社内報ご担当者が集い、情報交換をする「社内報コミュ」(株式会社ベーシック 経営企画部 広報グループの鈴木 諒さんが運営をするコミュニティ)のオンラインイベント「社内報のすべてを知ろうじゃないか」に、弊社代表の浪木が、社内報総合研究所 所長として登壇しました。
「社内報についてネットで調べても、知りたい情報にはなかなか出会えない!」という社内報ご担当者に代わり、進行役の鈴木さんが質問を投げかけ、浪木が返していったこのイベントの様子をレポート。社内報ご担当者が聞きたいことと、その答えがわかります!
【ファシリテーター】
鈴木 諒さん
株式会社ベーシック 経営企画部
2020年6月より人事から広報へ異動し、現在は全社広報と社内広報を担当。同社の社内報『b-ridge』編集長に就任すると同時に、企業の垣根を超えた社内報担当者のコミュニティを立ち上げ、情報交換やモチベーションアップに寄与する取り組みを実施。社内報全体の認知度向上、レベルアップに努めている。
メジャーな社内報の媒体、ホントのところは何?
――よく「社内報は紙かWebか」という話が出ますが、実際のところ、社内報で一番メジャーな媒体は何ですか?
浪木 今、これについて大きな変化が起きています。何が起きているのか、詳しくはこちらをご覧ください。
―― 9カ月間に大きな入れ替わりが起きて、次年度はついにWebがメジャーになるんですね。逆に、「Webから紙へ移行」「Webのみだったが紙を併用するようになった」という企業もありますか?
浪木 あります。例えば、昨年の「社内報アワード」でゴールド賞に輝いたANA様。かつてはWeb社内報しかなかったのですが、若手が見に行かない・見に行けないという状態に陥りました。グループ企業の中には、整備や販売などの業務に就く方もいて、会社貸与のPCを全員が持っているわけではなかったためです。
そこで、到達度を重視して、紙の社内報を創刊しました。終身雇用が崩壊し、転職は当たり前の時代となった今は、会社に対してのロイヤルティが低くなりがちです。ANA様はこの点を考慮して、紙の社内報を創刊するにあたり、若手に受けが良いタブロイド判*にし、デザインも若手を意識した作りにしています。 *タブロイド判:新聞用紙の半分のサイズの冊子・情報誌のこと。
―― 社内報コミュでよく聞かれるのは、社内報の効果測定、メンバーの巻き込み方です。効果測定について、紙の場合とWebの場合、どうやって行っている企業が多いですか?
浪木 実は、紙・Web問わず、約半数の企業は、効果測定をしていません。実施している残り半分は、毎月や年に1回など、頻度は企業によりけりです。
紙の社内報の効果測定は、発行した号に対する読者アンケートの形式が多いですね。アンケート対象は、全員、モニター限定とさまざまです。内容は、「今号の特集記事はどうでしたか」「連載の企画はどうでしたか」「一番印象に残った企画は?」といった、中身についての問いが主で、その満足度をKPIにする企業が多いです。
Webの場合は、UU(ユニークユーザー数)やPVをKPIにする企業が多く、中には記事のUP数を用いる企業もあります。
―― 弊社も含めて、皆さんそんな感じのようです。
浪木 それでも悪くはないのですが……、社内報がもたらす効果を測定するのは、なかなか難しいことです。そもそも、なぜ社内報を発行しているのでしょう? この問いに明確に答えられることが、本当の意味での効果測定のスタートになると、私は考えています。KPIは、この目的に沿って設定されるべきだからです。
例えば、ある会社で、「新しい中期経営計画(以下、中計)ができた。社内報でこの浸透を図ろう」という目的を設定したとします。それなら、その中計がどのくらい社内で理解されているかをKPIに置き、半期に一度のアンケートで効果を見ていく……というように、目的に沿って、その進捗度合いをアンケート結果で測るのが重要なのですが、実行できている会社は世の中の5%程度ではないでしょうか。
―― 「メンバーの巻き込み方」はいかがでしょう? 運営体制はどうやって作っていくのが良いですか。
浪木 一番巻き込むべきは、経営者です。これができれば、社内報はゴール(目的)に向かって大きく前進します。社内報の発行目的をきちんと説明し、その効果をしっかり伝えて、経営側に協力を仰ぎましょう。
社内の巻き込み方は、例えば、「新しい人事制度ができたら社内報で周知できますよ」と人事部を、「新しい商品ができた? それなら社内報で従業員に浸透させましょう」と商品開発部を、というように、それぞれの事業部にとって社内報がどれだけ役に立つかをアピールすることが、効果的です。
