「社内報アワード2023」の入賞企業にご登壇いただく事例発表セミナー。第2弾は、若手社員が社長室を訪れフレンドリーな会話でトップの想いを引き出すユニークな新年メッセージ動画企画でゴールド賞を受賞した三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社の事例を紹介しました。
ご登壇くださったのは、広報部次長の嶺 有佑さん。若手社員との世代間ギャップを認めつつ、彼らの熱意を汲み、自己実現や成長を後押しする頼もしい上司で、メンバーとともに、広報は経営の一部だという高いプロフェッショナル意識を持って次々と動画制作に挑んでいます。
【プレゼンテーター】
三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
広報部 次長
嶺 有佑(みねゆうすけ)さん
【インタビュアー】
ウィズワークス株式会社
社内報総合研究所 所長
橋詰 知明
上司の自己開示で部下のやる気を引き出す
――本日は、若手の広報部員を率いて動画社内報を制作されている嶺さんにお話を伺います。まず御社のご紹介をお願いできますか。
嶺:我が社は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と米国のモルガン・スタンレーとのジョイントベンチャーの証券会社です。現在の広報部は実質的に9名体制で、社内外の広報業務に加えて、ESG推進や社員の行動変容を促す企業文化の改革推進なども担っています。
MUFGでは、企業活動において、MUFG Wayというグループ共通の企業指針を最も大切にしています。Purpose(=存在意義)には「世界が進むチカラになる。」を掲げ、役職員が同じベクトルで進むため、一人ひとりが自分ごと化し、事業戦略と同期した「Purpose経営」を推し進めています。そのPurposeを実現するために、役職員が大切にするValues(=価値観)をまとめたものが“5つの行動指針”であり、プロフェッショナルとして求める素養をシンプルに言語化しています。また、社長の小林の経営方針には、近江商人の「売り手によし、買い手によし、世間によし」の所謂「三方よし」の経営哲学のもと、お客さまへの貢献と合わせて、仕事を通じた社員の自己実現と成長で働き甲斐が実感できる“Well-being経営”をめざしています。
すごく良いことだと思うのですが、若い世代は昔のようにただ上司に従うのではなく、ありのままの自分で、わくわく感のある仕事に就きたい傾向にあります。また自分が何者であるかという存在価値を意識しているように感じています。マズローの欲求5段階説でいえば承認欲求、自己実現への想いが強い。そこでシニアと若い世代のギャップを埋め、互いが理解し合うには、まずシニアの世代がこれまでのキャリアや今後の目標を自ら開示し、若手社員の仕事における目標(志)を引き出して一つずつ階段を昇っていけるように周囲が伴走支援していくことが大切ではないかという仮説から、この企画が生まれました。上司が部下の目標達成に向けて応援することで企業価値が高まれば、それが社員の自己実現や成長につながり、働き甲斐を実感する、そのためにもまずは社長から自己開示をしてほしい、その想いが原点となりました。
――動画というツールを選択した理由をお聞かせください。
嶺:「社内では読み物だと経営企画部などのサポート役が原稿を書いたと思われることもあるので、社長自らの言葉で語ってもらいたい」というメンバーの意見がきっかけです。社長も「動画で発信することの方が社員に着信するかもしれない」と企画に賛同くださいました。これまで社内で動画制作をした経験がなかったため、初回は撮影や編集にプロの手を借りましたが、いずれは全て内製化したいと考え、撮影場所や導線などについてカメラマンとも何度も話し合いました。
というのも、社員に響くものにするなら会社のことをよく知る自分たちでつくる方がいいと考えたからで、広報部員の考えを具現化することで自己実現による達成感や働き甲斐にもつながりますし、スキルを身に付けることで自身の存在価値を実感することができます。実際、チーム全員が動画制作を楽しみ、さらに「社内報アワード2023」でゴールド賞を受賞したことで承認欲求も満たされました。
語りかけるメッセージ動画をYouTubeでも公開
「社内報アワード2023」動画社内報部門 ゴールド賞受賞企画
