Twitterをやっている社内報ご担当者なら、「おくだ@ベーシック広報」というアカウントをご存知の方は多いのではないでしょうか。
マーケターに役立つ情報サイト「ferret」でおなじみの株式会社ベーシック 広報グループ部に所属する、奥田 陽子さん。奥田さんが作品配信サイト「note」に掲載した『9割の社員に読まれる社内報の育て方』は大きな反響を呼びました。
確かに、9割とは驚きの閲読率! しかし本当にすごいのは、この社内報は経営戦略に直結したもので、確かな成果を生み出していることなのでした。
目次
創刊3カ月で頓挫しかけた、会社初の社内報
株式会社ベーシックがWeb社内報『b-ridge』(ブリッジ)を創刊したのは、2018年8月のこと。創刊までの準備期間は4カ月。この間、ゴールやコンセプトデザイン、サイトデザインなどについて議論を重ね、満を持してのスタートを切りました。
しかし、ふたを開けてみると、定例会議に担当メンバーが集まらない、締め切り日までに記事が上がってこないなど、何もかもがうまく運びません。稼働するメンバーに偏りが生まれはじめ、チームはぎくしゃくした雰囲気に。
そんなときに登場したのが、奥田さんでした。インサイドセールスから広報グループに異動し、いきなり2代目編集長に就任したのが同年11月。初めての社内報担当でいきなり編集長、しかもなんだか不穏な空気という不安な状況の中で、申し送りされた業務に邁進しようと努めましたが……
「まったくうまくいきませんでした。当時、社内報担当メンバーはボランティア参加だったため、本来の業務優先で、更新ペースは不安定。メンバーのモチベーションもバラバラだったから、当然と言えば当然です」
創刊時とメンバーが入れ替わったことで発行目的もあいまいになり、「何のためにやっているんだろう」「なんで編集長を引き受けてしまったのか」「時間をかけている割に手ごたえゼロ」と、当時はマイナス思考ばかりがぐるぐるとめぐっていたそうです。
継続の是非を問われて、辿りついた答え
その一方で、読者側だった頃から、社内報には大きな価値があると感じていたとのこと。
「インサイドセールスをしていると営業の人としか関わりがありませんが、社内報で社内の誰かの存在を知り、仕事内容や人柄、仕事への姿勢を学ぶことができ、『これは重要なツールだ』と思っていました。それなのに、うまく回らない。本当に、悔しくてたまりませんでした」
そんな状況で3カ月が経った2019年2月、奥田編集長は経営陣から「社内報継続の是非」を問われることになります。
「本当に悩みましたね。うまくいかない原因、成果を出す方法、そもそも成果とは何なのか? 何のために社内報を発行するのか? そんなことをずっと考え続けていました」
そうして辿りついた答えは、「継続する」でした。なぜこの結論に至ったのでしょう?
「好きなタイミングで読めるWeb社内報はアクセシビリティが高く、工夫次第で社員を巻き込めるツールです。発行目的を明確にし、しっかりとした仕組みで運用すれば、社内の有効なコミュニケーションになるはず。その結果、会社の成長につながる、つまり、社内報は絶対に会社を強くするツールになると考えたのです」
社内報を、「経営課題を解決するツール」にする!
社内報継続を決意した奥田さんの強力なサポーターとなったのが、経営企画部 管掌役員で社内報グループのマネジメントを担う角田 剛史さんでした。
「奥田の決意に賛同したのは、彼女が目指す社内報が、経営戦略的に必要と判断したからです。社内報を『経営課題を解決するためのツール』ととらえ、わが社の現状に基づき、3つの課題を洗い出して、それを発行目的としました」
株式会社ベーシックにおける、社内報で解決すべき3つの経営課題
- 社内情報共有
制度や事業、人についての理解促進 - 社内活性化
社内メンバーとのコミュニケーションのきっかけづくり - 社内行動規範(コンピテンシー)の強化・浸透
社内に掲げる行動規範の強化・浸透
「社内報を経営課題に紐づけて運用する」ことをベースに、角田さんと奥田さんは徹底的に議論を重ねました。
前述した発行目的の再設定のほかに、記事更新を安定させる体制づくり、その実行策としての社内報制作の業務化(ミッション化)といった運用方法を固め、経営陣に交渉。見事、合意を得ることに成功しました。
社内報制作におけるボランティア問題は、多くの企業が抱える悩みであり、業務化できないことが担当者の負担増・制作の滞りを生み出しています。ベーシックではなぜ、業務化が認められたのでしょうか。角田さんが当時を振り返ります。
「『経営課題を解決する社内報』を実現するためには、ボランティアではコミットが弱い、業務として取り組むべきだ、という思いが強かったので、経営層にこの点を訴求しました。ちょうど評価制度の見直しが行われていた時期で、タイミングが良かったということもあります」
課題解決力を秘めたメンバーを結集 & 型づくりに着手
経営陣からGOサインが出ると、角田さんと奥田さんはすぐさま具体的な体制づくりに乗り出しました。
「まずはメンバー集めでした。社内報で解決すべき課題を踏まえ、社内規範意識の高い社員をできるだけ幅広い部署から集めようと人選し、新たに6名を迎え入れました」(角田さん)
「業務化されたおかげで、みんな高いモチベーションで引き受けてくれました! ほぼ全ての部署からメンバーを出してもらえたことで、情報の偏りがなくなり、全社員が関心を持つ情報を発信できるようにもなりました」(奥田さん)
同時に、記事更新の滞り防止策として、「型づくり」を行ったとのこと。
型とは、言うなれば、社内報発行の目的・ゴールに沿って設計されたコンテンツ・メニュー。記事作成の指針であり、ヒントにもなるため、ゴールから逸脱した記事になることがありません。