―― 社内報の発行目的をしっかり設定することが、経営者の巻き込みの成功につながるのですね。ただ、その目的設定に悩む声も、実は多いんです。
浪木 社内報の目的設計が緻密にできる人は、あまりいないと思います。なぜなら、その手法がこれまでなかったからです。「理念の浸透」「仕事のナレッジ共有」「若手の離職防止のために」など、それらしい言葉を掲げてみても、自社に本当に必要な発行目的を、具体的にどういう観点から設定すればいいのか、誰もわからなかったんですよね。
そこで、弊社では状況を整理して答えを導き出す手法を考えました。タイトルは仰々しいですが、平たく言えば、社内報の発行目的の決め方です。
図に書かれている通り、「組織課題の抽出」には「ライフイベントの整理」と「従業員満足度調査」があります。人には成人式や社会人デビュー、結婚、転職といった、人生の節目となるようなライフイベントがあり、これは自分がいる環境が変化する、言い換えれば自分を変革しないといけないタイミングです。
企業にも同様にライフイベントがあります。それを次の図にある9つに整理してみました。
「従業員満足度調査」で見えてくる結果は、組織の課題です。若年層の離職率が高いとか事業部のヨコの連携が進まないとか、経営と現場の乖離があるとか、理念・ビジョン・戦略の浸透がうまくいっていないといった、会社が抱えている課題を明確にします。
「経営環境考察」は、「企業の取り組み課題や社会のトレンド」と「トップメッセージ」です。
「企業の取り組み課題や社会のトレンド」は、会社を運営していく中で、社会に適合するためにさまざまな取り組みをしていきますが、その中で出てくるキーワード、例えばイノベーション、リモートワーク、女性活躍支援などを書き出して、自社がその期に取り組むべきものを、優先順位が高いものから選んでいきます。
そして最後に「トップメッセージ」です。これは皆さんの会社の社長が何を発信しているかです。自社の社長が社員に対して繰り返し伝えているメッセージは何でしょう?
この4つを書き出して、特に優先順位が高いものを絞り込んでいくと、ほぼ抜け漏れなく、発行目的が設定できます。これをもとに年間の企画を組み立てることもできます。
―― 広報とか社内報という枠を超えて、“会社全体”ということをしっかりと認識して取り組まないといけないということでしょうか。社内報って、奥が深い……。
浪木 そうなんです! 単純に「社内報を出す」という仕事ではなくて、会社全体を俯瞰しながら、「自社の課題はどこにあるんだろう」とか、「うちの会社は今どのようなライフイベントを迎えている?」といったことを考えるようになるので、社内報に関わる皆さんは、自然と視界が高まるのです。本当に素晴らしい仕事です。
社内報を創刊したい人が乗り越えるべきハードル
―― 社内報コミュで「社内報を始めたいけれど、何から手を付ければいいのかわからない」という声がよく挙がります。
浪木 ゼロから始める際は、広報など社内報を管掌する部署で手を挙げる場合と、上から命じられる場合があります。
前者は、決裁を通すため、自社が抱える課題を明確にし、その課題解決に社内報が効果的であるときちんと説明し、「なぜ社内報が必要なのか」への理解を得る必要があります。このとき、上司が味方となり経営層に口添えしてくれると、話が進みやすくなります。
晴れてOKが出たら、創刊までは下記のような流れになります。
社内報創刊の手順
- 発行目的を決める
これをしっかりと! - 編集方針を決める
〈例〉「必ず現場を取材し、生の声を反映する」 - 発行頻度やボリュームを考える
発行目的を満たすには、紙なら年何回、何ページで発行すべき?Webならどんなシステムを使うべき? - 年間の企画・コンテンツ計画
発行目的に沿ったコンテンツを考える - 編集作業(その企画・コンテンツを実施するための具体的アクション)
どこの事業部に話を聞きに行く?
社外からの自社の評価で取引先に取材する?
これと並行して、外部セミナーなどで情報収集するのもお勧めです。弊社も月に2回、社内報の無料セミナーを開催しています。ぜひご活用ください。この社内報コミュのように社内報ご担当者の集まる場で相談するのもいいでしょう。
―― 広報や人事といったバックオフィスのメンバーは社内報が必要と確信していても、事業寄りの考えの経営陣が多く「社内報なんて意味あるの?」との意見が大半の場合は……?
