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【経営とIC】「やり方」は変わっても、「あり方」は変わらない。社内報でつなぐ組織の原点

― 山下PMCのインターナルコミュニケーションが育む、人と組織のこれから ― 

株式会社山下PMC 代表取締役社長
丸山 優子(まるやま・ゆうこ)さん
株式会社山下PMC代表取締役社長。1988年日本女子大学卒。大手建設会社、不動産デベロッパーを経て、2009年に山下ピー・エム・コンサルタンツ(現・山下PMC)入社。2022年より現職。一級建築士、認定コンストラクション・マネージャー、宅地建物取引士。2023年よりグッドデザイン賞審査員。 
(山下PMCコーポレートサイト:https://www.ypmc.co.jp/)

 

建築プロジェクトにおける発注者支援を専門とする山下PMC。
業界の草分けとして多数の大型案件に携わる一方で、社内のつながりづくりにも独自の工夫を重ねています。コロナ禍を機にスタートしたWeb社内報「YPark」は、いまや“人と組織の原点”を支える存在に。

今回は代表取締役社長の丸山 優子さんに、社内報への思いや組織づくりへのこだわりを伺いました。

発注者のための「建築マネジメント」のプロとして

― まずは、貴社の事業について教えてください。

私たち山下PMCは、建築における「プロジェクトマネジメント」や「コンストラクションマネジメント」を専門とする、発注者の支援を行う会社です。建築というのは、非常に大きな投資であり失敗が許されないもの。だからこそ、その意思決定の場に、発注者の立場で並走する専門家として私たちが関わることで、プロジェクトの成功に貢献しています。この分野は1990年前後、米国の要請による建設市場の開放をきっかけに日本に入ってきた概念です。当社はその流れの初期に設立した業界の草分けで、日本の商習慣に適した独自のマネジメント手法を築いてきました。最近の実績で言えば、北海道の「エスコンフィールドHOKKAIDO」、京都の「バンヤンツリー・東山京都」、千葉の「LaLa arena TOKYO-BAY」、そして「EXPO2025大阪・関西万博」など、結果的に大規模な施設が多いのですが大小かかわらず多くのプロジェクトに携わっています。

社内報の原点。コロナ禍と“つながり”への危機感

― 社内報を立ち上げたきっかけは?

それは明確に、コロナ禍です。
最初の緊急事態宣言のとき、私は「今すぐ立ち上げて」と広報に伝えました。もともと当社は在宅勤務でも仕事ができる体制は整えていましたし、実際に業務そのものは問題なく回っていたと思います。でも、時間が経つにつれて、ただ業務をこなすことと、人がきちんとつながっていることは別だということに気づいていきました。誰がどこの部署で、何の仕事をしているのか?がわからない状態が続くと、特に若手の成長が鈍化してしまう—それに危機感を覚えました。

オフィスで誰かがアドバイスされている姿、成功した事例、ちょっとした工夫。そういったことは、言葉で教えられる前に、まず「気配」で学んでいくものです。 そういう「気配」を共有するには、社内報が最適だと思ったのです。誰か一人の経験や気づきを、組織全体の共有知として広げていく。私は今も変わらず、それが社内報の最大の役割だと思っています。

株式会社山下PMC様 代表 丸山優子さん

「たぶん社内報推進者としては、私が一番熱量を持っているんじゃないかと思います」

 

新卒社員が担う理由。OJTと「伝わる」編集視点の両立

― 社内報の企画・編集を新卒社員が担当するユニークな体制には、どのような意図があるのでしょうか?

これには、大きく二つの意味があります。そもそも「新卒社員に担当させてみよう」と最初に言い出したのは私です。さまざまな意見がありましたが、今でも「やってよかった」と思っています。

まず一つは、新卒社員の育成です。
これはOJTの一環だと考えています。
新卒社員は、社内のことを何も知らないからこそ、一番吸収力があるし、どんな質問をしても怒られませんよね。だからこそ、「先輩に顔を覚えてもらう」「上司や先輩の仕事を知る」という最初のステップとして、社内報担当がとても有効です。 彼らは原稿依頼のお願いもしなくてはいけないし、納期管理もしなくてはいけない。役員や幹部にも原稿を依頼し、スケジュールに間に合うように動かす。まさにそれは私たちの本業であるプロジェクトマネジメントそのものです。

もう一つは、「伝える」と「伝わる」は違うということ。
私自身も、発信するときはそこをすごく意識しているんですが、伝えようと思ってもうまく伝わらないことってありますよね。じゃあ、どうすればいいか? それは「一番わかっていない人」が書き手になることだと思ったんです。新卒社員は、社内で一番知識がない存在です。だからこそ、わからなければ書けないし、理解しようとする力が働く。 それに、新卒社員に「原稿をください」って頼まれて断れる大人はいませんよね(笑)。広報担当から言われるよりも、みんなちゃんと協力してくれる。そうやって、新人を起点に組織全体がやさしくなる循環も生まれます。

広報誌作戦会議中の様子
「週に一度は、広報誌作戦会議をしています」。社内報担当の葉佐さん(右)と太田さん(左)。今日は社長も参加。

 

伝える文化の中心に。“まるちゃん日記”が目指すもの

―社内報の中で社長自らが発信する“まるちゃん日記”について、教えてください。

私は「コミュニケーション力とは“伝える力”ではなく“聞く力”だ」と考えています。相手が何を言おうとしているのか、その行間や背景も含めて感じ取ることができなければ、こちらから本当に伝えるべき言葉なんて出てこないと思っているんです。「まるちゃん日記」でも、できる限り“社員が今、聞きたいと思っていること”にアプローチしたいという気持ちで書いています。「まるちゃん日記」というタイトルは、当時の新卒社員が提案してきたもので、最初は「ちょっと砕けすぎじゃない?」って驚きました(笑)。でも、逆にそのフレンドリーさが気に入って、「変えなくていいよ」と今に至っています。

