社内報制作に携わるようになり久しいですが、これまで、社内報に純広告が掲載されるという事例を見たことがありませんでした。社内限定が基本の社内報は広告出稿のニーズがないのかと思うと、そういうわけでもなく、読者層が絞られている社内報の特徴に出稿の価値を感じるクライアントはいて、「企業文化、社風、読者傾向が明確な社内報は、出稿側からすると効果を見込みやすい」という考えを耳にしたこともあります。
今後、「社内報に純広告掲載」はどのような展開を見せるのでしょうか? 社内報発行側と広告代理店に取材を試みました。
社内報に純広告掲載!?
5年以上前のことですが、ある広告代理店さんから、次のような問い合わせをいただいたことがありました。
「社内報に純広告を掲載している企業さんを知りませんか?」
当初は、「グループ報で、グループ内企業が、グループ企業従業員を対象にしたサービスを紹介する広告」は見たことがありましたが、純広告(広告を出したい企業が、特定のメディアの広告枠を買い取り、掲載する広告)は見たことがなく、そのようにお答えしたことを覚えています。
それが昨年、h4(裏表紙)に純広告を掲載している社内報を発見。半信半疑で確認したところ、紛れもなく純広告でした。社内報に純広告。どんな経緯で? 出稿料はどうなっている? など興味津々で取材を申し込むとOKとのお返事をいただきました。
その企業は、マーケティングリサーチやデジタルマーケティングソリューションでおなじみの、株式会社マクロミル。広報・ブランドマネジメント部 ブランドマネジメントユニットのマネジャーで、社内報『ミルコミ』の編集長である下瀬貴子さんがお話ししてくださいました。
「雑誌っぽく」するために広告を掲載。目的は?
マクロミルは、インターナルコミュニケーションの先進企業。社内報『ミルコミ』は「社内報アワード」でゴールド賞を何度も受賞し、そのたびに創造的かつ目的の達成度が高い企画に驚かされてきました。数年前に『ミルコミ』はオープン化され、オープン社内報の特集でもご紹介したのですが、その編集をしているときに、h4に純広告を見つけたのでした。
「マクロミルは2000年に創業し、2002年から『ミルコミ』を発行し始めました。社内報を社外にも公開し始めたのは、創業20周年を迎えた2020年からです。背景には、周年イヤーに掲げたスローガン『BORDERLESS ~突き抜けよう~』があります。これは会社として『もっと自由に、枠にとらわれず、成長し続けたい』という思いから掲げたもので、広報としても『これからは社外に対してもっと開かれたコミュニケーションを行っていきたい。社内報は社内という枠(ボーダー)を超えよう!』という考えから、社外公開に踏み切りました。社外公開を決断したのは、もちろんこのスローガンがあったからだけではなく、今後の社内広報の在り方を考える上で、コンテンツを社内限定にし続けることの難しさや勿体なさを感じていたというのも前提にあります。
社外公開にあたり読者層がより広がることを想定し、マクロミルに親しみを感じてもらえるよう、全体のデザインをカジュアルに刷新しました。その際、『せっかく社外に公開するのであれば、良い意味で既存の社内報らしくない、市販の雑誌に近いクオリティを追求したい』と思い、その一環でh4に純広告の掲載を始めたんです」
それまでの「社内報アワード」の応募企画も、社内報の常識を打ち破る斬新な企画ばかりでインパクトがありました。それを「雑誌っぽく」するねらいは何だったのでしょうか。
「一つは、『他社の社内報がまだやっていない取り組みをやってみるのはどうか』というチャレンジです。市販の雑誌は、基本的にh4が純広告ですよね。一方、社内報でh4に広告が掲載されている事例を、それまで見聞きしたことがありませんでした。
二点目は、市販の雑誌と遜色ないぐらいの高いクオリティにすることで、得られる効果があるはずと思ったからです。社外公開前の2016年ごろから、社内広報として社員のエンゲージメント向上を目指す中で、『社員にしっかり読んでもらえる社内報をつくりたい』と強く考えていました。社員は、日常的にクオリティの高い雑誌やWebサイトに触れているため、社内報も同等のクオリティでないと目を通してもらえないのでは?と思いました」
エンゲージメントを高めるための施策
