「社内報アワード2023」の入賞企業にご登壇いただく事例発表セミナー。第3弾となる今回は、セミナー事務局の注目企画のご紹介です。それは、Web/アプリ社内報部門 媒体全体でシルバー賞に輝いた、ひざつき製菓株式会社の『ひざつきジャーナル』。審査員や関係者が本作を高く評価した理由は、いったいどのようなものだったのでしょうか。
特に中小規模や製造業でインターナルコミュニケーション(以下、IC)の活性化に挑むご担当者様には、自社の施策に重ねていただけるであろう必見の内容。社内報アワード審査員の視点も交えながら、『ひざつきジャーナル』の斬新さを分析していきます。
営業部 デジタルプロジェクト担当
芹川 光歩さん
パーソルキャリア株式会社
人事本部 エンプロイーリレーションズ部
加賀谷 睦さん
社内報総合研究所 所長
橋詰 知明
【introduction】
創業100余年、従業員200名の老舗菓子メーカー
ひざつき製菓株式会社は創業100余年、栃木県に拠点を構える従業員数約200名の菓子メーカーです。地方都市の製造業にあたる同社では、社員の通勤は自家用車が中心。また半数にあたる100名ほどの社員が工場勤務であり、会社貸与のPCやモバイル端末を保有していません。
そのためWeb社内報を閲覧してもらうにも、個人端末に依存して業務外の時間に委ねることになり、IC視点では決して恵まれた環境とはいえませんでした。
そこで生きたのが、「自由な発想」と徹底した「社員目線」。自社の公式LINEというありそうでなかったツール選定から、直営店舗の無料クーポン配布や草の根的な口コミ勧誘まで、自社最適のさまざまなアイデアを柔軟に取り入れ、メディアを軌道に乗せました。
今回、登壇いただいたご担当の芹川氏は、インターナルコミュニケーション(IC)に従事していたわけではなく、営業職として同社に転職しながらも、入社当時の組織課題などを踏まえて社内報の創刊を提案、主導しました。
社員の自発的な行動による新しい価値創造を目指す
――本日はよろしくお願いします! まず、貴社がICに注力しはじめた背景について教えていただけますか?
芹川:当社は個人商店からスタートし、1970年代の急拡大を経て現在に至ります。経営は比較的順調ではありますが、これからも一層がんばっていくための土台づくりとして、ICの取り組みをはじめました。
社員に会社や仕事に対する興味関心を持ってもらい、主観を育み、最終的には自発的な行動による新しい価値創造ができるようになることを目指しています。
――芹川さんご本人のキャリアについてもご紹介をお願いします。
芹川:前職がベンチャー企業で、会社としてのMVVはもちろんのこと、個人がどんな思いで仕事をしているのかもとても大切にしていました。私自身もそういった環境が好きなので、ひざつき製菓でも同様の環境で仕事ができればいいなと思い、ICに取り組むことにしました。
「公式LINE」を配信ツールに選んだ理由とは?
――貴社ではLINEを社内広報のツールとして活用されています。なかなか珍しいケースだと思いますので、媒体の選定理由を教えてください。
芹川:弊社の社員の多くは工場勤務なので、PCやスマートフォンなどの貸与がありません。またほとんどの社員が車通勤であり、電車による移動などの隙間時間が発生しないんです。
そうした状況のなかでどのように情報に接してもらうかを考えたとき、新しいアプリを導入してインストールしてもらう、あるいは特定のWebサイトにアクセスしてもらうことはハードルが高いと判断しました。そこで、すでに多くの人が日常的に使用しているであろうLINEでの配信を選択しました。
今は費用体系が変わってしまっているのですが、当時は費用をかけずにスタートできたことも大きかったですね。
加賀谷:LINEが日常的に誰もが利用しているツールである、とはもちろん認識はしていましたが、社内報を配信するという発想になかなか至りませんでした。素晴らしいですね。新しい取り組みに対し、社内から反対意見などは出なかったのでしょうか?
