ITによるBtoB企業の営業・マーケティング支援で、法人営業の新しいスタイルを創造するイノベーション。東京・渋谷にある同社の社内報は、意外にも手づくりの壁新聞です。「トイレでほっこり」をコンセプトとする社内報『いの新聞』が誕生した経緯や、手づくりにこだわる理由、外部の方も利用するトイレや受付に掲出している理由を聞いてみました。
社内報を公開。
お客様に社風を知っていただくことはビジネスに有効
「創業当時、社内報はなかったんですよ。会社が成長し、社内報の必要性を感じたというのもありますが、私はリクルート出身で、リクルートには社内報『かもめ』をはじめ、社内の動きを知りえる情報ツールがいつも身近にありました。そんな文化の中で育ってきたこともあり、社内報はあって当たり前という感覚でした」と代表取締役社長の富田直人さんは語ります。
社内報『いの新聞』が現在のスタイルになったのは、今から約5年前。以前は、事業部からの寄稿やお知らせ中心のスタイルでしたが、ある社員が社内報改革の旗を揚げ、「待ち」ではなく「攻め」の社内報へと舵を切ったそうです。
現在は、その改革者・初代編集長から数えて8代目編集長の、吉河夏美さんがバトンを受け継ぎ、3名の新聞局員と月刊『いの新聞』を制作しています。
社内報を公開しお客様の目にも触れさせることに、そもそもどのような意図があるのでしょう。富田社長によると「お客様や学生さんをはじめ、私たちのさまざまなステークホルダーに対して、『イノベーションはこういう会社だ』ということを知っていただきたい。自社の社風や、大切にしているものを共有することで、ビジネスはずっとスムーズになる」というのも理由の一つだそう。
実際、お客様との会話で『いの新聞』が話題にのぼることは少なくありません。「株式会社フィックスターズさんなどは『こんな新聞を自社でも作りたい』とおっしゃって、社長と広報担当者がヒアリングに来られて、似たようなものを作られています」と教えてくださったように、社外からも熱い視線が注がれています。
ここまで存在価値を高めている『いの新聞』の編集部について、富田社長はこのように語られます。
「普段、新聞局員たちに面と向かっては言いませんが、月末になると相当大変そうな様子も見て取れますし、本当によくやってくれています。私自身も『いの新聞』から多くの情報をもらっています。『いの新聞』に対する注文はまったくないですね。強いて言えば、他の業務も担当しながらなので、ここまで力を入れてもらっていいのかな? というのが一つ。もう一つは、『いの新聞』は公開媒体なので、今後は非公開の情報を扱う別媒体を考えなければならないことでしょうね」。
社内報制作を“仕事”ととらえるか?
トップと編集長、見解の違い
トップの理解がある社内報は、編集部にとって確かに作りやすいもの。とは言え、編集長の吉河さんは、トップの顔色をうかがいながら制作にあたることはしないと言います。「富田は社内報制作を“仕事”と言いますが、私たちは社内報づくりを“仕事”としてとらえていません。“仕事”と位置づければ、情報の選択も変わってきます。仕事と考えずに、私たちが伝えたいと思うことを発信しています」と言い切る言葉は力強く、これが前編集長から受け継いだDNAでもあると伝わります。
「私が編集長になる以前、当時の編集長から、『いの新聞』は読んでもらう人に楽しんでもらうことも大事だけど、それだけではなく、作り手の私たちが心から楽しいと思うものを作らなければいけない、という話を繰り返し聞いていました」。
初代・2代目とも社内報に対する情熱は並々ならぬもので、モチベーションも高かったとか。そんな姿を傍らで見ていた吉河さんが半年前に編集長に任命されたとき、「私は彼女たちのように高いモチベーションを保てるのだろうか」と自問自答しました。また、「社内報編集長の仕事とは何か?」と考えに考え抜いたそうです。他社の社内報担当者がどのように編集にあたっているかを探り、たどり着いた一つの共通点が「会社を良くするホスピタリティー精神でした」と語ります。
自分なりの答えを見出した吉河さんは、編集長として自覚を確立し、毎月社内の情報を血眼になって集め、局員の何倍もの記事を担当。編集会議では局員たちとストレートに意見を交わしています。
局員の一人であり、社内では文化専任 担当者でもある鴨志田 愛さんは、「編集長からはいろいろ指摘を受けます」と笑います。「私はレイアウトが苦手。なので、制作紙面のパワーポイントにも『色がない』と言われます。担当する記事にユーモアを入れて、やわらかく作りあげても『そこでそのユーモア、いらないよね』と言われるんです(笑)」。
「えっ、そこまで?」という話だが、率直に意見を交わすからこそ進化のスピードは速く、「最近はユーモアも上手くなってきたんですよ」と、吉河さんは後輩の成長をうれしそうに話してくれました。
日常的なインナーコミュニケーション施策から全社イベントまで
「カルチャープランナー」という肩書をもつ鴨志田さんに、『いの新聞』以外の、文化・風土について代表的なものを挙げてもらいました。
●朝会
毎朝業務が始まる前に、全社員が集まり挨拶や理念の唱和を行います。月曜日には別の社員の他己紹介をする「いのプレ」も。日頃接点のない人同士をペアにすることで、新しいコミュニケーションが生まれます。
●書き初め
年始に社員全員で書き初めをします。個人、団体戦とあり、それぞれに優秀賞・最優秀賞が贈られます。壁一面に張り出された作品群は圧巻です。
最後に『いの新聞』の抱負についてうかがうと、鴨志田さんは「うちの社員は、みんな真面目で、ちょっとシャイ。本当は話したいけど、ちょっとためらってしまう人たちが、自然に話しやすいきっかけを提供していきたいです」。
編集長の吉河さんは「私は負けず嫌いで、編集長が吉河になって質が落ちたとは言われたくない気持ちもありますが、一方で、ハードルを上げすぎないことも大事」と言います。その理由は、ハードルを上げすぎてしまうと、次にバトンを受けとった人に苦労をかけてしまうから。
そんな吉河さんの思いもあって『いの新聞』は、誰もが業務で使い慣れているパワーポイントで制作しています。「イラストレーターを使えば、制作は楽になりますが、そうすると扱える人が限られてしまいます。誰もが気楽にできるようにしておきたいんです。だから、私が編集長を務めている間は、パワーポイントで作っていきます」ときっぱり。誌面に関しても「かっこよすぎるものは目指してないし、どこか抜けているな、かっこ悪いなというところも残しておく」とつけ加えます。
『いの新聞』は、一見派手なデザインに目を奪われますが、その中身には会社への提言があり、仲間たちへの問いかけもあり、問題提起も忘れていません。これからも『いの新聞』は、社長から社員までみんながまだ気づいていない会社や仲間の良いところを発掘し、楽しく発信し続け、親しまれ続けていくことでしょう。