『2023 NEW YEAR’S MESSAGE』
広報部の若手社員が社長室を訪れ、社長との和やかな会話が始まる。
小林社長:私は毎年、自分にもお年玉をあげています。孫にあげると共に、こんな感じで自分にもちゃんとお年玉を(こちらは小林社長の当日のアドリブとのこと)。
書き初めでは「尊(=Respect)」の一文字を書き、“5つの行動指針”についての話が展開する。
小林社長:社員一人ひとりがお互いを認め合い、高め合う、これが当社にとって大事なことではないかと思っています。
――これが初めての動画制作とは驚きですが、「お客さまからリスペクトされる存在になってほしい」という社長の想いがよく伝わってきます。他にゴルフやギターなどテンポよく話題が切り替わり、飽きずに見られますね。この動画はYouTubeで一般公開もされ、約16万件の視聴があるとのことですが、公開の狙いもお聞きしたいところです。
嶺:我々の業界は、業法に守られたビジネスをしてきたこともあり、どちらかというと保守的かつ官僚的な組織です。しかしながら、生成AIや地球沸騰化などの社会環境の変化が進展するにつれ、変わらなければ生き残れないという危機感がありました。それならば、まずは自分たち自身が業務の中で「新たなチャレンジが必要だ」という声があがりました。一般公開も、「もはや情報隔壁を設けているような会社ではダメだ。社内も社外も同じ情報を発信すべきだ」というメンバー意見を尊重したものですが、一方で役員の中には情報公開に難色を示す人もいました。以前なら私もそこで諦めたでしょうが、いろいろな人に当社の基本姿勢や価値観を示す機会となるし、結果的に社内の一体感も築けると、上司を説得しました。
しかし何よりも若手社員の熱意が上司の心を動かしたのでしょう。アクセスデータを分析したところ、社内はもとより、興味を示したのは新卒就活生だけでなく、雇用の流動性が比較的高いといわれる30歳前後の方たちに通勤途中の朝や帰宅後の夜に見られていることがわかりました。またお客さまやメディアの間でも、社長の人となりを事前に知ることができるため、動画が必ず話題にあがり、公開するメリットは大きかったです。
――それはうれしいですね。企画を考える上で何か参考にされた映像作品はありますか。
嶺:大手総合商社のトップインタビューや大手自動車や大手化粧品企業の社長密着取材など、いろいろな動画をYouTubeで見て研究しました。特に参考になったのは一発撮りの方法で、カメラの動線やアングルなどを学びました。また、情熱に溢れたメッセージ作品は出演者である社長にも見てもらいました。新規の業務は経験による差がないことから、広報メンバーのアイデアが飛び交い、上下の立場なくチーム内で自由闊達な議論ができたのもよかったです。
絵コンテやシナリオは1~2カ月かけて準備。社長の想いを全て入れるためにじっくりと整理し、ストーリー性を持たせてテンポのいい流れをつくるのが非常に難しかったです。他に社長室のレイアウトや導線を考えたり、社長にはこんなポーズをとってほしいと写真に収めた誘導書を作ったり、遠慮のないお願いをずいぶんしましたね。そんなこんなで完成したら、5分に収める予定の動画が7分半になりました。時間が長くなってしまったことは少し反省しています(笑)。
――見る人に語りかけるような、社長の温かなお人柄が伝わるのは、そうしたご尽力があったからなのですね。
嶺:担当スタッフが、自分と会話しているようなカメラ目線が欲しいと、カメラマンと目線の高さや体の向きを何度もすり合わせました。社長にもプロンプターやカンペは一切用意せず、想いを伝えるために自らの言葉で語っていただくようにしています。もともとプレゼンが上手な社長なのですが、本番ではよりいっそう本気度が伝わり、「社員そして会社のために何としても成し遂げたい」という我々メンバーの想いも強まりました。少し上から目線ですみません(笑)。
より多くの人に動画を見てもらうために、他の事業部とのコミュニケーションも欠かせません。私も毎日、本支店長の何方かに電話をしますが、「社長が出ますから見てください」と言えば全員で見てもらえます。日頃から社内の人脈を構築することが非常に大切です。
――いろいろな努力をされていらっしゃるのですね。今年の1月には続編にあたる動画も制作されています。
『2024 NEWYEAR’S MESSAGE』冒頭
