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「新入社員の定着」に課題を絞り、徹底した目的思考でEX向上施策をやり切る (株式会社ベーシック)

「深掘り! ICP* Session」は、企業のICに対する取り組みを深掘りし、広く課題解決のヒントを探る企画です。今回はBtoB領域のWebマーケティング支援事業などを手掛ける株式会社ベーシック様にご登場いただき、同社が2020年以降に注力してきたEmployee Experience(EX)向上施策に迫ります。

EX向上のために今着手すべきことは何か——? ベーシックの人事広報部では徹底的に現状の課題と目指すゴールを洗い出し、「新入社員の定着」にフォーカス。その結果、具体的にどのような施策を実践しどんな成果を得たのか、チームの一人である長田さんにお話を伺いました。

*ICP(Internal Communication Producerの略。社内報をはじめとしたインターナルコミュニケーション施策を担当する方)

【Close up ICP】

株式会社ベーシック
コーポレート部門 人事広報部

長田 華凜さん
(おさだ・かりん/新卒でベーシックに入社し、フォーム作成管理サービス『formrun』のカスタマーサクセスを経験。2021年より人事広報部に所属し、事業広報・採用広報・社内広報と、広報機能全般を担当。2021年10月より、人事としてESにも注力し、社内オンボーディングの強化に取り組む)

【インタビュアー】

ヤフー株式会社
コーポレートコミュニケーション本部
コミュニケーション企画室 リーダー
髙橋 正興さん
(たかはし・まさおき/2014年からインターナルコミュニケーション担当として数々の大規模な社内イベントを実施。プロデューサー、ディレクター、シナリオライターの1人3役をこなす)

株式会社ベーシック

事業内容:SaaS、メディア
創業:2004年3月

企業がWebマーケティングを推進する上で直面する”知識・環境・人”不足の問題を解決するため3つの事業を展開するテクノロジーカンパニー。
従業員数:172人
URL:https://basicinc.jp

EX施策が十分でないフェーズはどこ?

長田さんが昨年のICP Sessionで発信した取り組み内容〈クリックして拡大〉
長田さんが昨年のICP Sessionで発信した取り組み内容〈クリックして拡大〉

 

髙橋:EXの向上を目指すにあたり、取り組む課題を「新入社員の定着」に絞った経緯を教えてください。

長田:ベーシックでは、「会社の成長と社員一人一人の働きがいが両立する状態」を目指しています。どんなにサービスの認知度が上がり業績が伸びたとしても、働く社員が疲弊していては、サステナブルな会社であるとは言えないからです。

 当社ではそれを実現するために重要な要素がEXであると考え、エンプロイージャーニーマップに基づいて課題の洗い出しと施策の設計を行いました。EX全体の流れを「入社」「オンボーディング」「配属」「業務」「育成」「評価」という6つのフェーズで整理し、それぞれ理想とする状態(状態ゴール)と既存の施策を書き出していったところ、コロナ禍以降は入り口である「入社」時の施策が十分ではないことが浮き彫りになったのです。

エンプロイージャーニーマップに基づいて課題の洗い出しと施策の設計を行った
エンプロイージャーニーマップにしてみると入社時にエンゲージメント向上施策を行えてないことに気づいた、とのこと

髙橋:なるほど。そもそも根本に、「サステナブルな会社であろう」とする経営意思があったのですね。以前はどのような流れで新入社員が加わっていたのでしょう?

長田:入社当日のオリエンテーションや研修、ランチ会などはもちろん行っていたのですが、それに加え「Welcome」と書かれた風船にメンバーで寄せ書きをして、オフィスに浮かばせることで新入社員を歓迎していました。

 コロナ禍でリモートワークが主流になってからも研修等は行っていますが、それらのオンボーディングに入る前の会社からのアクションは、新入社員の自宅にPCを発送するだけ。それもよくある茶色いダンボールにただPCが入っているだけで、これでは新たなメンバーを歓迎する気持ちが何も伝わらない……と、人事としても課題を感じていました。

「入社」フェーズの状態ゴールを設定し、施策のアイデアを練る

髙橋:課題を抽出した後、どのように具体的な施策を決定し、実施していったのか教えてください。

長田:「入社」フェーズの状態ゴールを、「新入社員が入社に向けてワクワクしている」「ベーシックから歓迎の意を感じている」の2つに設定しました。

 ただ、人事チームのメンバーは入社から少なくとも3年以上が経過しているメンバーで構成されており、フレッシュなメンバーの気持ちが必ずしもわかるとは限りません。そのため、新入社員が不安に感じること、入社前後の心理状態を少しでも正しく把握するため、直近に入社した新入社員10名ほどにヒアリングを行い、意見をもらったうえで施策のアイデアを詰めていきました。

新入社員定着のために実施した施策

 

● 歓迎の気持ちを伝える「Welcome Box」
新入社員が入社する際に会社支給のPCと合わせて、各種ノベルティ、面接を担当した社員からのメッセージレター、コンピテンシーを明記したカードなどを、オリジナルデザインのダンボールに入れて郵送。

