「社内報アワード2024」に入賞された企業によるオンライン事例発表セミナーの第2弾は、「Web/アプリ社内報部門/企画単体」のグランプリをはじめ、複数の部門で受賞に輝いた株式会社アイシン様のご登場です。ご担当の高須賀さんは、過去に何度もアワードに応募し、紙社内報からWeb社内報へと媒体が切り替わる中、メンバー全員で審査講評や従業員アンケートを読み込んで改善を重ねてきたと語ります。「自分の会社が好きになる」情報を追い求め、常に社内を走り続ける、その熱意と努力で勝ち得たグランプリの舞台裏です。
【プレゼンテーター】
株式会社アイシン
グループ経営戦略本部 広報部 ブランディンググループ
高須賀 理恵(たかすか りえ)さん
【ファシリテーター】
ウィズワークス株式会社
社内報総合研究所 所長
橋詰 知明
会社を好きになってもらうことがICの大きな使命
――まずは貴社のご紹介をお願いします。
高須賀:アイシンは「走る」「曲がる」「止まる」というクルマの基本性能に加え、快適性や利便性、位置情報の活用など、クルマの「移動」に関わる幅広い商品をグローバルで提供する企業です。
●主な事業領域
4年前に策定された「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」という経営理念には、リアルな移動の進化に貢献するだけでなく、人々の「心」を動かすような、あらゆる“移動”体験を世界中の人々に提供したいという決意が込められています。そして、クルマの電動化や知能化など、さまざまな技術開発に挑戦することで、カーボンニュートラルをはじめとしたさまざまな社会課題に対して具体解を示していきたい、という想いも込められています。
私たち広報部はそれを受けて、あらゆるステークホルダーに「アイシンをもっと知ってもらい、成長への期待を集め、好きになってもらう」ことを使命にしています。広報部はグループ経営戦略本部の中にあり、部員は30人ほどで、インターナルコミュニケーション(以下IC)の部隊は5人。ICが目指すものは、従業員のエンゲージメント向上はもちろん、新たな気づきや発想・行動が生まれるような情報・発信や場づくりを通じて、「人と人」「人と組織」の絆をつなぎ・拡げ・強くすることです。
――Webグループ報「act(アクト)」も、その一端を担っているわけですね。
高須賀:「act」はアクセスに制限のあるイントラネットと違い、全従業員とその家族も閲覧でき、スマートフォンでも見られます。年間で約150件の情報を発信しており、イントラネットの一等地にも最新の掲載情報を載せています。「act」のトップページでは、まず注目記事を載せ、他に週間ランキングや福利厚生の情報、会社バスの時刻表や食堂のメニューなども紹介しています。「リアクションボタン」は、当初は「いいね」だけでしたが、他企業の事例を参考に「ワクワク」「ファイト」「学びになる」など7種類に増やしたところ、改善前の5倍以上の反応を得ることができました。
●イントラネットから「act」への導線づくり

――制作に際しては、どんな全体設計をされているのでしょうか。
高須賀:ここ数年、社内の意識調査でエンゲージメントに関する数値が減少傾向にありました。ICのチカラで、従業員が会社への期待を持ちながらワクワクして仕事に取り組め、挑戦の意欲を高めてもらいたい!ということで、「会社の方向性が分かる」「将来に対して期待が持てる」「経営層の考えが分かる」を重点テーマとして企画を立てています。
例えば、「決算」の解説記事は単なる数値の羅列ではなく、数値と紐づけて会社の注力テーマを噛み砕いて解説したり、将来の期待につながるような活動を紹介したりしています。また、今回グランプリを受賞した企画「実は…このクルマにもアイシン」は、アイシンの強みが分かるような情報や、設計/製造現場メンバーの頑張りを伝える内容です。また当社は事業領域が広いこともあり、他の本部が何をしているのか、どんな役員がいるのか分からないという声を受け、役員が登場する記事をほぼ毎月掲載しています。一見お堅い情報しか載せていないように思われるかもしれませんが、「冬のボーナスの使い道は?」などのテーマのもと自由に投稿できるコーナーや、各部の通信員から届いた情報を掲載する「通信員だより」などもあります。
――硬軟取り混ぜた企画を用意されているのですね。皆さんに「act」を読んでもらうために、どんな工夫をされていますか。これまで過去のアワードを通じて、さまざまな試行錯誤を重ねたともお聞きしています。
高須賀:まず、actはイントラネットの掲載情報からアクセスする従業員が多いため、興味を引いてもらえるように、メンバーの笑顔や「なんだろう?」と思わせる画像を使うようにしています。タイトルも「〇〇を知りたい方へ」のように呼びかけるスタイルにするとアクセス数が伸びますね。紙社内報と違い、Webはすぐに数字で結果が出るので、どんどん試して改善!を繰り返しています。
実はアイシンは5年前まで紙社内報を制作していて、アワードに応募してもブロンズやシルバー止まりでした。ところがWebに移行した初年度にWeb/アプリ社内報部門に応募したところ、いきなりシルバーを受賞。それに満足してしまい、あまり改善をしなかったところ、翌年はブロンズに…。
