列した固有名詞はすべて会社名。間違いが分かりますか?
「富士フィルム」「シャチハタ」「キューピー」「キャノン」「文化シャッター」「日本コロンビア」「アメリカン・エクスプレス」「エヌティティドコモ」「ブルドッグソース」「ブリジストン」「味の素ゼネラルフーズ」「みすず書房」「いすず自動車」「ニッカウィスキー」「太陽日酸」
正しくは以下のとおり。1つだけ引っかけで正しい表記が混じっていました。
「富士フイルム」「シヤチハタ」「キユーピー」「キヤノン」「文化シヤッター」「日本コロムビア」「アメリカン・エキスプレス」「エヌ・ティ・ティドコモ」「ブルドックソース」「ブリヂストン」「味の素ゼネラルフーヅ」「みすず書房」「いすゞ自動車」「ニッカウヰスキー」「大陽日酸」
「ブルドックソース」は、おなじみのブルドッグマークの下に「Bull-Dog」とあり、英語名称は「BULL-DOG SAUCE CO.,LTD.」なのに、表記は「ブルドック」なのです。
このように、記憶や印象はあてになりません。例えば会社名ならその会社のWebサイトや会社案内など、公式の資料で確かめましょう。蛇足ですが「株式会社」が前に付くか後に付くか、間は半角空くのか、なども要確認です。
数字の桁や単位
数字の桁や単位の誤りも要注意です。私が文字校正をしていて必ず気を付けるのは、金額などの3桁区切りの「,(カンマ)」が「.(ピリオド)」になっていないか。
カンマとピリオドはキーが隣で打ち間違いやすく、文字が小さいほど「,」と「.」の違いに気付きにくいもの。でも、ピリオドは小数点ですから、おそろしい桁違いになります。
もちろん単位にも注意を払います。例えば「インチ」と「センチ」、「メートル」と「フィート」など、取り違えると飛んでもない非常識描写をしてしまいます。身長5メートル!とか(5フィートなら152.4cm)。
また、「100キロメートル平方」「100平方キロメートル」を勘違いすると、間違った面積を伝えかねません。前者は「100キロメートル四方」と言い換えると分かりやすく、1辺が100kmの意味で、面積は1万平方キロメートルです。
不慣れな単位こそ見落とします。例えば「店の間口は2けんあまり」というとき、単位「けん」の字は「間」ですが、「軒」と書いてあってもスルーしてしまいそうです。
数字の桁や単位の誤りは、間違えると実は傷が深いのに、何となく形としてはもっともらしく見えてしまって気付きづらいのです。数字が出て来るたびに、気を引き締めましょう。
時系列・歴史
時系列や歴史も、事実誤認があってはならないものです(校正というより校閲の範疇ですが、本サイトはそこについて厳しく区別をしていません)。
校閲をテーマにしたテレビドラマの人気も手伝って、この辺りの重要性や、「そこまで調べるの!?」という執念についても、有名になりました。例えば「この年月日のこの場所で見えたなら、この形の月はおかしい」とか、「この新幹線には乗れなかったはず」「明治時代の話ならカメラがライカのはずがない」…などです。まるで探偵のようですよね。
書籍や新聞の世界では、プロフェッショナルたちが上記のように執拗に事実確認を行いますが、社内報の場合、なかなかそこまでの手間ひま・予算をかけることは難しいでしょう。
そこで、社内報制作では、「年号(西暦か和暦か)・日付」「年齢・周年」「重大な史実」あたりを、ひとまず重要確認事項として押さえておくことをお勧めします。
[校正校閲クイズ:その2]
以下の文章を素読みしてみてください。違和感、ありますか?
(1)大正生まれの創業者は、青少年期に日清戦争、大東亜戦争を、壮年期には東京オリンピックや、オイルショックを経験した。
(2)昭和38年当時に書かれた亡き初代の日記を見ると、ボールペン字で黒々と、後に当社の社是となる言葉が大書されていた。
…社会科のテストみたいですね。実は両方ともおかしなところがあります。
(1)大正生まれの創業者が青少年期に日清戦争(明治27~28年)を体験するのは無理。日中戦争(昭和12~20年)の間違いです。
(2)すみません、これは意地悪でした。日本人が初めてボールペンに触れたのは第二次世界大戦後1945年、日本に来たアメリカ兵士からだとか(三菱鉛筆公式サイトより)。この年号だと、ボールペン字とは見た人の思い込みかもしれず、とりあえず除いた方が無難なようです。
事実確認は奥が深くてキリがないので、ひとまずこのあたりで次項に移ります。
不適切:誰かを不快にするかも!?
差別表現
性別や職業、病気や身体的特徴などについて、侮辱的と感じさせるかもしれない表現は、使わない配慮が必要です。社内報や企業の広報物の制作に当たって、決して誰も傷つけないよう努めることは、関係者全員の責務です。
いくつか挙げてみましょう。
×裏日本/表日本 →○日本海側/太平洋側
「陽の当たらない裏側」の語感に不快感を持たれることに配慮します。
×帰化 →○国籍取得
×足切り →○門前払い
×障がいを持つ →○障がいがある
自分から持ったわけではないので、「~がある」と表現するほうが、より適切と思われます。
女性を特別視する表現や、男性側に対語のない表現は、原則避けたほうが良いでしょう。
×女流/女医 …男流/男医とは言いませんよね。
×夫唱婦随/女傑/職場の花
社内報の場合、発言者自身の言葉選びを尊重せざるを得ない場合もありますが、女性をことさらに強調したり特別視する表現は、不快に感じさせる場合もある点には留意したいものです。
本来の日本語の語源を無視して、語感やイメージだけでどれもこれも差別用語として安易に排除する風潮があり、このことについて「言葉狩り」と指弾する向きもあります。
例えば、「[子供]と書くと、大人の付属物のようだから[子ども]にしよう」とか、「[片手落ち]と書くのは止めよう」といった表記の変更は、語源を考えると無意味なのでは?…という議論です。
しかしながら、個人の芸術作品ならいざ知らず、社内報や企業の広報物であるなら、たとえ語源として差別意図がなくても、読み手の感情を逆なでする可能性が少しでもあるなら、避けるべきかと思います。言葉でコミュニケーションをする以上、「言われた人がどう感じるか?」を常に思いやる視点を持つことは、基本の心がけです。