「Welcome Box」に入ってくるノベルティ詰め合わせ
「Welcome Box」に入ってくるノベルティ詰め合わせ。オリジナルパッケージのミネラルドリンク、コースター、付箋、エコバッグなど

● 社内情報をまとめた「Welcomeサイト」
入社当日のスケジュールや、オリエンテーション資料、会社の組織体制図、コミュニケーションルール、オリジナルバーチャル背景、社内用語などを社内報にまとめ、新入社員が入社前にアクセス可能な状態にすることで、事前に社内カルチャーをより深くキャッチアップできるようにした。

 

● 早期に先輩社員と交流できる「9つのコミュニケーション機会」の用意
入社2ヶ月以内のコミュニケーション回数ができる限り多くなるよう、社長、同期、同年代などの9つのコミュニケーションの切り口を用意し、型化。

 

● 「コミュニケーション補助」の整備
上記ランチ代なども含めて社員同士が交流しやすくなるよう、広く使える補助(全社員1回2,000円×月5回まで)を出している。

髙橋:社員の皆さんには、どのようにヒアリングを行いましたか?

長田:Slackの個別DMで、一人一人に声をかけました。人事チームで「これは喜んでもらえるのではないか?」と話していたものの仮説を検証したかったため、「入社時にあったらいいもの」の選択肢に「Welcome Box」や「同期と話せる機会」などの具体的な施策を入れ、ためらうことなく率直にフィードバックできるよう、自由記述欄にはできるだけ具体例を記載しました。

 ヒアリングを行ったメンバーが質問に対して理由も含めストレートに回答してくれたので、新入社員のインサイトがより明確になったと思います。アイデアを具体化していくのにとても役立ちました。

社員の皆さんへのヒアリング(実際のアンケート)
社員の皆さんへのヒアリング(実際のアンケート)

オリジナルの「Welcome Box」で、歓迎の思いを伝える

髙橋:施策の一つである「Welcome Box」は、箱を開けた瞬間から「ベーシックへようこそ!」という歓迎の気持ちが伝わってきて素晴らしいですね。同梱されているノベルティやカードなどのクリエイティブへのこだわりからも、おもてなしの心と細やかな配慮を感じました。

長田:そうですね、ただ企業ロゴが入った何かを送付している訳ではありません。先述のヒアリングの結果、リモートワークの中での入社だと、組織の一員になったことを感じにくいということもわかっていました。そのため、ベーシックの一員として大事にしてほしい行動特性を記載したコンピテンシーカードや、面接を担当した社員からその新入社員に向けたメッセージカードを一緒に入れています。 

 また、配送用にオリジナルデザインのダンボールも制作したのですが、そのまま届けると配達時にベーシックの社員であることがわかってしまう可能性があります。個人情報を守る観点から、配送するときは、オリジナルダンボールをさらに無地のダンボールに入れています。

髙橋:ダンボール in ダンボール(笑)。きっちり詰まってる感を演出するために2センチずつ幅の違うダンボールを3タイプ制作したと言うのもこだわりですねぇ。実際に受け取った新入社員の方からは、どのような反応がありましたか?

長田「メッセージカードを見て入社前からモチベーションが上がった」「ノベルティにより、テレワークの中でも組織の一員になった実感が湧いた」など、ポジティブな反応をもらうことができています。今後もフィードバックをもらいながら、アップデートしていく予定です。

「Welcome Box」の説明を聞くほどに「これは、新入社員はうれしい!」と感心
「Welcome Box」の説明を聞くほどに「これは、新入社員はうれしい!」と感心しきり。このオリジナルダンボールを無地のダンボールに入れて配送

新入社員に必要&知りたい情報をまとめた「Welcome サイト」

髙橋:「Welcom Box」には、「Welcomeサイト」の案内が同梱されていますね。こちらのサイトも、長田さんが取り組まれた施策の一つですよね。新しくサイトを立ち上げたのですか?

長田:いえ、もともと私が運用していたWeb社内報の1コンテンツにしました。入社当日の動き方、研修資料、Slackのコミュニケーションルールなど、入社前に目を通してほしい内容の他、新入社員が戸惑いそうなことも付け足しました。戸惑いそうなことというのは、社内のコミュニケーションツールであるSlackのチャンネルが無数にあることや、社内用語、社員の呼び方(あだ名で呼んでいる)などです。Slackは主要チャンネルをまとめたものを用意し、社内用語の解説や全社員の自己紹介スライドも付けました。

髙橋:すでにイントラネットなどで公開されているとはいえ、入社して間もない社員が自分に関係する情報を集めようとすると、慣れないところを探し回る労力が意外とかかるんですよね。新入社員のインサイトを確実に捉え、丁寧なフォローがなされていると感じます。