広報部員:小林さん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
今年はMUFGのValuesに“スピード”が加わり、併せて新たに中期経営計画が始まったりと、大切な年になりますね。
小林社長:おっしゃる通りですね。社員一人ひとりがMUFG WayのPurposeである「世界が進むチカラになる。」 この価値観を共有して前へ進むことが大事だと思います。
嶺:企業指針は繰り返し伝えないと、なかなか浸透・実践に至りません。初回は社長が社会人になってからのキャリアや目標を取り上げましたが、今回は“5つの行動指針”のもとにもなった、幼少期から学生時代までの価値観形成を探るもので、仕事に臨むうえで大切にしているマインドを社員に訴えかけています。実は、今回のメッセージは少し厳しい内容なのです。伝え方を間違えると一方的なトップダウンの印象を与えてしまうので、社長には「険しい表情をせずに、背景を含め、なぜ今これを発信するのか丁寧に説明してください」とお願いして撮ったものです。
プロフェッショナルのスキルを持った広報がICを担う
―― 他にはどんなものを制作されているのでしょうか。
嶺:4月から新たな中期経営計画が始まります。これまで、「当社のホームページや新聞を見るまで自社のニュースがわからない」という社員の不満があり、それを解消するため、新中期経営計画に関する動画を制作してステークホルダーの中でもいち早く社員に伝えました。全事業部の本部長に自身の言葉で目標を語ってもらうもので、初の完全内製企画です。チームメンバーがプロに学んでジンバル撮影のノウハウを習得し、編集ソフトも導入して研修を受けたことで、メンバー自身が字幕やBGMなども扱えるようになったので、今は旬な情報を新たな発想で機動的に作ってくれています。
また、グループ各社のさらなる協働促進を企図してトップ同士がビジネス対談するショート動画も作成しています。MUFGには銀行、信託、証券などさまざまな事業会社がありますが、異なる業種との連携を図るためにトップ同士がカジュアルにお酒を飲むシーンを取り入れて腹を割って対談する演出やMUFGの社長にも熱いメッセージを寄せてもらうなど、さまざまなチャレンジをしています。
動画制作も2年目に入り、効果的な発信を続けるために制作の年度計画を立てようとしています。また、社内ではTeamsのViva Learning(コンテンツライブラリを共有する機能)を使っており、ここに2分程度のショート動画などを短めのスパンで配信し、誰でもすぐに見られるようにして動画の社内情報媒体として普及させたいと思っています。とはいっても社員への着信が最も重要ですので、視聴数についてもKPIで目標管理をしていきたいですね。
―― なるほど。最後となりますが、インターナルコミュニケーション(IC)のこれからの可能性と、組織への貢献について、嶺さんのお考えをぜひ教えてください。
嶺:今はさまざまなツールがあり、ICの重要性もますます高まるだろうと予想しています。ジョブ型雇用の進展で雇用形態が多様化する中、経営戦略や事業戦略を社員に共感・共鳴されるようにいかに発信し、全役職員を同じ方向に導くかを考えるのがICの使命です。今は「世界が進むチカラになる。」というPurposeに向かって変革のサイクルを回しているところですが、広報も自社のことをよく知り、プロフェッショナルとしてスキルセットしていかなくてはなりません。以前、「社内報アワード」を受賞した大手飲料メーカーの企業の方とお話ししたとき、番記者のように現場を走り回っているとお聞きしましたが、我々も自社の方向性を理解するために、経営陣と話す機会を積極的にもらっています。最初は緊張しますが、役員の方々にICの重要性を認識してもらい、味方になってもらうと仕事がしやすくなります。そんな時間の中で、広報は経営の一部だという自覚を持ってチーム内で議論を重ね、さらに他部署とも連携してPurposeに向かっていくことが一番重要だと思っています。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券公式チャンネル
創刊:2022年10月
閲覧対象者:オープン
更新頻度:月1回程度
会社情報:https://www.sc.mufg.jp/index.html
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