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「変える!」を有言実行。日本一の広報紙に(埼玉県入間郡三芳町『広報みよし』)

今では全国広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞し、埼玉県広報コンクールでも毎回入賞している『広報みよし』。以前とがらっと変わった要因は、「読まれない広報紙を変えたい!」「三芳町の魅力をもっと伝えたい!」という担当者の強い意思と実行力でした。その改革のプロセスや取り組みをご紹介します。

佐久間智之さん

  (埼玉県入間郡三芳町 秘書広報室 佐久間智之さん)

ゴミ箱行きを阻止したい! 公募の広報担当に志願

 行政の広報紙というと、地域の情報が羅列されているだけの「つまらない冊子」と感じる方は多いと思います。中にはまったく読まずに捨ててしまう、という人もいるのではないでしょうか。

 わが町・埼玉県三芳町が町政以来発行している『広報みよし』も、そうしたイメージに違わない冊子でした。毎月1回きちんと出してはいるものの、発行することだけが目的といっても過言ではないほど平凡な作り。有益な情報がいっぱい載っているのに、「惹き付ける要素」がないために目を通してもらえないという存在でした。他部署にいる私が広報誌に感じていたのは、「もったいない」と「税金の無駄遣い」。そしていつかチャンスがあれば、「自分が変えたい」と思っていたのです。

 そんな私にチャンスが巡ってきたのは2011年。春に就任した新町長が町のPRに力を入れることになり、広報担当を公募することになったのです。それに真っ先に手を挙げた私は、町長に「広報紙を改革したい」と熱く訴えました。

 思いが通じたのか、晴れて広報担当になった私が最初に取り組んだのは、発行目的と編集方針を明確にすることでした。そうして考えた結果、目的は「住民に三芳町の魅力を伝え、新しい発見をしてもらうこと」、編集方針は「住民にとって面白いものを作ること」に設定したのです。さらにもう一歩進んで、「誰が読んでも面白いもの」「コミュニケーションがとれるもの」を作りたい、という気持ちもありました。

ターゲットは若い世代、読者を笑顔にする誌面へ

 それらのコンセプトに従って、大きく変えたのがターゲットです。高齢者から若い世代に舵を切ったのです。住民に魅力を伝えるにも、まずは読んでもらう人(分母)を増やさないことには始まらないのですが、時間に余裕のある高齢者はすでに読者。アプローチすべき層は、忙しい若い世代だからです。

 そのための手段として、ビジュアルを強化することにしました。写真を増やし、その分文字を減らす。表紙にインパクトのある写真を大きく使う。パステルカラーのような柔らかいトーンで親しみやすい印象を与える、といったことです。翌年にはフルカラー化にも踏み切りました。また市販の雑誌を真似て、巻頭に特集を組むようにしたのもポイントです。ここで取り上げることは、町の魅力として皆さんに知ってもらいたいこと。特集という形で強調することにより、訴求力を高めることが狙いです。

 他に「面白い」と感じさせるための要素として、住民を多く載せるようにしました。こだわったのは、彼らが全員笑顔なこと。そうすれば、必ず楽しい誌面になるし、住民同士のコミュニケーションにもつながると思ったのです。

広報みよしからMIYOSHIへのBefore&After

一から学び、1人で制作。タスク管理で残業もなし!

 こうした改革のアイデアは、以前から密かに温めていたこともあり次々浮かぶのですが、実現するのに自信があったかと問われれば、答えは「ノー」です。それまで編集制作物を作った経験は皆無ですし、文章を書くのも苦手なら、デザインソフトの使い方も分からない。カメラもコンパクトデジカメを普通に扱える程度。つまり、まったくの素人だったのです。

 けれど、生来が負けず嫌いな性格。せっかく望みが叶ったのだから、何としてもやり遂げようと、業務に必要な知識については、一から独学で勉強しました。

 製作に関しては、年間の製作費を抑えるためにも、撮影、取材から原稿書き、デザインまで、すべて私1人でやっています。そのように人に伝えるととても驚かれるのですが、若い頃はバンドをやっていたぐらいでクリエイティブなことがもともと好きだったのに加え、これまで窓口業務や電話応対を通じて住民とやりとりする機会が多かったのでコミュニケーション力が自然と鍛えられたのか、苦労と感じることはあまりなかったです。

 『広報みよし』は、毎号32ページあるので大変なのは確かですが、1日、1カ月、年単位に細分化したタスク管理で、残業もほとんどしません。子供がまだ小さいので、できるだけ定時で帰って育児や家事も分担したいですし、実際にできています。

MIYOSHI 2016年3月号誌面

▲2016年3月号では、障害者差別解消法を前に、障がいをもつ方との共生をテーマにした特集を組んだ。障がい者の方々の働く「福祉喫茶ハーモニー」の集合写真では一度撮った写真に納得がいかず、ハーモニーに2週間通って働く方々とコミュニケーションをとり、ようやく笑顔の写真を撮ることができた