人事が主導し、「同期入社」のつながりを生む機会を提供

髙橋:入社時に実施されている、社員同士のコミュニケーションを活発化するための取り組みについても教えてください。

長田中途入社の社員を対象にした、「同期ランチ」のセッティングを積極的に行っています。新卒入社で同期が何人もいる場合は関係性が築きやすいですが、中途入社の場合、そうした意識が薄くなりがちです。でも同時期の入社だからこそ、共通の悩みを抱えたりすることもあると思っています。そんなとき、同期同士のつながりがあった方が心強いですよね。

 新卒社員を対象に同様の施策を実施している例はよくあると思いますが、中途入社の社員は、すでに社会人経験があるので会社側からは特にコミュニケーションを支援しないケースが多いと思います。でも「新入社員の定着」を目指すなら、会社から機会を提供することも必要なのではないか、そもそも中途入社は自身でやれるだろうと任せてしまって、支援しないことは問題ではないか? という結論に達しました。

髙橋:確かにそうかもしれません。実際、同期ランチは有効活用されていますか?

長田:はい。最初は人事側でランチをセッティングしますが、その後、仲良くなってSlackで同期チャンネルを作ってやり取りしたり、毎月定例ランチをしたりしている社員もいるようです。

まずは人事側でランチをセッティング。その後は同期チャンネルを作ってやり取り
まずは人事側でランチをセッティング。その後はSlackで同期チャンネルを作ってやり取りするなどに発展するケースも

髙橋:ランチ会のセッティングまでするんですか! 金銭的な補助に加えてですよね?

長田リモートワークがメインになってからは、放っておくとどんどんコミュニケーションが希薄になってしまうため、社員同士でランチや飲み会に行くときに使える補助も出しています。対象は全社員で、1人1回2,000円×月5回までが上限です。同期ランチはもちろんのこと、社員同士でコミュニケーションを取るためなら使用できるので、コミュニケーション補助と、終業後であればアルコールを含めた飲み物を無料で飲める社内Barと組み合わせて利用している社員も多いです。

髙橋:コミュニケーション補助はいろいろな企業が行っていますが、1回2,000円が上限で月5回まで、という設定が非常に秀逸だと感じます。一人1万円を補助するとしても、単純に上1万円とだけ示すと月に1~2度飲みに行って終わりそうです。でも『1回2000円で5回まで』なら、シンプルにコミュニケーションの回数が上がります。『週に一度くらいはコミュニケーションしてほしい』という会社のメッセージが伝わります。やはりコミュニケーションは頻度も重要ですから。

長田:本当にそうだと思います。特に新入社員の場合、会社の中に居場所を作れるかどうか、馴染んでもらえるかどうかが、最初の3カ月で交わすコミュニケーションの回数にかかっていると思っています。

離職率は半減。サーベイ結果も順調に推移

髙橋:今回ご紹介いただいた新入社員定着の取り組みを実施して、どんな成果が得られましたか?

長田当初掲げたゴールである「新入社員が入社に向けてワクワクしている」「ベーシックから歓迎の意を感じている」は、概ね達成できていると思います。現在、社員のコンディションを確認する全社アンケートを月次で行っているのですが、EXに関連が深い項目である「働きがい」や「共闘実感」も高い数値を維持できています。また定量的に見ても、創業以来、離職率は最も低い水準となりました。

「働きがい」「離職率」を調査すると、本取り組みの効果が感じられる結果に
「働きがい」「離職率」を調査すると、本取り組みの効果が感じられる結果に

髙橋:今後はどのように取り組んでいく予定ですか?

長田:代表の秋山はよく「プロかプロになりたい人にとって良い会社でありたい」という話をしています。大きな成果を残し続けている社員がより働きがいを感じ、居心地が良いと感じてもらうためにはどうすれば良いか、を考えて、そのために必要な施策を今後も講じていく予定です。それにより、さらなる「事業成長と働きがいの両立」の実現をしていきます。

髙橋:とても具体的でわかりやすく、ナレッジ共有として有効な施策だと、改めて思いました。貴重なお話をありがとうございました。

 

〈取材後記〉
深掘りして分かった

「長田さんの取り組み、ココがすごい!」

①判定しやすいメソッドで課題を発見する力
エンプロイージャーニーマップ上でフェーズごとの「施策の充実度」を比較して、手薄なところを対象にするというのは判定しやすく、結論を導きやすい課題発見手法ですね。

②「神は細部に宿る」、細かいところの心配り
ミニヒアリングをするときにもクローズドクエスチョンとオープンクエスチョンの両方を用意して答えやすくしたり、Welcome Box配送のために2cmだけサイズの違うダンボールを特注して余分な隙間のないピッタリサイズに仕上げたりと、細やかな心遣いが人の心を開かせる。

③もう一歩の踏み込みで成果を大きく
コミュニケーション補助を単なる「補助金支給」だけにとどめず、初回はセッティングまでしてあげたり、コミュニケーション頻度を高めるルールにしたりするなど、「もう一歩の踏み込み」まですることで、より大きな成果につなげている。

的を絞りこんで、狙ったところに深く届けるコミュニケーション

 

 

 


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