何より、執筆者が「何を書けばいいのかわからない!」というストレスから解放され、結果的にスムーズな運用ができるようになります。
『b-ridge』の型
(出典:奥田さんのnote『社内報は会社を変えうるコミュニケーション手段だという話』)
こうして、2019年3月、新体制での『b-ridge』がリリースされました。
社内活性化現象が、企業の認知度UP・ブランド醸成に発展
新体制でリニューアルした『b-ridge』は、発行後1カ月でUU数が前月のなんと2.5倍に! その後も高水準を保ち、それまでの経緯をつづった奥田さんのnote『9割の社員に読まれる社内報の育て方』は、世の社内報担当者の注目を集めることとなりました。
なぜ、発行1カ月でこれほどまでの効果を出せたのか? その答えは、発行目的の明確化や体制づくりに加えて、「読者を引きつける仕掛け」が功を奏したからと言えそうです。
例えば、記事のタイトル。マーケッター向けメディア「ferret」を運営する企業ならではのこだわりで、タイトルは「クリックさせるパワーがあるか」を徹底的に吟味し、編集メンバーの半数がOKを出さなければ、公開できないという掟を作りました。また、公開後は執筆者が社内チャットで速やかにお知らせします。
「これは書き手だからこそ発せられる『読んでくれ!』という熱い想いで、執筆者本人が投稿するのがルールです。
Web社内報というと速報性が重視されますが、速いだけで『発行しました』『○○を紹介しています』といった単なる『お知らせ』では、読者の反応は期待できません。そして、読まれなければ発行目的も達成できません。目的を達成するための入り口として、タイトルにはこだわっています」(奥田さん)
新装した社内報。前月比のUU数2.5倍。その変化がもたらしたこと―――。
「SNSに『うちの会社の社内報、おもしろい』と投稿する社員、『社内報の記事を書くの楽しい♪』とつぶやく社内報編集メンバーが続々と現れ、それを見た別の社員がリアクションする、という社内活性化現象が日常的に見られるようになりました。もちろん、すべて自発的に、です」(奥田さん)
社内活性化を狙って、時には社内報メンバーでブームを仕掛けることもあるそうで
「社内にある青壁を『あおかベーシック』と名づけて、Twitterのアイコンの背景にするよう社内報で働きかけたら、たくさんの社員が乗ってくれて、社員のアイコンに統一感が生まれました。
この現象は『B to B企業におけるTwitter活用方法の好事例』として外部メディアで紹介され、わが社の認知度向上、ブランド醸成につながりました」(奥田さん)
「3つの経営課題の中の『情報共有』は、社内でもまだ認知が低い情報、例えば業務内容がわかりづらい部署の紹介や、活用してほしい制度などを記事化して発信し、周知を図っています。
『社内活性化』は、奥田の話の通り、順調に進んでいます。
残る『社内行動規範(コンピテンシー)の浸透』は、ほかの2項目よりハードルが高いのですが、例えばMVP受賞者インタビューを読んだ社員が、『受賞者はこういう思考で仕事に取り組んでいるのか』という気付きを得られるよう、PDCAを回しながら進化させています」(角田さん)
つくる側も読む側も幸せになる社内報が、企業を強くする
かつての停滞ムードから一変、社員が変わっていく様子を肌で感じているという奥田さん。
「社内で、コンピテンシーの単語が会話の中に普通に出てくるようになってきて、『経営方針が確実に浸透しているな。やっぱり社内報は会社を強く変えることができるんだ!』と、手ごたえを感じています。
何より、編集メンバーが社内報制作を楽しんでくれている様子が、うれしいです!」
笑顔でそう話すと、角田さんも
「運営側が楽しむというのはとても大切なことで、だからこそ、読者側が引き込まれ、効果を生み出すのです。この功績が認められ、社内報グループはMVG(Most Valuable Group)を受賞しました。
運営側も、読者である社員も、会社が楽しいに越したことはありません。双方が幸せになる社内報を作れば、会社はおのずと強くなるのだ、ということを、リニューアル以後、実感しています」
「うまくいかない」と悩む社内報編集者の皆さんへ
最後に、廃刊の危機から見事に復活を遂げた奥田編集長のメッセージをご紹介します。
「運営側が社内報の価値をしっかり理解し、信念をもって取り組めば、上司や読者に必ず伝わるのだということが、この約1年間の経験でわかりました。
今、社内報がうまくいかずに悩んでいる方は、まずは自分の中で『自社にとって社内報とは何を成すものなのか』を明確にして、その達成を目指した仕組みづくりを考えてみてはいかがでしょうか。
悩む中できっと答えは見つかり、信念が協力者を呼び寄せ、状況が好転し始めると思います」
残念なことに、「社内報は会社が求める成果とは直結しない」「経費をかけるだけムダ」と考える企業が、未だ存在しています。しかし、『b-ridge』の事例は、社内報が経営戦略に有益なツールであることを物語っています。
経営課題の解決を発行目的に据え、その目的達成のための体制づくり・仕掛けづくりをしっかりと行い、その結果、目覚ましい変革をもたらした『b-ridge』。
インターナルコミュニケーションを重視する今の時代になってもまだ「社内報はムダ」との意見が出たとき、『b-ridge』の事例は、有効な説得材料となることでしょう。
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Web社内報 『b-ridge』
創刊:2018年
更新サイクル:週に2回 - 会社情報
URL: https://basicinc.jp/
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