MIYOSHI 2016年6月号誌面

▲2016年6月号はホタルが舞う三芳町竹間沢を特集。ホタルは竹間沢農地環境保全協議会が育成している。協議会のボランティアのみなさんの取り組みや思いを紹介。この特集の表紙では、ホタルを撮影するのに5時間粘った。その効果か、ホタルの見学に1日1,300人が来たことも

変化には痛みもあれど、支持率は堅実に上昇

 では、スムーズに改革が進んだかというと、決してそうではありません。特に最初の頃は、反発も大きかったです。たとえば、一番初めに誌名ロゴを「みよし」から「Miyoshi」に変えたのですが、そのときの反応は予想をはるかに超えるものでした。ローマ字が気取った印象を与えたようで、年配の読者から苦情の電話が殺到したのです。写真に響かないよう綴り用のパンチ穴をなくしたことも、反発を受けましたね。加えて、周囲との軋轢もありました。例えば、私の改革のスピードについていけないと苦言を浴びせられたり、内部の理解を得るのに時間がかかったり……。同時に、孤立感、孤独感を感じていました。

 こうした出来事に落ち込まなかったといえば嘘になりますが、自分には「もっと良くしたい」という信念があったので、とにかく毎号の制作に奔走していました。

 それに、ターゲットである若年層からの反応は良かったので気分的には明るかったですね。号を重ねるごとに評判もどんどん上がり、そのうち反発していた方々からも「いいね」と言われるようになりました。注目度がぐんと上がったのは、2014年に三芳町出身のタレント・吉澤ひとみさんに三芳町広報大使をお願いし、表紙はもちろん中面にも度々ご登場いただくようになったのも大きな要因。おかげで最近は、在庫がない状況が続いています。

MIYOSHI 表紙   MIYOSHI 表紙MIYOSHI 表紙

▲表紙はできるだけ人を登場させ、毎回工夫をこらしている

広報日本一を機に、取材や講演依頼が殺到

 2015年には、全国の自治体を対象にした広報コンクールで優勝する、という栄誉にもあずかりました。「画期的な広報紙」とメディアに取り上げられることも増え、それを見た全国の方々から取り寄せの要望も多くあります。昔は捨てられていた広報紙が、今では住民でない方々からも「ほしい」と言われるまでになったのですからおどろきです。

 私自身は、ただただ楽しんで仕事をしていただけなのに、本当にありがたいことです。私はよく仕事を、「たのしごと」だと表現するのですが、これからもずっと楽しく仕事をすることが一番の目標です。作り手が楽しんでいないと、読み手を楽しませることはできないですからね。また、読んだ方々からの手紙もたくさんいただきます。私は広報紙をラブレターだと思って作っているのですが、その返事が返ってくるのですから、これほどうれしいことはありません。

 認知度が上がるにつれ講演をする機会も多くいただくようになりましたが、そこでよく話すのは、「広報紙を見て住民が変わると、町が変わる(地域が活性化する)」ということと、「広報紙作りの醍醐味は、2つのファンを作ること」だということです。読者に町を楽しんでもらい(FUN)、町のファン(FAN)になってもらう。それが広報紙本来の目的だと思うのです。

全国広報コンクール結果

ダイヤの原石を磨いて、「トカイナカ」を全国区に

 『広報みよし』では、キャッチコピーにも力を入れていますが、その中で私自身特に気に入っているものに「トカイナカ」というのがあります。三芳町は都心に近いのに自然が豊かでとても素敵な田舎町です。それを端的に表せているのでは、と自画自賛しています。

 今後もこの町からダイヤの原石を掘り起こして、内外に発信していきたいですね。どこの町でもそうですが、住民が知らない宝は、まだまだいっぱい潜んでいると思います。住んでいる人にはありふれて見えるものが、違う視点から見ると宝というケースも大いにあり得ることです。

 さらには、「地域の活性化」という部分をもう少し突き詰め、住民の行動につなげるような誌面にしていきたいですね。ただ情報を知っただけで終わらせず、得た情報から行動に移してもらえるような、そんな企画がたくさん作れたら、と思っています。

 

佐久間さん

Profile:佐久間智之 『広報みよし』への広告や、シティプロモーションのためのイベントへの協力など、交渉ごとも佐久間さんの担当。できるだけ町の税金を使わないように、WIN-WINになる企画を提案し協力を得ている。背景の三芳町のパネルも佐久間さんのお手製。A3コピー用紙にプリントし、全て貼りつけたとか。表紙の写真もすべて自分で撮影。1人で何役もこなすスーパー編集者

 

※『コミサポプラス』2016年8月号より転載

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