当社は従業員数が多く、職種も幅広いにもかかわらず、ターゲット設定が曖昧だったんです。そこをズバリ審査講評で指摘され、このままではマズイとメンバー全員で審査講評や読者アンケートを読み込み、一つひとつの記事についてどの層をねらうかを練り直すことにしました。同時に読者のアンケートの項目も見直し、アクティブユーザーにはサイトの満足度や、重点テーマ(会社の方向性、将来性、経営層の想い)が伝わったかなどの質問をし、見ていない人には、その理由やどんな情報があれば見てみたいかなどを盛り込みました。
同時に登録率が伸び悩んでいた工場に対して、登録キャンペーンを実施するなど、ターゲットや方法を変えて徐々にユーザーを増やしてきました。とはいえ「これが正解」というものはなく、常に挫折と改善の繰り返しです。
「実はね…」と言いたくなるような情報を引き出す
――ここからはグランプリ受賞作の「実は…このクルマにもアイシン」を見ていきましょう。連載の第1回では、トヨタ自動車のアルファードに搭載された「パワーバックドア」が取り上げられています。画像や動画をふんだんに使い、製造担当者の苦労話やロボットによる自働化の話などを盛り込んだ構成で、現場取材ならではのインパクトがありますね。
高須賀:これも読者アンケートで「自分が担当する製品以外は意外と知らない」「どの部署/工場で作っているのか分からない」という声かあり、多くのメーカー・車種にアイシンの製品が採用されているのに、知らないのはもったいない!と思ったんです。制作にあたって頭に浮かんだのは「実は…このクルマにアイシン製品が載っているんだよ」「すごいでしょ」と、従業員が家族や友人にちょっと得意げに話しているシーン。タイトルもそこから付けました。
各回で取り上げる製品は、アイシンが取り扱う車体・走行安全・パワートレイン・情報分野と偏らないようにしています。またパワーバックドアのように目に見えるものだけでなく、目に見えないところにもアイシンの技術が貢献していることを紹介して、“移動を支えるアイシン”を感じてもらいたいという想いを込めています。さらに取材現場で感じた担当者の想いを伝えて読者の共感を得ることとともに、この製品がこの先どう進化するのかという情報も引き出し、将来への期待を感じてもらうことをねらっています。
●「実は…このクルマにもアイシン」第一回 記事
――企画立案から取材撮影、原稿や図版の作成まで、「act」の制作はすべて内製と聞き驚きました。そのうえでビジュアル素材の多さも特徴で、ロボットによる作業自働化で時間短縮したことを伝える動画や、一方では製品の構造を表す手作り感あふれる図版まで、非常に充実していますね。
高須賀:担当部署から提供される資料は専門用語などがあり難しいケースが多いので、読者に分かりやすいように、私たちが図版などを作成します。サムネイルのイラストはCanva(https://www.canva.com/ja_jp/)を使いますが、記事中の図版はPowerPointで手作りしています。また「ロボットによる自働化」という文字だけではイメージが伝わりませんが、動画ならスピード感が伝わりますし、自分たちで現場を取材したからこそ、その判断/選択ができます。動画編集が必要な場合は、取材先の方と相談しながら一緒に作ることも。スタイリッシュでなくても、“ともに作る”ことで、「良い記事をつくろう」という共通認識が生まれ、そのケミストリーが読者にも伝わると思うんです。
――取材前に意識されていることはありますか?
高須賀:取材前にヒアリングシートに記入してもらうのですが、書かれた内容に至った背景なども想像することを意識しています。また提供された資料を読み込むだけでなく、可能な限り情報を集めて質問事項を整理しておくと、こちらの熱意が伝わって、取材もスムーズに進む感覚があります。また取材以外にも、日頃からさまざまな部署と連携を図り、ICのチカラで全社的な活動の意識醸成・行動化を後押しする活動もしています。例えば、ある教育がスタートする場合、その少し前に「act」で記事を仕掛けて、基礎知識を解説したり、事例紹介をしたりすることで、自分ごと化できるようにしています。
――その熱量が受賞の評価ポイントにもなっていましたね。吹き出し一つを見ても、編集者の目線で書かれたコメントがいいフックになっています。特にアルファードの取材後、実際に編集者がディーラーに赴き、自社製品がどう使われているかを確認されたという行動力に驚きました。
高須賀:取材を通して、従業員の熱い想いに触れることができ、その製品がお客様のもとに届き、世の中に貢献していることを再認識できたんです。私が感じた想いを読者にも伝えたくて、つぶやきのような形で伝えてみました。
●自分たちでつくる記事だからこそできること
「誰とでも会える、ICの特権」を最大限に活かした情報発信を
――本記事でグランプリを受賞された後、社内の反響はいかがでしたか。
高須賀:実は記事を公開した時よりも、受賞後に「この企画おもしろいよね」「分かりやすいね」といった声が届くなど、うれしい反響がありました。とはいえ審査講評には、良い点だけでなく「こうすればもっと良くなる」点も書かれていました。その一つが「生産と設計メンバー以外に、受注した営業メンバーの話も聞いたら面白いのでは」という指摘で、これも企画を引き継いだメンバーが早速、次の回から取り入れてくれました。