雑誌っぽくするというのは、閲読率を上げるための施策の一つということですね。
「はい。それともう一つ大切な理由があります。実はh4の広告は、純広告ではありますが弊社のお取引先の広告限定で、出稿料はいただいておりません。なぜ無料で広告を掲載させていただくかというと、それが社員のエンゲージメントの向上に寄与すると考えているからです。リサーチをはじめ、お客様のマーケティングをご支援するマクロミルは、あらゆる業界の企業とお取引させていただいています。それゆえ、社内の組織で事業部が異なると、他部門の取引事例を知らないというケースが生まれがちです。純広告を掲載することで、社員が『うちの会社はこの企業様のこの商品にも携わっているんだ』と知ることで、自社の事業に対する誇りを感じるきっかけづくりを狙っています」
この狙いがわかるのが、h4広告内に明記されている「〇〇会社様の〇〇(商品名)はマクロミルのリサーチサービスを利用されています」という一文。『ミルコミ』の判型であるA4判の純広告をお客様のご許可を得て、サイズを少しだけ調整し、この文言を必ず入れ込んでいるのですが、社内報に純広告という珍しさのためかこの一文に気付く読者は多く、特に浸透活動をせずとも、社内において「お取引先の純広告」という認知度は高いそうです。
「自分が担当しているお客様の広告が載ると、そのお客様の案件に関わった社員が喜んでくれます。営業担当から『お客様にも喜んでいただけました』『お客様とのコミュニケーションのきっかけになりました』という声が届くこともあり、こちらもうれしい限りです」
オープン社内報ということは、社員ではない方々もご覧になることになり、つまり社会に広く訴求できるということですよね。将来的に、正真正銘の純広告を掲載する可能性はありそうですか?
「そうですね……。そうなると、今まで得られていた効果――自社の事業に対する誇り・エンゲージメントの醸成や、営業によるお客様のフォローなど――が得られにくくなるような気がします。何のためにh4に純広告を掲載しているのか、という目的を考えると、出稿料をいただいて自社事業と関係ない純広告の掲載は、マクロミルの場合ですと難しいかと考えています」
広告を出稿する側の考えは?
では、広告を出稿する側はどう考えるのでしょうか。広告代理店の株式会社産經アドス 事業開発担当の納 幸一郎さんに伺ってみたところ、読者数が多い、あるいはオープンの社内報は、「広告媒体としては魅力あるものになる可能性がある」とのことでした。
「お取引先になる見込みのある企業の社内報に広告を出したいというクライアントは潜在的には多いと思われます。純広告だけではなく、タイアップ企画(インタビュー形式や取材形式など)のような踏み込んだ広告にできれば、読者の理解度が深まり、問い合わせにつながる可能性が高くなります」
いよいよ社内報に広告出稿という時代が到来か!? ……と考えるのは気が早く、ネックとなる要素もあるようです。
「出稿するならば、その準備をしなければなりません。出稿する側からすると、判型や表記などのレギュレーションが統一されていると便利ですが、逆にこれが複雑な場合は、手間やリスクが増えてしまいます。社内報は、企業によって判型が異なったり、イレギュラーな判型を採用しているケースもあったりしますよね。それから、社内報に掲載する広告の審査をどうするかも大きな課題です。それらを考えると、『どんどん積極的に』とはいかないかもしれません」
これから先、広告出稿の可能性は……
今回、「社内報に広告掲載」について取材したことで、社内報発行企業側は目的設計をしっかり検討したうえで純広告の掲載を考える必要があり、出稿する側は社内報という媒体に魅力を感じつつもハードルがある、ということがわかりました。
「社内報に広告が掲載されるようになったら、社内報で売り上げが立つことになる。ご担当者のモチベーションがUPしたり、インターナルコミュニケーション施策の予算取りがしやすくなったりするのでは?」と想像してみたりしましたが、その展開の兆しはまだ見えません。そういう日がいずれやってくるのか、それとも来ないのか? インターナルコミュニケーションがどう変化・進化するのかによって、その答えは変わっていくのかもしれません。
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