浪木 正直、難しいですね。社内報運営はコストがかかるので、トップが首を縦に振らないまま進めることはできません。社内報の効果は、中長期で少しずつじわじわと、その会社の風土や文化を作っていくことで現れます。その風土や文化が強みになっていくからこそ、社内報は必要なのですが、短期的で目に見える効果は伝えづらく、それゆえ経営層を説得するハードルが高いのが現実です。
―― 費用対効果が見えづらいという点で、予算組みも難しいですよね。
浪木 予算をかけずに、社内の有志だけで集まって社内報を作る方法もないわけではありません。新入社員研修で、「自分たちの会社を知るために、社内報を作る」という課題を出し、出来上がったものを配るとか。これを見た社員から「いいじゃない! 次はいつ出るの?」という声がたくさん集まれば、正式発行への道筋が開けるかもしれません。
―― 確かに!経営陣が難色を示したとしても、メンバーで盛り上がって、「社内報っていいよね」いう雰囲気を作り、実現させる可能性はありそうですね。
ところで、社内報を始めるにあたって、「絶対にやってはいけない」「これをやると後々壁にぶつかり失敗する」といった注意事項はありますか?
浪木 発行目的を明確にしないのは、絶対にダメです。発行目的があやふやなまま始めると、なかなか企画が決まらない、読者の反響が悪い、担当メンバー間がギクシャクするなど、迷走しがちです。
―― とにもかくにも「発行目的が大事」ということですね。弊社も多忙のときは、記事を書くという目の前のことばかりに意識が向きがちなので、改めて目的に立ち返ることを意識しようと思います。
浪木 発行サイクルに追い立てられて、発行することが目的になってしまうと、作っていても面白くないですよね。目的を常に意識し、「この企画から読者が何を感じ、会社がどう変わっていくかな」と想像して、ワクワクしながら取り組むと、すごく楽しくなると思いますよ。
これから社内報はどこに向かっていくのか?
―― コロナ禍で社内報の重要性が高まっているという声も聞きます。最近は動画や音声の社内報も増えているとか。これから社内報は、どう変化していくとお考えですか?
浪木 コロナにより企業は変革を迫られ、従業員の間には不安が広がっています。その一つが働き方。リモートワークできる職種とできない職種があるなど、働き方の多様化・複雑化が進む中で、従業員とのエンゲージメントをどう高めていくのかは、企業の大きなテーマであり、社内報のミッションでもあります。
この前提を踏まえ、2つのことが考えられます。
1つは、有効な社内報ツールと、今までは有効だったけれども厳しくなるものが出てくるということ。社内報のツールは、紙、Web、デジタル、対面型のリアルイベントと、大きく4つに分けられますが、テレワークで紙のデリバリーは難しくなり、デジタルサイネージや社内テレビ放送も見られなくなり、ツールとしての効果は弱まっています。リアルイベントも感染防止のため中止が相次いでいます。逆に、社内SNS、一斉メール、Web・アプリ社内報、動画配信などは、コロナ禍においても有効です。
2つめは、Web社内報も大きく変わっているということです。次年度は、今まで主流だったPDFは半数以下に落ち、CMSなどが主流になってきます。動画のプラットフォームも増えます。つまり、今後は、ICTを使ったツールが多様化する、ということです。
音声社内報、つまりラジオもその一つ。ラジオなら、取材されても姿が映りませんよね。それゆえリラックスして取材を受けてもらえ、つい本音が漏れたりして素のキャラクターを伝えられるというメリットが、ラジオ社内報にはあります。
―― 社内報自体の会社における立ち位置は、今後変わっていくと思いますか?
浪木 1980年代、日本で一番多かった業種は製造業でしたが、2000年になるとサービス業が主流となりました。サービス業は、人が介在して価値を発揮する業種ゆえに、働いている人のモチベーションで生産性が大きく変化します。
会社の価値向上を継続していくには、従業員が会社に愛着を持ち、モチベーション高く仕事をすることが、非常に大事なテーマとなります。なぜなら、これが会社の競争力の原点であり、ここが強い会社が伸びていくからです。それに寄与していくのがインターナルコミュニケーションであり、社内報なのです。
ということから、ウィズ・コロナ、アフター・コロナの時代には、インターナルコミュニケーションや社内報の重要性は、さらに高まっていっていくと考えています。
―― なんだか、社内報担当者は責任重大ですね……。
浪木 重責に思うことはありません。社内報を作る一番簡単な方法は、自分の会社を大好きになることです。恋愛と同じく、とにかく自分の会社のことをたくさん知って、とことん好きになる。
私は、社内報を作る皆さんのことを「インターナルコミュニケーションプロデューサー」と呼んでいます。トップや現場、お客様といろいろな人を巻き込みながら、社内報全体をプロデュースして、企業価値を高めていくという、本当に素晴らしい仕事です。悩みも多いと思いますが、心から応援しています!
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