――では最後に、高須賀さんご自身はICのご担当者としてどんなやりがいを感じておられますか。
高須賀:私は常に「ICのチカラで何かできないか」を考えていて、社内で何かが実施されると聞けば、記事になるか関係なく、可能な限り現場に行くようにしています。そうするうちに、いろいろな方々が顔を覚えてくれて、次第に向こうから情報を教えてくれるようになりました。社内に頼れる人がたくさんいる。これほど心強いことはありません。
またIC担当者は、経営層から工場で働くメンバーまで「取材したい」と依頼すれば、誰とでも会って話を聞くことができます。これはある種の特権ですが、だからこそ責任を持って最善のアウトプットを出したい!という気持ちで業務に臨んでいます。私は従業員の一人にすぎませんが、自分が紡いだ言葉を大勢の人に見てもらえる仕事は、他にあまりないと思います。このような自覚を持つと、仕事に対する誇りが生まれ、向き合い方が変わると思っていますし、その記事を目にした従業員に「この会社っていいな」と少しでも思ってもらえれば、こんな嬉しいことはありません。
――そんな強い思いが記事の熱量となっていくのでしょうし、ICにとって大切なことを教えられるお話でした。本日はありがとうございました。
〈 Question&Answer 〉
配信当日は時間内で回収しきれないほど、たくさんの質問が寄せられました。そこで本記事の公開にあたり、高須賀さんが答えてくださいました!
Q1
従業員のエンゲージメントが下がっているために作成された新連載とのことでしたが、その根拠となる情報はどうやって集めたのですか?
「社内で毎年実施する「意識調査」の結果が出たタイミングで人事部メンバーと全社課題を抽出し、「このテーマはこのタイミングで一緒にやれそう」「これはIC先導で動いたほうが効果的」など意見交換しています。また年2回実施する読者アンケートの「どんな企画が見たいか」という設問に対して「製品のことをもっと知りたい」という声が多かったことから、この2つを掛け合わせました」
Q2
当社も製造業ですが、Webの社内報はなかなか見てもらえません。工場のラインで働いている方々へ社内報を見せるために、どんな工夫をされていますか?
「その悩みは弊社も同じです。17ある工場に対して一斉に何かをするのは難しいので、いくつかの工場に絞って施策を実施し、うまくいったらそれを次の対象工場でもやってみる。イマイチだったら、別の案にトライするという風に、PDCAのサイクルをどんどん回していきました。とはいえ、これをやればみんな見てくれる!というアイデアがあるわけではないので、今後も地道にやっていくのみだと思っています…! (休憩所にポスターやポップを設置、ブースを設けて登録キャンペーン、食堂/職場モニターでの映像放映などを実施しました)」
Q3
閲覧数やリアクション数、コメント数以外に、企画振り返りの参考にしている指標はありますか?
「定期的に行う読者アンケートの数値や自由記述、GA4で計測する読了率(45%、75%)なども参考にしています」
Q4
冊子社内報をWebに切り替えたとき、反対意見や障壁はありましたか? また、アンケートで「社内報を見てない人」と回答する層には、ヒアリングなどどのようにコンタクトしていますか?
「2021年の統合に際し、Web社内報の導入を検討しました。当時はまだコロナ禍の影響も大きく出社ができない従業員も多かったこともあり、どこからでもアクセスできるWeb化への後押しは割とあったのではないかと思います。また、PCを持たない現場の従業員の皆さんも見られるように、個人のスマホでも見られる仕組みにするなど、デメリットをどう補完するかも色々と検討を重ねました。
社内報を見ていない人については、個別ヒアリングというよりもある職場を抜き出し、そこの上長に協力を仰ぎ、理由などを詳しく聞くようにしていました」
Q5
当社も内製で記事を作っているのですが、「act」制作チームの皆さまは編集や写真撮影のスキルはどうやって勉強していますか? もともと編集や写真が得意な方がご担当されているのでしょうか。
「部内異動の際はスキルに関係なく配属されるため、最初から得意な人が多いわけではありません。基本となるマニュアルの準備や外部研修の受講、チーム内勉強会も時々実施しますが、一番は実際にやってみて、失敗したりしながらも経験を重ねることが重要だと考えています。
記事作成に関しては、まずは寄稿をもとに作成する記事を担当してもらい、文章を書くことに慣れてきたら、企画系の記事に挑戦してもらうようにしています。また取材は、先輩の取材に同行してもらって進め方の参考にしてもらい、次に本人がメイン、先輩がサブで同行し、現場でOJT。その次は一人で取材に挑戦していく、というようにしています。撮影も同じく、ハードルが低いもの(だいたい型が決まっているものをトレースする)から始め、徐々にカット数やバリエーションが求められる企画を振るようにしています」
Web社内報『act』
創刊:2021年
閲覧対象者:正社員、派遣・契約社員、パート・アルバイト、家族、グループ会社
更新頻度:週2回
会社情報:https://www.aisin.com/jp/
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