芹川:特にありませんでした。もちろん、厳密に考えていくとリスクはいくらでも並べられると思うのですが、会社の規模もそこまで大きくありませんし、まずは手軽にはじめられること、効果につながるであろうことを重視していました。
社員の興味関心に応え、会社の情報共有をスタート
―― では実際に紙面を拝見してみましょう。公式LINEのアカウントを友達登録すると、隔週でメッセージと合わせて社内報『ひざつきジャーナル』の画像が送られてくるということですね。
芹川:そうです。『ひざつきジャーナル』は社員紹介、お客様の声、会社関連のニュースなどが中心です。練りに練った企画というわけではありません。
その理由は、社内報発行の目的を「会社と仕事に興味関心を持ってもらうこと」としているためです。これまでは、社員は興味関心を持っているのに、会社が情報を出せていない状況だったのではないかと考えていて、それなら社員が関心を寄せていることをまずは届けようと。
私は営業職なので製造現場に入ることはほとんどないのですが、何度か工場のお手伝いをしたときに、隣のラインで働く人たちのことを知る機会があまりない、自分たちが製造している商品がどのようにお客様に届いているのかよく知らない、という状況で、それを「知りたい!」と思っていることを知りました。
そのため『ひざつきジャーナル』の発行は、そうした現場の社員の要望に応える意味合いが強いと考えています。
加賀谷:誌面を拝見すると、社員の皆さんにそうした情報をしっかり届けようとする姿勢をすごく感じます。一つ一つのコンテンツの意味はもちろん、情報量もきちんと設計されていますよね。
いくらLINEをみんなが使っているといっても、情報量があまりに多かったりすると誰にも読んでもらえません。でも『ひざつきジャーナル』は、1枚の画像をタップすればスマートフォン上でもパッと読めるようになっていて、デザインも素晴らしいと思いました。
『ひざつきジャーナル』誌面
すべて芹川さんご自身がパワーポイントで制作している。すみずみまで可読性を高める工夫がされている。
「社内報を読む時間」をいかに取ってもらうか
―― 社内報を制作するうえで「世の中にあるすべてのコンテンツが競合である」と考えていらっしゃるそうですね。改めて、このご意見についてご説明いただけますか?
芹川:先ほどもご紹介したように、企画を特別に捻っているわけではなく、社員の大半が車通勤で隙間時間がない、PCやモバイル端末の貸与がない中で、「社内報を読む」時間を取ってもらう難しさを重々わかっているということです。
忙しい中、社員の皆さんにプライベートの時間を割いて社内報を閲覧してもらうことに対し、メリットとしてクーポンなど、何かしらお返しすることを意識して発信しています。
―― 現在も、小さくPDCAを回しながら運用されているとうかがっています。社内報の成果についてはどのように計測されていますか?
芹川:登録者数、開封率、クーポンの利用数などは一応見ていますが、現時点では特に指標として追ってはいません。社内報を見てくれた社員の間でコミュニケーションが生まれたり、ちょっとした会話のきっかけになったりすることを意識しています。実際、そうしたフィードバックをいただけるようになりました。
事業内容が変化するときも、社員の皆さんが取り残されてしまうことなく、情報を共有できるようになったと思います。
加賀谷:成果指標を数字で追っている担当者の方が多いと思うのですが、ひざつき製菓さんの場合、まずは発行から3年目の段階で、社員の皆さんの間で具体的なアクション、変化が生まれているということが重要だと思います。これから先、数値的な指標が必要になるフェーズがくるかもしれませんが、まずは現場での手応えを得られていることが第一歩ですよね。
情報発信のみに留まらず、リアルなコミュニケーションへ
―― 今後のICについて、すでに取り組んでいること、検討していることはありますか?
芹川:社内報の発行に加え、2023年末頃から、会社の部活動、レクリエーションなどのリアルイベントを通したコミュニケーション施策に力を入れています。従業員満足度を高めると共に、社員の皆さんが仕事のやりがいを感じたり、楽しく働けるようにしたりするための環境作りの一助になればと考えています。
現状のICの取り組みとどのようにつながっていくかはまだわかりませんが、商品開発などに際しても、いずれは特定の社員だけではなく、さまざまなメンバーが意見を出しながら商品を作れるようにしたいと思います。
―― 一人一人の社員が自社の商品開発に携わることが目標なのですね! その商品を店で手に取る日を楽しみにしています。今日は貴重な事例のご紹介をありがとうございました。
ひざつきジャーナル
創刊:2021年
読者対象者:正社員、パート・アルバイト
閲覧環境:私用PC・デバイスからアクセス可
更新頻度:不定期
会社情報:https://hizatsuki.com/
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