最初の2号くらいまでは私が原稿を口頭で伝えて、新入社員に文章にしてもらっていましたが、その後は、企画から執筆・画像作成まで自ら手がけています。誰かに代筆してもらうより、自分で伝える方が「伝わる」と感じたからです。社員から「読みました」と声をかけられるだけでも嬉しく、内容のすべてが伝わらなくても“会話のきっかけ”になることに価値を感じています。

社内報には「プロジェクトNow」や「休日何してた?」などさまざまなコーナーがありますが、その中で、新婚旅行の報告や、新卒社員の同期同士のランチレポートなどを見かけると嬉しくなります。そうしたプライベートや個性が自然に垣間見える“ウェット”な一面が現れることは、社員同士の理解やつながりを育むうえで、とても良い傾向だと感じます。

まるちゃん日記
「まるちゃん日記」では、プロジェクトレポートから女子会報告まで話題いろいろ。

 

成長と経営。社内報が“人の力”を引き出す

― 社内報を続ける中で、組織や経営にどのような変化があったと感じますか?

私たちの仕事は、人がすべてです。プロジェクトマネジメントというコンサルティングの要素を持つ仕事においては、ある意味で“社員そのものが商品”とも言えるんですね。だからこそ、人材をどう育てていくか、どう生かしていくかが、経営そのものと直結していると考えています。

昔のように、先輩から後輩へ自然に引き継がれる“徒弟制度”的な育成が難しい今の時代において、社内報のような仕組みが、経験値や価値観の共有手段として大きな役割を果たしてくれていると感じます。 また、コミュニケーションの面でも、社内報を通じて社員同士のつながりが生まれ、社員が自ら“誰かに伝える”という経験を持つことで、個々の成長意識が芽生えていく。それが結果的に、会社全体の成長にもつながっていると思います。

私はいつも、「社員一人一人の成長なくして、会社の成長はない」と言っているんですが、その意味でも社内報は単なる情報ツールではなく、経営と人材をつなぐ重要な機能を担っていると感じています。

もっとインタラクティブに。「伝える」から「伝え合う」へ

― 今後、社内報をどのように育てていきたいと考えていますか?

“伝え合う”場へと進化させることです。 現在は、さまざまな視点からの発信が増えたとはいえ、まだ「伝える」が中心。それが“伝え合う”に変わったとき、今は想像もできないような価値が生まれるんじゃないでしょうか。 もちろん、多少のリスクや難しさはあるかもしれません。でも、リアルな場でも同じこと。 だからこそ、社内の安全な環境の中で、もっと自由に意見や反応が返ってくるような仕組みができれば、それは社員の人間力や発信力を育てることにもつながっていくはず。

私自身にとっても、社員からのリアクションがもっと聞こえるようになれば、自分を見つめ直す機会にもなるし、次に伝えるべき言葉を、もっと深く考えるきっかけにもなると思います。だから、今後の課題も可能性も、すべては「どうインタラクティブにしていくか」に集約されている気がします。

 

― 社内報以外にも、インターナルコミュニケーションの観点で工夫されている取り組みがあれば、ぜひ教えてください。

部署や世代を超えて誕生月の社員が集まる「誕生月会」や、社長も顔を出す部内懇親会など、あえて“形式にとらわれない交流の場”。あと、全社員が一堂に会する期末のパーティーでは、「ありがとう」と「お疲れ様」を直接伝え合い、組織の節目を丁寧に共有します。 また、年に一度の500人規模のお客様やパートナーとの交流パーティーでは、社員が力を合わせて準備を行い、一人一人が“会社の顔”として社外の方々をおもてなしする経験を積んでいます。

こうしたコミュニケーションは“場”の力によって育まれる部分も大きく、オフィスにもそれを反映させています。ワンフロアで全体が見渡せる執務空間や、立ち話もできる図書エリア、自然と人が集まるカフェスペースなど、日常の中で声をかけやすい空間にしています。 一つ一つの取り組みや場づくりは、組織の風通しを保ち、安心して意見が言い合える環境を育てる“経営の礎”でもあると感じています。

ランチマップ
カフェスペースの壁に並ぶランチマップ。
写真の裏には二次元コードが仕込まれ、社内報の記事が読める遊び心ある仕掛けに。

 

会社の規模が変わっても、守るべき“あり方”がある

― 最後に、会社の成長とともに変わっていく部分と、変わらず守っていきたい「核」についてお聞かせください。

物理的には、当然変わらざるを得ない部分があると思っています。 50人の会社と500人の会社が、同じやり方でコミュニケーションを取れるわけがない。けれど、「同じあり方」を目指すことはできます。

私自身、社員数20名ほどの頃からこの会社にいます。その頃とはもちろん環境もやり方も違いますが、会社全体のコミュニケーションの「あり方」そのものは、決して失ってはいけない。その「あり方」と言うのは、社員同士の距離感や風通しの良さです。 仮にそれが失われてしまったら、会社は崩壊……いえ、瓦解していくと思っています。

どんなに組織が大きくなっても、会社のDNA、そして一番大切にすべき価値観や理念は変わらないはずです。 一言で言えば、私たちの核は「心理的安全性」。 「まるちゃん日記」をあえて自分で書くのも、ハードルを下げたいから。 誰でも自由に発言できて、意見を交わせる文化を、これからも守り続けたいと思っています。

インタビューを受けた代表と社員2名
風通しの良さと丁寧なコミュニケーションを大切にする山下PMCらしさが伝わるインタビューでした。ありがとうございました。

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